貴方じゃないと駄目みたい。

 バーニ達は、後の始末を警察組織に任せて、学校の保健室に移動していた。彼女達は変身を解いて学生の姿に戻っていた。


 ベッドの上には傷ついた狩屋はベッド、岬樹は直美の膝枕の上でそれぞれ眠っている。

「あんた・・・・・・確か、狩屋刑事の妹っていう設定と違うかった?」睦美がカトリーナを見て質問をした。


「いいえ、私は狩屋さんの記憶を、改変したの・・・・・・狩屋さんは元々三人兄妹だったのだけれど、下の妹である瑞希さんは彼女が小学校の時に交通事故で亡くなっているの・・・・・・・私は、その記憶を利用しただけ・・・・・・・」カトリーナは、体に装着していた銀のアプサスを解除していた。


「うっうう・・・・・」狩屋は睦美の腕の中で口を開く。

「ゆっ・・・・・瑞希・・・・・・?」狩屋が瑞希の名を呼んだ。意識は朦朧としているようだったが、明らかにカトリーナを見て名を呼んでいる。

 瑞希の名を呼ぶ狩屋の言葉を聞いて、カトリーナは両手で自分の口を押さえて立ち上がった。カトリーナの頬を一筋の涙が流れた。


「おっ、お兄ちゃん」そう呟いた瞬間、カトリーナの変身が解けて瑞希の姿に戻っていた。瑞希は、睦美に抱かれた狩屋の体に抱きつき泣き続けた。

「カトリーナさん・・・・・・」直美は二人の姿を見つめた。岬樹は直美の膝の上に頭を置いて眠っている。 

 フーとため息をついた後、瑞希はゆっくりと直美を見つめた。


「・・・・・・貴方じゃないと駄目みたい。 ・・・・・・お兄様を・・・・・・、岬樹君を、お願いしてもいいですか? 直美さん」瑞希は、直美に岬樹を託すようにお願いをした。


「・・・・・・瑞希さん」直美は、カトリーナが瑞希として生きていく道を選択したのだと理解した。



「う、・・・・・・うう・・・・・」岬樹も気が付いた様子であった。

「岬樹さん・・・・・・大丈夫!」直美の声に答えるように、岬樹は目を開き、頭の下の心地の良い枕を摩る。 随分とひと肌に近い枕だと思ったが、よく確認すると直美の太ももであった。

 一呼吸置いたあと、目を見開き自分が直美の膝の上に頭を乗せていることに気づき、バーニの瞬間移動のように壁際に飛んで逃げた。

「ああ、俺は何を・・・・・・」あたふたした様子で岬樹は、体を震わせている。 顔は真っ赤で全身の体温はかなり上昇しているようであった。


「なにを、いまさら・・・・・・」五月が呆れたように呟く。

「皆さんは、確か・・・・・・・覇王女学院の・・・・・・どうして、俺は・・・・・・・?」岬樹は気が動転しているようであった。

「なにを、言うてんねん岬樹ちゃん・・・・・・・?」睦美は言いながら、岬樹のオデコにでこピンをした。

「痛っ! 貴方は確か、この前コンタクトレンズを落としていた・・・・・・・」岬樹は睦美の顔を見て思い出したように呟いた。

「お兄様・・・・・・また、記憶が・・・・・・」瑞希は岬樹の顔を怪訝そうに見つめた。

「お、お前は、いつも俺の事をキモイっていう・・・・・・・えっと、なんて、名前だったかな?」岬樹は言いながら首を傾げる。


「岬樹さん・・・・・・・私の事も・・・・・・・」直美は悲しそうな顔で岬樹の顔を見た。

「総持寺直美さん・・・・・・、ですよね!この騒ぎは一体・・・・・・」岬樹は状況が理解出来ない様子で戸惑いの表情を見せている。

「きっと、急激な体への付加で、また記憶が損失したのね」詩織が口を開いた。彼女は部屋の隅に背を持たれながら腕を組んでいる。

「まあ、皆無事やってんから、ええんちゃう。 バーニの記憶なんか別にいらんやろ。 それに・・・・・・・ウチも、岬樹ちゃんにもう一度、アタック出来るしな!」睦美の言葉で、皆がどっと爆笑した。


「そんな~!」直美だけ、悲痛な声を上げた。

 

「睦美が言うとおり、・・・・・・・私たちの活動も、そろそろ潮時のようね」詩織が呟く。 部屋の中にいる、岬樹と眠り続ける狩屋以外はその言葉の意味を理解していた。


「そうね、もうお終いにしましょう」五月の言葉は、彼女達が、もうバーニとしての役割を終えた事を意味していた。


「皆、それぞれの道を進んで行くのよ。やりたい事や、叶えたい夢があるでしょう。」バーニ達は静かに頷いた。


「でも・・・・・・コバヤンは何者やってん?」睦美が唐突に言葉を発した。

「あの人は、人間ではありません。 遠い昔、私達の文明と戦った敵の生き残り・・・・・・、私達と同じように、遺跡の中で眠り続けていたのですが、二百年ほど前に、眠りから覚めて再び、力の復活の機会を狙っていたのです。 バーニの力で不老不死の体を手に入れて・・・・・・」そこまで言って瑞希は岬樹の顔を見た、岬樹はキョトンとした顔でその話を聞いていた。

 全く理解していない様子であった。


「榊君・・・・・・これからも、ヨロシクね」瑞希は岬樹に右手を差し出した。

「お、おう・・・・・・」岬樹は、何がなんだかわからないようであったが、右手を出して握手をしようとした。 が、「やっぱり、キモイ! 榊は・・・・・・!」瑞希は、岬樹が差し出した手をかわして瑞希はアカンベーをした。

「なっ、なんなんだ! お前は!」岬樹は顔を真っ赤にして怒った。


 背を向けた瑞希の目に涙が溢れそうになっている事を、直美は知っていた。

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