第11話 藍色の悪魔と赤髪の剣士⑧

「俺に、騎士学校に入れと?」

「そうなるな」

「馬鹿馬鹿しい。俺が騎士学校という正義の味方になるための学校に入れるわけがないだろう。事実、あんただってさっき俺に死刑を言い渡したじゃないか」

「確かに罪は罪だ。どこかで罰せられなければならない。だが、何も悪が滅びることばかりが裁きではないさ。お前に生きて罪を償うチャンスを与えようと言っているんだ。誰もが納得する方法でな。その方法が、ずっと君を求め続けたお姫様を命がけで守るという使命さ」

 罪を償うか。

 なんかこの男に言いくるめられている感じであまりいい気分ではない。

「何も自分が苦しむことだけが懺悔の道じゃないさ。償いは行動で示せばいい。空いた穴は別のもので埋めるしかないように、犯した罪を償うには正しい行動で償うしかない。この場合正しい行動とは、多くの人が納得をするような方法と言う意味だがね」

「詭弁だな。それこそ俺には死刑しかないだろう。言っておくが俺は騎士意外にも多くの人間を仕事柄殺してきた。はっきり言って、俺が死ぬこと以外誰も許してくれないだろう」

「アスリアを見捨てるつもりか? 昨日の事件もそうだが、アスリアが騎士として戦う中でいつの日か必ず危険が差し迫る。せっかく救った命が、自分が隣にいなかったせいで消えるのは納得いかないだろう?」

「まあ、確かに」

 俺が近くにいれば守れたのに、ここでその話を断ったせいでアスリアが死んだとあっては死刑を受けた後でも化けで出そうだ。

 俺はもう後悔したくない。

 罪を償いたいと思ったのもそう考えたからだ。

「ローグ……」

 俺の近くにアスリアが歩み寄る。

「一緒に居て。お願い」

 当時のあの頃と何も変わわない言葉。

 断りづらい愛おしい声が染みる。

「お、その表情。アスリアのお願いで少しは心変わりしたかな?」

 どうやら少し腑抜けた表情を見せてしまっていたらしい。

「うるさいな」

「ははははははは」

 本当にムカつく男だ。

 しかし、まあ。

 どうせ死刑でも甘んじて受けるつもりではいるほどこの身はどうでもいいと思っている人間だ。それなら、アスリアの力になってあげたいという昨日抱いた、純粋な心に従うのも悪くない。

 マスターには悪いが、お金稼ぎは暇を見つけて続ければいいだろう。別に騎士学校に入ったからって騎士にならなくてもいいのだ。アスリアの身に迫る危険を排除するのが今回の目的なのだから。

 騎士学校に入るのも、罪悪感はあるが悪い気はしない。元々興味があった場所だ。それに内部に入ることによっていろいろと知ることができるというメリットもあるだろう。

 俺にとっても悪くない条件だ。

 しかし、このような旨い話には大体向こうの裏の意図もある。

 俺の疑心を読み取ったのか、騎士長は急に真面目な顔になって俺に言う。

「もちろん条件はある。騎士は戦う人間だ。だが戦うとは、弱肉強食と同義なものだと俺は思っている。勝ったものは強者として、敗北した弱者の肉を食らう。つまり命を奪うということだ。ならよく考えてみろ。騎士はこの世界では正しい存在と言うが、一歩目線を変えれば、ただの虐殺者だ。本当は騎士というのは何の命を奪いに奪いまくる罪深い存在だ」

「随分と自分の職業を卑下するんだな」

「むしろお前はどう考えていたんだ」

「現代の騎士は秩序の番人、そして人々を野生生物や悪人の暴力から守る正義の使者だろう。少なくとも俺だけじゃなく多くの人がそう考えているから、子供たちは騎士になるために毎年この学校に入学しようとしているんじゃないか?」

「なるほど。酷い美化だな。本当に反吐が出るほどの」

「何もそこまで言わなくてもいいだろうに」

「事実だからな。騎士はあくまで戦いのエキスパートであり何者かと戦い殺すものだ。その点ではお前がやっていることと何も変わらない。むしろお前にとっては天職ともいえるんじゃないか?」

「あんた……俺のこと馬鹿にしてるだろ」

「まあな。つまり何が言いたいかと言うと、お前が本当に強いかどうかを測らなければならない。この騎士学校の中で、そしてアスリアと行動するに値する力を持っているかな」

「俺が強いかどうかを測ろうってか」

「ああ。そこで勝てば正式にお前に依頼する。アスリアの味方になってほしいと。待遇は最高だぞ。騎士学校の寮および施設を使い放題。そして騎士学校に所属する間は学費もかからない。安定した暮らしもできる」

「それも魅力的だが、俺が知りたいこと。あんたと俺の親父がどんな関係なのか、そしてマスターとどんな契約をしたのか。そのすべてを教えてもらいたい」

「いいだろう」

 アスリアがなんかとても嬉しそうな顔になっている。

 悪い気はしないが、本当に俺でいいのだろうか。

 いや、どうせ死ぬことになるのなら、やらないよりはやるだけやってみよう。

 それでアスリアが喜んでくれるのならそれでいい。

「分かった。やってみるよ。どうせこのままじゃ死刑なんだろ」

「そうだ」

「なら、後悔しないようにやってみる」

「いいことだ。若者は難しいことを考えずやるだけやってみればいいのさ」




 ――この決断を後悔したことはない。しかしこの時の俺は甘かったと言わざるを得ない。当時を振り返ると俺は本当に甘い覚悟だったと思える。アスリアを守るということがどれほど壮絶な戦いとなるのか、当時の俺は馬鹿だったから分からなかったのだ――

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