生配信2 次の日

 昨日、サキサキさんのTwitterアカウントから、俺のアカウント宛にDMが届いていた。


 そのことに気がついたのは、寝る直前。


 深夜3時に驚いて「うそおおお」と大きな声で叫んでしまった。


 俺の叫び声に駆けつけた聡太さんの焦った顔、あれは………笑ってはいけない。


 そんな話は置いといて、寝る前に聡太さんと相談をし、コラボすることにした。


 サキサキさんこと、佐々木美玲さんは30万人配信者だ。その恩恵に縋るしかない。


 目指せ、20万人だ。


 返信は夜遅かったため、まだ送ってない。今、朝の9時。そろそろ送っても大丈夫だろう。


『おはようございます。滝チャンネルの滝こと滝田遼平です。コラボのお誘いありがとうございます。佐々木さんのような配信者にお誘いいただき光栄です。こちらこそよろしくお願いします』


 こんな感じでいいだろう。送信っと!


 そう言えば、コラボ配信はぶっつけ本番で行うのだろうか? それとも事前に打ち合わせするのだろうか?


 分からないので分かる奴に聞いてみよう。幸い、サキサキさんとコラボした人が横の部屋で寝ている。起こすのは悪いと思うが、俺の緊急事態だ。致し方ない。


「おーきーて!」


「うぐっ」


 年甲斐にもなく、寝ている人に向かってダイブしてしまった。でも、目的の起こすことは出来たので良しとする。


 さて、起きたので訊いてみるか。


「聡太さんに質問なんですけど、サキサキさんって配信の下準備とかって入念にする派ですか? それともぶっつけ派ですか?」


「入念派。しかも、お前と同じでキッチリ入念に打ち合わせとかする。てか、重い。退け」


 言われた通り、聡太さんの上から退く。聞きたいことは聞けたので、視線はスマホへ向ける。


『明後日の予定について聞きたいのですが、何時ぐらいから配信を開始しますか? 私は、いつでも構いません。また打ち合わせをしたいのですが、いつの何時ごろ、予定の方空いていますか?』


 返信を待つ間に、朝ごはんを作ってしまおう。


 冷蔵庫の中は、うんん………ない。調味料などはあるが材料がほとんど無い。この冷蔵庫で作れる料理は、オムライスぐらいかな。

 オムライスでいいか。


 冷凍された米に卵、ケチャップを用意。


 さて、作るか!


………

……


「よし、出来た」


 味よし、形よし。


 出来上がったオムライスを2つ分、居間のテーブルに持っていく。


「おお、美味しそうだな! いただきます」


「はいはい、どうぞ」


 聡太さんの前にオムライスを置くと、ガツガツと食べ始める。


 じゃあ、俺も食べますか。


 オムライスにスプーンを入れようとしたら、スマホが鳴った。


「ん? サキサキさんかな」


 スプーンを置き、スマホを見る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『お返事、また急なコラボ配信を受け入れてくれてありがとうございます。明後日の配信に向けての打ち合わせをしたいのですが、今日の13時ごろは大丈夫でしょうか?』


『はい、今日の13時ごろ大丈夫です。打ち合わせは会って行いますか、それとも電話かこのままDMで行いますか?』


『会って行いたいです』


『了解しました。じゃあ、13時に池袋の○○でどうでしょうか?』


『13時に○○ですね。お互いの特徴とか伝えといたほうがいいでしょうか?』


『いえ、聡太さんを連れて行くので、大丈夫だと思います』


『了解しました。では、13時に』


『では、13時に』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 佐々木さんから返信に返事をする。


 約束の時間まであと4時間。まだまだ余裕がある。家に帰るか迷ったが、帰らない事にした。このまま、聡太さんを連れて約束の場所に向かう。


 打ち合わせの約束が終わり、じゃあ自分も朝ごはんをと、スプーンを持ちオムライスを見ると、半分なくなっていた。


「………」


 俺は一切口をつけてない。犯人はただ1人。


 しれっとした顔で、モグモグと口を動かす聡太さん。


「食ったな、この野郎!」


 スプーンを机の上に置き、飛びかかる。


「ちょ、ちょっと止めろ! 食わなかったお前が悪い」


 食の恨みは怖い、というが全くその通り。許さん、こいつだけは。


………

……


 半オムライスを食べた俺と疲れ果てている聡太さんは今、池袋にいる。待ち合わせの時間まで1時間あるが、何とか潰せるだろう。


 服は聡太さんのを借りている。似合うか似合わないかで言うと、似合わない。なんか俺の雰囲気に合わないっていうか、聡太さんのようなイケメンが着たら似合うのだろうが、地味面の俺が着てもって感じ。


 まあ、顔の話は置いといて、


「ゲーセンでも行きますか?」


「そうだな。ついでにどっか寄ってゲームでも買おうかな」


「了解です」


 時間潰しのためにあちこちぶらつく。


 クレーンゲームでぬいぐるみを取り、シューティングゲームでスコアを競ったりと、色々なゲームで遊んだ。


 ある程度遊んだら次は、ゲームを見に行く。


 新作や準新作、準々新作など最近出たばかりのソフトが多く並んでいて、買う気がなかった俺でも「何を買おうかな」と呟いてしまうほど品揃えが良かった。


 んん、これも良いし、あれも良い。買っちゃおうかな、でも昨日も買ったばっかなんだよな。


 良いゲームを見つけてしまうと、手が出そうになる。そんでもって配信のことを考えてしまう。これはもう職業病だな。


 なんて心の中で思いつつ、周りを見る。


「聡太さん?」


 一緒にゲームを見ていたはずの聡太さんがいない。


 もしや、これは………迷子かな。


 仕方ない、ゲームを買うついでに、迷子センターかサービスカウンターに行って、店内放送かけてもらおう。

 

 ゲームを片手にレジまで進む。昨日と今日で新しいゲームソフトが5作品。当分、買うのは止めよう。


 お会計が終わり、サービスカウンターの前を通ると、見覚えのある後ろ姿が1人。その横には見覚えのない後ろ姿がもう1人いた。性別は、見覚えのある方が男性で、見覚えのない方が女性。


 もし、人違いだったら怖いので、こっそり近づく。


「……で、……が………です」


 男性の方が何か話している。少しお店が騒がしく聞き取れない。


 もっと近づいて、


「はい、社会人になっても迷子になるやつはいるようで、恥ずかしい限りです。名前は滝田りょ「ふん!」うぐっ」


 渾身の右フックが男の脇腹に突き刺さる。男は地面に膝をつき、プルプルと小刻みに震え、頑張って息をしようとしていた。


「人がいない間に何悪さしてんですか、聡太さん。スマホありますよね? 連絡すれば良かったのでは?」


「そ、そう言えば、す、スマホが、あったな」


 白々しい! この人は面白ければ、なんでもやる男なのだ。今回だって面白そうだから行動に移したに違いない。


 え、俺も同じこと考えてたって? 考えるだけで終わらす俺は優しい方だ!


「本当にすみません」とサービスカウンターの店員さんに謝り、いまだに蹲っている聡太さんに肩を貸す。


「ほら、行きますよ」


「お、おう」


 聡太さんを引きずりながら店内を出る。イケメンが引きずられる絵面は珍妙だったようで、お客さん何人かにガン見された。


 店内を出て、少し座れる場所はないかと目で探していると、俺たちについてきた女性が「こっちにベンチがありますよ」とベンチがある場所まで案内をしてくれる。


 この時、初めてこの女性の顔を直視したが、なんと言えばいいのか、この聡太さんにこの美女あり。ってな感じで、すごい可愛い美女だった。


 ハキハキと喋り、聞き取りやすい声。いい声しているな、と配信者の俺が思うほど、惚れ惚れする声だった。


 彼女の案内について行く。多分、彼女は聡太さんの彼女だろう。流石イケメン、彼女がいるなんてね。………イケメンを恨む我らが同志よ、もう一発殴っとく?


 握り拳を作ったところで、ベンチに到着。チッ、すまん同志諸君。


 ベンチに聡太さんを置き、空いてるスペースに彼女さんを座らせる。


 最初は「いえ、大丈夫です」と彼女さんは断っていたが、俺の押しの方が強かったようで、諦めて座ってくれた。


 ぐったりの聡太さんは喋ることができない。彼女さんと俺は知り合いでもない。空気は重くなるばかり。


 ここで聡太さんを殴ったことを後悔。仕方ない、責任取ってこの空気をどうにかしよう。


「「あの」」

 

 勇気を振り絞って話しかけたのは俺だけでなく、彼女さんの方も。声が重なり、お互いが譲り合う。


 先に話し始めたのは、彼女さんの方だった。


「今日、天気良いですね」

「………」


 現在曇り空。


「曇り空が好きなんですか?」


「いいえ、雨が好きです!」


 ふむ、なるほど、なるほど。


「雨のどこが好きなんですか?」


「音です! ザーザーと降る時の雨の音が好きです」


「なるほど。ちなみに、ポツポツ降る時や霧雨の時のよう無音状態は?」


「あまり好きじゃないですね。ザーザーと勢いよく降るとき以外は好きじゃないです」


「じゃあ、雨はそこまで好きじゃないんじゃないですか?」


「?」


「?」

 

 この人は、不思議ちゃんなのか、天然ちゃんなのかな?


「あ、あと雷が好きです」


「雷ですか?」


「はい! あのどんがらがっしゃんって音。迫力があって好きです」


「分からなくもないですけど、雷にはあまり良い思い出ないんですよね。主に停電とかで」 


 停電でゲームが飛びセーブデータが初期化とか、昔の機種はよくある。あとセーブするのを忘れ、1日の出来が無駄に終わる。


 停電には良い思い出がない。


 このことを話すと、


「思い出した。メタルスライムを倒した経験値が、一瞬にしてパァ。………私も雷嫌い」


 うん、この人おバカだわ。


 天然ちゃん? 不思議ちゃん? いや、おバカちゃん!


「えへへへ」と頭に手を置きながら笑う姿は、おバカちゃんそのもの。


 でも、この笑顔を見たら、何しても何をされても許せそう。


 ちょっとお馬鹿な会話を楽しんでいると、


「佐々木さんはちょっと天然、お馬鹿さんが大半って感じだよな」


「よく言われるんですよ、お母さんとかに」


 ちゃっかり、話に入ってくる聡太さん。それに驚きもしないで会話を続ける佐々木さんはやはり大物だな。

 流石、30万人配信………者? え?


「佐々木さん?」


「はい、佐々木です。佐々木美玲です」


 ………あー、はいはい。なるほど。ちょっと頭の整理が必要ですね。


 うむ、この人が佐々木さんだとは思わなかった。というよりも思えなかった、イメージと違いすぎる。俺のイメージの100倍は可愛いし美人。

 てっきり聡太さんの彼女かと思ってたよ。


 ひとまずここは自己紹介だ。


「ちゃんとした自己紹介はまだでしたね。Takiチャンネルの滝こと滝田遼平です。コラボ配信お誘いいただき、ありがとうございます」


 ちゃんと頭を下げて、お礼する。


 ああ、もちろん、どこにリスナーがいるか分からないので、チャンネル名と本名は小さな声で伝えた。


「ああ、そうですよね。自己紹介が先でしたね。ふぅ、サキサキチャンネルの主、サキサキこと佐々木美玲です。よろしくお願いします」


 ベンチから立ち上がった彼女は、そこそこ大きな声で自己紹介をする。


「「っ!」」


 俺と聡太さんは、とっさに周囲に人がいるか確認。少し離れたところには居たが、多分声までは届いてないと思う。思いたい。


 俺と聡太さんが周りを確認したことで、彼女は自分の失態に気づく。


「す、すみません。不注意でした」


「なんで滝が小声で言ったのか、考えてくれ!」


「身バレしたら、厄介なことになるかもしれませんよ」


 今ここにいる3人は、動画に顔を出してはいない。配信中は声だけだったり、たまに2Dイラストを出す程度だ。なぜ素顔を出さないのかと言われると、理由はそれぞれだが、俺の場合は身バレから住所特定などが怖いから。


 身バレは、まあバレたら仕方ない程度に思っているが、住所がバレるのは勘弁したい。もし、仮に炎上とかして、家に大量のピザやらカレーやらが届いたら怖い。ただただ怖い。


 住所特定できそうな物や事は配信で言わないように気をつけている。

 

 ああ、あとコメント欄で『ブサイク』とか言われたら傷つくから。


 まあ、そんな感じで理由は人それぞれだが、ここにいる俺と聡太さんは身バレを恐れているのだ。

 聡太さんも復活した事だし、この場に留まる理由はない。


 俺たちは何も無かったかように、この場から立ち去る。


 行き先は、待ち合わせの場所。もう3人合流したし、俺と佐々木さんは自己紹介まで済ませた。


 これならお店に入るなり、打ち合わせができるだろう。


 はあ、怖かった。



 


 この後、待ち合わせのお店に着いた俺たちは、席に着くなり、打ち合わせを開始した。

 打ち合わせをしていて気がついたことが1つ。


 配信の事になると、佐々木さんは別人になる。先ほどまでのお馬鹿な振りは嘘かのように、真面目になり、企画の提案や俺のミス、企画の穴を指摘したりする。

 お馬鹿な佐々木さんは可愛い美女だったが、真面目な佐々木さんはクールで仕事ができるカッコいい美女って感じだ。


 このギャップはズルイわ! 見れないリスナーさんが可愛そう。


 そんなことを思いながら、打ち合わせは終盤へと向かって行く。



 


 

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