メディカル・カプセルの中に

「君達にバーニのことを教えないといけないな・・・・・・」小林先生が口を開いた。


 俺達は、深手の傷を負ったシオリさんの体をマンション一階にある研究所に運び込んだ。

 そして、メディカル・カプセルの中にシオリさんの体をゆっくりと寝かせる。シオリさんの体を収納した後、カプセルの中が青い液体に満たされた。

  この状態で息が出来るのかと不安になったが、シオリさんが気持ち良さそうな顔をしているので俺は少し安心した。


「岬樹さん、ちょっと・・・・・・」直美さんが少し赤い顔をして、俺の服の裾を引いた。 今回は、早期に変身が解けて、俺の体は既に、男の体に戻っていた。

「えっ、何?」俺は、顔を赤らめる直美さんに聞いた。

「なんぼなんでも、シオリの裸をそんなに必死に見んでも・・・・・・・」睦美さんが、直美さんに代わって口を開いた。

 メディカル・カプセルの中のシオリさんは、治療の為、全裸で眠っていた。 俺は、本気で心配していたので、そちらには気が回らなかった。

「いや・・・・・・! すいません、そういう訳では・・・・・・!」俺はドギマギとして、言葉がうまく出なかった。 思い出せば、俺の裸は平気で見ていたのに、今の直美さんは尋常じゃないくらい顔を赤くして下を向いていた。 やはり、直美さんは、あちら側の・・・・・・。

「そんなに、裸が見たいんやったらウチの体、何ぼでも見せたるのに・・・・・・・」言いながら、睦美さんが制服の胸のボタンを外した。


「岬樹お兄ちゃん! 一美が、一美が見せてあげるよ!」一美ちゃんが睦美さんに対抗するように、俺の腕にしがみ付いてきた。 一美ちゃんの胸が腕に当たった。 体は小さいが、十分に柔らかい脹らみが俺の腕に当たる。


「ちょ、ちょっと・・・・・・!」俺は、一美ちゃんを振り払おうとするが、一美ちゃんは強力にしがみ着いており、俺の腕を放さない。


「そんな、幼稚園児みたいな体見ても、誰も興奮せえへんわ! なぁ、岬樹ちゃん!」睦美さんが意地悪そうに言った。 決して、幼稚園児では無いと、俺は思った。

ブッチ! 何かが、切れるような音がした。


「おい、こら! お前、殺すぞ!」声の主は、一美ちゃんだった。

「なんや! いつでもやったるで!」睦美さんは、右手の中指を立て一美ちゃんを挑発した。 この人は、本当に名門、覇王女学院の生徒なのであろうか・・・・・・。

「ちょっと、やめなさい!」言いながら、五月さんと、双葉さんが、二人を羽交い絞めにして止めた。


 ゴホンと大きな咳払いが聞こえる。

「話を進めていいか?」話を中断された、小林先生が少し切れ気味で言った。 睦美さんと、一美さんは互いに反対側を向き、頬を膨らませた。


「気を取り直して・・・・・・バーニ・システムなのだが、実はこのシステムは、亡くなった北島博士でも、もちろん私達が開発したものではないのだ。 遺跡の中から発見された、古代の・・・・・・何者かの技術を引用させていただいたものなのだ」小林先生は話を続ける。

「私達、・・・・・・いや、私の所属していた施設では、何十年も前から、遺跡の研究を続けていた。 それは、皆がよく知っている、土を掘り起こして出てくるような石器や古墳とは異なり、特殊な方法で隠されている物だ。 今回、西高の下に隠された『アプサス』という遺跡は、高電流を地上に流すことにより出現したようだが、遺跡によって出土方法は異なる」この話を聞くのは、睦美さん達も始めてのようで、先ほどまでの喧嘩を忘れて、皆、食い入るように聞いている。


「バーニの技術を発見した時、私達は驚愕した。それは、明らかに人智を超えたもので会った。 私達は歓喜したよ! 昔の神話に出てくる、神々は存在していたのだよ・・・・・・、君達の力は、まさに神の力だ。 昔の神話や、昔話には超人的な力を持った神々が登場するが、それはバーニの力を見た者が、神と崇めて伝承した物語なのだ」小林先生は興奮気味に話し続けた。 俺達は、その迫力に少し圧倒されていた。


「ただ、誰もが遺跡から発掘される力を正しく使うとは、限らないのが現実だ。 私達の組織以外でもバーニの技術を取得した組織があるようだ。 さきほど戦ったという、君達の言うカトリーナというバーニは、多分、そのような組織の人間だろう・・・・・・」小林先生はソファに腰掛け大きく足を上げて両足をクロスした。 彼女は、机の上の灰皿に手を伸ばし自分の目の前に引き寄せた。上着のポケットに手を突っ込み、煙草の箱を取り出した。 そのまま、箱の中から一本の煙草を取りだし吸うのかと思ったが、小林先生は、バランス良く机の上に一本立てた。


「その組織って一体・・・・・・?」五月さんが、皆が当然考えていた疑問を口にした。

「それは、・・・・・・・私にも解らない。 いや、知らない。 それに、組織は一つとは限らない。 中には遺跡の力を悪用しようとする輩もいるかもしれない。 君達は、その者達から遺跡のテクノロジーを守る為に、北島博士と私達が集めたバーニなのだ!」小林先生が、机を力いっぱい拳で叩いた。 その振動で先ほどの煙草がパタリと倒れた。 その煙草を改めて口に咥えて、火を灯した。 大きく煙草の煙を吸い込んだかと思うと、勢いよく吐き出した。 本当においしそうに喫煙するものだと感心した。


「その、遺跡のテクノロジーって、・・・・・・・岬樹さんの体に害は無いのですか?」直美さんが、煙草の味を噛締める小林先生に向かって聞いた。なぜ彼女が俺の体だけを心配してくれたのかは解からない。 直美さんの質問を聞いた瞬間、小林先生の右眉毛がピクッと引きつったような感じがした。

「それは・・・・・・・、心配は無用だ」その言葉に確証を持って言っているとは到底思えない。

 言ってみれば、俺達はモルモットみたいなものであろう。これから、俺達の体に現れるかもしれない副作用については、小林先生も知らないのではないか。 しかし 誰も、それ以上は聞こうとはしなかった。


「さっきのアプサスって鎧は、何なのですか? 変身が解けたら消えましたけど・・・・・・・」

 先ほどまで、俺の体を包んでいたアプサスという金の鎧は、男の体に戻った瞬間、その姿を消した。 それは、空中に溶け込むように拡散していった。


「アプサスは、見えないだけで、今も君の周りを浮遊している。 君が必要とした時には、姿を現す。 アプサスは、鳳凰の鎧。 本来は二つの装着者が対になり、力を最大限に発揮するもの・・・・・・・、だが、敵と味方に別れてしまったのだ・・・・・・・」小林先生は残念そうな顔で呟いた。

「でも、あの銀色のほうを回収して、私が着れば、岬樹お兄ちゃんと協力して戦えるんですね。・・・・・・・恋人みたいに、テヘッ!」一美ちゃんが可愛らしく呟いた。

「なんや・・・・・・、そういうことやったら、ウチが着用するのが筋やな。 岬樹ちゃんとウチは相思相愛やからな」睦美さんが、俺の腕に再び胸を押し付けてくる。 それを見た一美ちゃんが、怒涛の如く睦美さんを引き離そうとした。 俺は、一美ちゃんの頭に、角が生えたような錯覚を覚えた。

「残念だが、一度、アプサスが主人を選んだら、その装着者が死ぬまでは、離れることは無いらしい。 銀のアプサスを手に入れる為には・・・・・・あのカトリーナを抹殺しなければ不可能だ」小林先生は、俺の顔を凝視しながら呟いた。 その受け入れがたい提案を、俺は目を逸らすことで、拒否した。


「ちなみに、今まで私達はアプサスが、本当に存在するのかすら疑問だった。 それでバーニ計画と平行して、アプサスを現代の科学を駆使して作ろうとした。その一つが一騎だった。しかし、システムの制御が出来なくなり、計画は頓挫してしまった・・・・・・」小林先生はそのまま、シオリさんが眠るメディカル・カプセルに目をやった。

  俺もつられてカプセルを見てしまった。 シオリさんの美しい裸体がカプセルの中に浮かんでいた。


「痛っ!」直美さんが俺の二の腕の辺りを、思いっきり抓っていた。

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