生配信2 兄弟戦争
「はい、どうも。今日もゲーム配信! 配信者はお馴染みTakiチャンネルの滝と」
「Souちゃんチャンネルの聡太です」
『こんばんは』
『ばんは』
『こんばんは』
23時からの配信が今、始まる。
今日の昼、ご飯を食べ終えた俺達は、聡太さんの家に行く事になった。
急遽、コラボが決まり、企画の内容と打ち合わせなど、配信の準備をしなくてはならなかったからだ。
配信用の機材は、聡太さんが2台持っていたので、それを借りている。
家に配信機材が2台もあるなんて………さすが、30万人に届きそうな配信者。
心の中で聡太さんの凄さを改めて確認し、配信を進めていく。
「コラボするの久々じゃないですか? 2ヶ月前? いやもっと前かな?」
「最後に一緒にゲームしたのは3ヶ月ぐらい前じゃなかったか?」
お互い曖昧で、正確な日時を覚えていない。覚えている人物を挙げるとしたら、それはリスナーさん達だ。
『3ヶ月前』
『3ヶ月前にレインボーシックスシージやってたよ』
『忘れてて草』
流石、リスナーさん達。
「そうそうそう! シージが最後ですよ!」
リスナーさんに言われて思い出す。どうやら聡太さんもコメント欄で言われているようで、
「レインボーシックスが最後か」
俺と同様に言われて思い出した。
『レインボーシックス シージ』--FPS作品の1つ。攻撃5人、防衛5人に分かれて戦う、5対5のチーム戦。的確なエイムとマップや状況にあった戦術・行動が勝利を掴む鍵となる、そんなゲームだ。
なんだか、急にFPS作品がやりたくなってきた。
「そう考えると、連絡取り合ったのも3ヶ月ぐらい前が最後? そんなに期間空いたっけ?」
明日の配信内容はFPSかな、なんて思っていると、聡太さんが訊いてくる。
「多分、そうじゃないっすか」
………うん、多分空いていると思う。
ほとんどの配信者は外に出歩かないし、出掛けるとしたら、ゲームを買いに行くか、食材を買いに行くか、たまに遊びに誘われ行くか程度。
一日中家に篭っている方が多い。
まあ、籠っているからと言って何もしないわけではない。ゲームの練習や操作確認。たまに配信だってする。
………そんな話はまた今度。今は配信中なので次に行きたいと思う。
「さて、始まりの雑談はその辺にしてゲームの紹介をしていこうと思います」
『やっと始まった』
『来たああああ』
配信が始まってもう5分。流石に、リスナーさんからも『配信まだ?』というコメントが雑談中に流れていた。だから、俺は少し強引気味に今日の配信内容についてに話始める。
「今日、聡太さんと一緒にプレイするゲームは、任天堂の代表作。配管工の兄弟が拐われた姫を救出しに行く作品。そう言えばリスナーさん達にも分かるでしょう!」
『マリオ』
『マリオ!』
『どのシリーズ?』
「そう、『NewスーパーマリオブラザーズU デラックス』をプレイします!」
『8888(拍手)』
『いええええい』
拍手でコメント欄が埋まる。
「何もしなくても配信が進んで楽できるよ。滝って使えるな」
……あとで後悔させる。丸投げか無茶振り、どっちがリスナー喜ぶかな。
ふと、この聡太さんが何もしない状況に、聡太さんのリスナーさん達はどう思っているのか気になった俺は、
ちょっと拝見。
横にいる聡太さんの配信画面を覗く。
「あっ、ちょっと」
『滝、便利グッツ』
『滝、使えるなw』
『司会役、ご苦労!』
リスナーさん達も酷いな。
「滝が、お前達のコメント読んだぞ!」
一方、俺のリスナーは、
『話の進め方上手い』
『滝に任せれば大丈夫』
『すんなり進む』
コメントが優しい。
「いいですよ、モノ扱い。傷ついてませんから」
「いやいや、拗ねてる。拗ねてる拗ねてる」
「拗ねてません。傷ついてもいません」
「いやいやいやいやいやいやいや」
「否定すんなし」
実際、リスナーさん達の優しい言葉があるので、他の配信者に流れてるコメントは気にならない。
それよりも、未だにゲームが始まっていないことの方が気になる。ので、配信進行は俺がやる。すぐにでもゲームを開始する。
「じゃあ、配信は俺が進めていきます。ゲーム画面を出してください」
開始から8分間、待機画面。進まない配信で何人が去っていったのだろう。
「ほいよ」と言う聡太さんの言葉が配信に流れる。その言葉の後、すぐにゲーム画面へと変わる。
「リスナーさん、画面変わりました?」
「こっちも大丈夫?」
俺と聡太さんの確認に『変わった』とリスナーの返事。
「「じゃあ、早速プレイを始めましょうか!」」
1Pは俺、2Pは聡太さんで始まる。
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1-1
1Pのマリオ(俺)と2Pのルイージ(聡太さん)は、今ステージ1-1にいる。
「おい。行くぞ、マリオ」
開始早々ルイージが、兄である俺の頭を踏んで先に行く。
「そうだな、ルイージ」
先に行こうとするルイージに追いつき、持ち上げ、そしてクリボーにぶん投げる。
クリボーに接触した、ルイージは死亡。
ルイージを殺したクリボーは、俺がきっちりと踏み倒し、仇を取ってあげる。
「安心して、死んでくれ。弟よ」
後ろからシャボン玉の中にいるルイージが追いかけてくるが、あれは幽霊だ。
死人は生き返らない。なので、1人で普通に1-1をクリアする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし、クリアしたね。次、1-2だ」
「ちょっと、待て」
「え? 何ですか?」
次にステージへとマリオを操作する俺に、聡太さんが待ったをかけた。
何故待ったをかけたのか、全く分からない。
だが多分、今の俺は、すっとぼけた表情をしているだろう。
「何故、ルイージを殺した」
「ちょっと、人聞きの悪いことを言わないでください。マリオは殺してない。殺したのはクリボーです。リスナーさん達も見てたはずだ」
こういう時はリスナーさんに丸投げ。リスナーさんは事実を話してくれる。
俺と聡太さんはお互いの配信画面を見る。正確にはコメント欄だけど。
『確かにクリボーが殺した』
『実行犯クリボー』
『クリボー』
ほら、リスナーさん達は正直だ。あとのコメント欄は『草』『草』『草』『マリオ』『草』『草』と1割ぐらいおかしなコメントがあるが、気にはしない。だって日本は多数派が正義だもん!
どうやら聡太さんの方も俺と同じようなコメントが流れているようだ。
さあ、どう出る。
「クリボー………か」
「クリボーです」
「そうか! じゃあ、次のステージ行こう!」
………なんか怪しい。聡太さん笑顔で怪しすぎる。
「さあ、次、行こう」
マリオとルイージを俺達は操作し、1-2へと進む。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1-2
俺は後ろにいる弟ことルイージに警戒する。
さっきのステージでは、ルイージを投げわざと殺した。
理由?
そんなの決まっているだろう! 頭を踏んだからだ!
弟が、いや、人様の頭を土足で踏みつけるなんてことは、誰であってもしてはならない。
今回は弟が兄である俺の頭を踏んだ。故に、兄である俺が弟に罰を与えたのだ。
だが、事実は変わらない。俺は
ルイージはマリオ《俺》を恨んでいるだろう。殺したいほど。
では、恨みを晴らさせるために、俺は殺されるのか?
………いや、ないな。俺は死なない。死にたくない。殺されてたまるか! そうだ、そうだよ!
ルイージ、俺のために死んでくれ。
1-2は定番。地下迷宮だ。
俺はルイージより早く土管の中に入り、地下迷宮に進む。
先に入った方が有利。亀、亀はどこだ!
目の前にいるのは人喰い花。炎を拭くタイプの人喰い花。
これは使えない。
はっ‼︎
後ろから緑の奴の気配が。そろそろ来るな。
先に進もう。
ルイージが土管から出ててくるのを確認し、俺は進む。
人喰い花の炎をちゃんと回避し、ダッシュで進み、先を急ぐ。
亀。緑亀か赤亀はいないのか?
走りながら探す。
「あ、赤亀!」
やっとやっと見つけた!
亀で……やってやる!
だが、Bダッシュしていたのが仇となる。
「っっ!」
少しジャンプしたつもりが、赤亀を飛び越えてしまったのだ。
しまった!
赤亀がいる所に戻ろうと振り返ると、
「さようなら、兄よ」
赤甲羅を持ったルイージがいた。
「やめ、やめろぉぉぉおおおおお」
1-2のステージはルイージ1人でクリアしたね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「スゥーーーーーーー」
「今のは赤甲羅に殺された。で、いいんだよな」
「まあ、赤甲羅でしょう。今のは」
『仕方ない』
『やり返された』
『赤甲羅だな』
クソゥ、Bダッシュしすぎた! あそこを通り越すとは。
自分のプレイに後悔。あそこで止まっていれば、死んでいたのはルイージだ。
「さあ、次行こうぜ」
目が、目が笑ってない。口角上がりきって良い笑顔なのに、目が!
あれはまた俺を殺そうとしてる。今度こそ、今度こそ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1-3
デラックスの1-3には中ボスがいる。
つまり、中ボスを倒さないとゴールができないのだ。
前のステージではシャボ玉から逃げ、ゴールすれば1人勝ち状態になれた。だが、今度はどうだ? シャボ玉から逃げて、中ボスを倒す? それは難しい。
それに今回のステージは骨のモンスターカラカラのみ。
甲羅で殺すことはできない。殺す手段は、持ち上げて当てるのみ。
ならば。
「ルイージ、一緒にボスを倒そう」
「っ! マ、マリオ」
お互い少しずつ近づき、抱き合う。
「マリオ、一緒にこのステージをクリアしよう」
「ああ。二人で」
作戦通り。殺す手段が1通りなら油断させ、その手段を使うまでよ!
「マリオ、じゃあ進もう」
「ああ、そうだな」
先頭が1番危険だ。後ろから掴まれ、放り投げられる可能性がある。後ろが有利なのは確実。
しかし! ここで、「ルイージ、先に進んで良いよ」なんて言ったら「マリオ、俺を殺す気だな」となり、泥試合が始まる。
だからあえて、最初は前を先行する。あとで入れ替わって、殺す!
俺の作戦を知らないルイージは、俺について来てどんどん進むぜ。
お、前方にカラン。
はははは、作戦は
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「順調か、滝」
「っ! な、何を言ってるんですか、聡太さん」
「目の前にカランがいるな。あそこで俺を殺すつもりだったか? 残念な作戦だな。バレバレだぜ」
そんな、そんなバカな!
「やめてくれ、やめてください。聡太さん、争いは」
聡太さんが操るルイージはマリオを持ち上げて、ぽい。
「マリオおおおおおおおおお」
カランにあたり、呆気なく死亡。
『作戦バレバレ』
『マリオ死亡』
『草』『草』『草』
聡太さんは、そのまま進む。シャボン玉にいるマリオに目もくれずに。
「聡太さん、助けて、助けてください。割って、割ってくださいよ」
「これはもう戦争だよ。俺とお前の」
シャボン玉に近づかず、逃げるように先を進む聡太さん。
「………いいんだな、そんなことして。次からのステージ、どうなるかわからないですよ」
「脅しか。ちっぽけだな」
俺がちっぽけだと!
「交渉決裂、ってことで良いですね」
「元からそのつもりだ」
1-3はまたしても、ルイージ1人でクリアする。
そして、ここから泥プレイが始まる。お互いがお互いを殺すために、手段を選ばず、プレイする。
甲羅の投げ合いはもちろんのこと、穴に叩き落とす、スクロールで嵌める、モンスターに投げつけるなどなど。
プレイ中、相手に何をするか悟られないように、適当な話をしながら、殺し合う。
「昨日、サキサキさんとコラボしたそうですけど、どんな話したんですか」
死ね、赤甲羅!
「そうだな、休日何してるかとか、最近ハマってるゲームはなんですかとか、かな」
投げた赤甲羅を止め、投げ返してくる。
「聡太さんはどんな風に答えたんですか?」
ファイアーフラワーの力で、甲羅を破壊。次の武器を探しに進む。
「最近ハマってるゲームは、FF14かな」
聡太さんも武器を探しに先に進んでいる。
お互い考えることが同じなようで、2人でゴールする時がある。今のように。
「「ちっ」」
『2人とも露骨w』
『協力プレイじゃない』
『でもおもろい』
『こういった配信好き』
コメント欄も盛り上がっているので、配信的にはオーケイ。
次のステージに進もう操作してると、聡太さんが「サキサキさん‼︎」と驚いている。
どうやらサキサキさんが、コメントを送ってきたらしい。
俺も自分に送られてきたコメントをスクロールして過去のコメントを見る。
もちろん、サキサキさんと知り合いではないため、俺のところには送られてない。別に羨ましくなんてない、本当だよ。
「昨日の配信ぶりですね。またコラボお願いします」
軽くコメントに触れ、ゲームに戻ってくる
今度は、亀が多くいるステージ。
「サキサキさん、どんなコメント送ってきたんですか?」
赤甲羅、緑甲羅、緑甲羅の順で投げつける。
「うん、『配信面白いです』だって」
最初に投げた赤甲羅を持ち、他は避ける。そして近づいてくる。
「あの近づかないでください」
「そんなこと言うなよ。友達だろ」
「いやだぁああ。そんな友達嫌だぁぁあ! 殺気が、殺気が溢れてる」
Bダッシュで逃げ出す。
「ほらほら、殺すぞ。殺しちゃうぞ」
「引っかかるぞ。規則に引っかかるぞ。チャンネル、バンされるぞ」
「バンされたらやばいな。はははははははは」
高笑いしながら赤甲羅が俺を襲う。
「ま、マリオおおおおお!」
マリオがルイージに負ける。いや違うな。
プレイヤーが負けの原因だ。すまん、マリオ。聡太さんには勝てん。
3時間の配信ギリギリまで、聡太さんに殺される俺。まあ楽しくプレイできたから良いんだけどね。
「ええ、では、3時間すぎましたので、ここら辺で終わろうと思います。皆さん、ご視聴ありがとうございました」
「アーカイブは、俺と滝両方のチャンネルに残ってますんで、今来た方、また見たい方は、是非そちらを御覧ください」
締め括りの言葉で、配信を終わらす。
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