生配信1 次の日

 23時配信を終えて、寝たのが2時ちょっと過ぎ。

 そして今ーー9時45分に起きた。遅めのおはよう、だ。


 ベットから這い出て、顔を洗う。


「冷てぇ」


 冷水で洗ったので、目はもうぱっちり。


 朝ごはんはあまり食べない派。なので、ゼリー状のエネルギーチャージを1パック食す。


 食後の歯磨きは怠らない。


 さて、朝の準備が終わったところで、今日のことを考える。


 今日はやらなくちゃいけないことがあるのだ。配信のための新しいゲームを何作品か買い、マイクを新調したいから探しにいかなくてはならない。


「……アキバかな」


 ゲームとマイクが売ってそうなところ……思いつくのは秋葉原ぐらい。

 というのも、PCやモニター、キーボード以外の機材は全て秋葉原で買っている。だから、秋葉原の店しか知らないのである。


 行き先も決まった。


 買う物も決まった。


 それじゃあ、


「行きますか」


 いつも引きこもってばかりの俺だが、配信のためとなると身体が勝手に動く。


 早く準備を終わらせ、家を出る。免許証は持っているが車がないため、バスで駅まで行く。

 

 さて、バスはいつ来るかな。


 スマホで検索したところ、家から徒歩5分のバス停に、あと4分後バスが来る。


 …

 ……

 ………ダッ!


 走る。走る、Bダッシュの如く。キノコや亀が出ないためBボタンと横ボタンは押しっぱなしである。


 結果、ギリ間に合う。家を出るのがもう1分遅かったら間に合わなかっただろう。


 息を切らしながらバスに乗り込む。座席に座りたいところだが、一つも空いて無いため、近くのつり革を掴む。


 バスに揺られながら、今日の配信のことを考える。


「………」


 考えている間に、バスは駅へと到着。駅のホームに立ち、電車を待つ。その間も今日の配信について考える。


 時間通りに電車がきて、乗り込む。目的地である秋葉原まで30分近くある。その間も配信について考える。


「………」

 

 秋葉原のホームで人混みに揉まれながらも、今日の配信について考える。


「………………何も思いつかん」


 改札口を出て、人様に邪魔にならないところで呟く。


 ゲーム配信をするのは確定事項。だけど、何のゲームをやるの迷う。


 やりたいゲームがありすぎて困っているのだ。死にゲー作品やクソゲー作品、RPG作品、FPS作品、2夜連続格ゲー作品でもいい。


 20時までには決めなくてはならない。


 どうしたものか。


 秋葉原を歩きながら考える。が、一向に頭が冴えないので、考えは一旦中止。

 目的である、買い物に集中しよう。


 まずはゲーム。ゲームを見に行こう。


 秋葉原に来た際、必ず足を運ぶお店がある。新作や準新作からかなり古いゲームまで置いてあり、ジャンルも豊富。PS4の作品やSwitchの作品、一番古い機種の作品だとゲームキューブの作品が置いてあった。


 何を買おうかな。


 …

 ……

 ………


 ふぅ、いい買い物した! 面白そうなゲーム、4作品も買っちゃったよ。

 しかも、全部あの『テイルズ』シリーズ!


 今日から終わるまで『テイルズ』シリーズを配信して行こうかな。

 でも、リスナーさん達、飽きるかな? どうしようかな?


 ………他に案が出なかったら、企画にしちゃおう。


 目的の1つであるゲームは買ったし、2つ目の目的であるマイクを探しに、ん?


 ヴゥヴゥ。


 ポケットの中でスマホが鳴る。


「誰だろ」


 道の端にずれ、LINE電話に出る。


「お疲れ様です、滝田です」


『おう、お疲れ様。水上だけど、今大丈夫?』


 電話の相手は、水上聡太みずかみそうたからだった。彼も俺と同じく配信者で、何度かコラボしたことのある配信仲間だ。


 配信歴は3年半。登録者数は28万人と羨ましい限りだ。


「はい、大丈夫ですよ」


『今、外にいるだろう。どこにいる?』


おや、なぜ俺が外にいると知ってる?


「アキバですけど」


『アキバか! 今から向かうわ。昼飯食わず待ってろ!』


「あ、は」


 プツン。ツー、ツー。


 切られた。何のようなんだろう。


 今、時刻は12時半ちょうど。あの人が来るのが、12時40分ちょい過ぎかな? 家近かったはずだし。


 あ、そう言えば、待ち合わせの場所決めるの忘れた。……仕方ない、駅向かうか。


 今俺がいるところから駅まで約10分。時間的にはいい感じなので、歩き始める。

 

 そして、10分後。


 駅の改札口付近に来たが、聡太さんは見当たらない。


「どこいるんだあの人」


 聡太さんの家には何度かお邪魔したことがあるので分かる。家から秋葉原まで10分ぐらいだったはずなのだが。


 LINEで連絡を取ってみる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

LINE


滝田「今、どこですか?」12時42分


水上「まだ電車」12時45分


滝田「?」12時45分


滝田「家から秋葉原まで10分ぐらいですよね」12時45分


水上「俺ん家の最寄りからな」12時46分


水上「でも、今俺ん家の最寄りからじゃなくて、お前の家の最寄りから来てるから、30分くらいかかる」12時46分


滝田「は? 俺ん家」12時46分


水上「そう」12時46分


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なぜに俺ん家?

 

 何しに俺ん家?


 聡太さんも何度も遊びにくるから、俺の家を知っている。たまに連絡なしで泊まりにくることもある。


 またそれか?


 …………聞いてみよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

LINE


滝田「また泊まるんですか?」12時47分


水上「ちゃうちゃう」12時48分


水上「まあ、待ってろって」12時48分


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 マジで何しに来るんだ、あの人。


 最後のLINEから15分後、やっと聡太さんが秋葉原にやってくる。


「よ! 待たせたな」


 片手を上げ、爽やかな笑顔で近づいてくる。


「どうも、相変わらずイケメンですね」


「まあな。相変わらずイケメンだよ」


 かなりムカつく返しだが、言葉通りのイケメンなので反論ができない。しかも身長は高く、何センチあるって言ったっけ? 


 ………185以上あるとか言っていたような気がする。


 長身でイケメンとか存在するのか? 存在するんですよ、ここに。


 顔が整っていて、登録者数も約30万人。殴っていいですか? 殴っていいですよね?


 いつものように僻んでいると、「ほら、行くぞ」と背中を押され、歩かされる。


 聡太さんと歩きながら、たわいもない会話をする。『オススメのゲームは』とか『配信中の事故』とか。中でも、1番盛り上がったのは、聡太さんの話で『昨日のコラボ配信』。


「マジですか! あのサキサキさんとコラボ」


「おうよ、TwitterのでDM《ダイレクトメッセージ》で『コラボしてください』って送ったら『いいですよー』って返ってきて、昨日コラボった」


 サキサキさんとは、ゲーム配信や歌配信などで登録者数を増やしていき、2年足らずで30万人到達した女性配信者だ。

 2年足らずで30万人は、真似できない。


 羨ましい限りだ。


「でさ、昨日の配信でマリカーやったのよ。サキサキさん、めっちゃ弱くて、ずっと勝ってたらむくれちゃって」


 別にサキサキさんが弱いわけではないと俺は思う。この人が強すぎるのだ。サキサキさんのソロ配信を何度か見たことがあるし、聡太さんとコラボしたことがあるので、2人の上手さを知っている俺だから断言して言える、聡太さんは化け物級の上手さなのだ。


 昨日の配信の話をしながら、近くのファミレスに入る。


「サキサキさんってどんな感じの人なんですか?」


 店員さんが案内した席に座り、俺は訊く。


「美人」


「……」


「……」


「いやいや、外見の話じゃなくて! 中身の話。性格とか雰囲気とかもっと何かあるでしょ! コラボしてみての感想とかさ」


 確かに外見は気になるけど、今俺の聞きたい情報はそこじゃない。コラボしてみて、話しやすい人なのかどうか、どんな人と気が合いそうな性格なのか、とか。


 本当にこの人は……話していて疲れる時がある。


「なんだ、そっちか。そうだな、面白い人だと思うよ。感情豊かなんだよな、サキサキさんは」


「悔しいと台パンするくらい」とファミレスの机をトントンと叩く。


 台パンとは、悔しいときや苛立ったとき、あとはノリで机や叩くこと。


 俺の場合は、マナー悪いけどコントローラーを投げ……そんなことはどうでもいいか。


「だからまあ、負かすとおもろい」


 サキサキさんのコラボ配信とか見たことがないから、面白さは分からない。今度見てみよ。


 でも、まあ、


「サキサキさんとのコラボが面白かったのは分かりました。で、話は変わるんですけど、何で俺ん家に来たんですか?」


 俺にとって最大の疑問、この人何しにきたのか。


「その話は昨日の配信が関係してんの」


 なぜに他の人のコラボで俺が関係してくるんだ?


 続きを話せと目で催促する。


「配信の中盤って何話せばいいのか分かんなくなるだろ? 前半に話しすぎると」


「まあ、段取りを考えずに話すとそうなりますな。段取りを」


「俺は話したいときに話す派なの。で、段取りを考えずに話していたら、話すことがなくなって、負けた奴が罰ゲームで暴露するって事になったのよ」


 段取りを考えなかったことは認めるんだな。


「俺にボコボコに負けたサキサキさんは、何個か暴露したの。そのうちの1つに『コラボしたい配信者は?』ていうのがあって、お前の名前が出たの」


「マジか! 本当に聡太さん⁉︎」


「マジのマジ」


 これはめっちゃ嬉しいですね。だって、登録者数30万人の配信者が、俺を知っているってことでしょ!


 はぁぁぁああ! うれしいいぃいぃぃ!


「で、何でそれが俺の家に来た理由につながるの?」


 本題はここだ。今、喜んでいる場合じゃあない。聞かなくてはならないことは聞かなくては。


「んで、お前の名前が出たから、何か、昨日、俺、明日はお前とコラボしたいなぁって思って、今日お前ん家いった」


 つまり、


「今日コラボしようぜ!」


 唐突のコラボ企画に呆れる。普通は前もって予定を立てるものだ。この人は行き当たりばったりな事ばかりする。


 ………ハァー。


「いいですよ、その代わりこの昼ご飯と今日の夜ご飯奢ってくださいね」


「よしゃ、任せろ」と払う気満々の聡太さんをよそに、俺はTwitterを開き、つぶやく。



『今日の配信はSouちゃんチャンネルの聡太さんとコラボ! 何をするかは、お楽しみに^ - ^』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る