二つのアプサス

「なんや、直美ちゃんとは、デートしてウチとは駄目なんか?」睦美が少しムッとした顔で岬樹に詰め寄ってくる。


 直美と岬樹が帰宅すると、鬼のような形相で睦美むつみと一美が食堂の中で待っていた。

「いいえ・・・・・・、そういう訳では・・・・・・」岬樹は睦美の迫力に後ずさりする。


「お兄ちゃんは、今度は一美と出かけましょうねぇ!」一美いつみも普段の五割増しでロリータっぷりをアピールしながら岬樹に擦り寄ってくる。

 その様子を見て、五月さつき双葉ふたばがニヤニヤしている。

「いいな! 岬樹、モテモテで。 俺も相手してくれよ」双葉が腕の力瘤を見せてアピールする。 健康的な見事な力瘤だが、アピールの方法を間違っているようだ。

「私も、いつでもいいわよ」相反するように、五月がスカートの裾を少し引き上げて、色っぽい声で誘ってくる。 白い太ももが美しい。 岬樹は顔を赤らめて、唾をゴクリと飲んだ。

「なんや。やっぱり岬樹ちゃんも色仕掛けがいいんかいな」言うと睦美は岬樹に体を密着させて、豊満な胸を押し付けてきた。

「あー!一美も負けないもん!」一美も岬樹の体に抱きついてきた。

「ちょ、ちょっと・・・・・・」岬樹は直美の方に視線を送った。


 直美は心ここにあらずで、その騒動を意に介せずの様子で窓から外の景色を見てため息をついていた。


「なに、直美ちゃんも、 恋わずらい?」五月が直美の様子を見て声をかけた。

「えっ、いいえ! 私、狩屋さんのことなんて考えていません!」直美が慌てて弁解をした。

 その言葉と同時に、岬樹は胸の辺りから何かが抜けていくような感覚に襲われた。

「狩屋って・・・・・・、あの時の刑事さん?」詩織が、本を片手に部屋の中に入ってきた。 英語で書かれた岬樹は、まず一生手に取る事が無いであろうと思われる物であった。

「えっ、私・・・・・・狩屋さんの名前なんて言っていませんよ!」直美は顔を真っ赤にして誤魔化そうとした。 が、時は既に遅かった。

 皆、唖然とした表情で直美の様子を眺めていた。


「思いっきり、名前呼んでいましたけど・・・・・・」岬樹は冷めた表情でポツリと呟いた。

 岬樹達の憩いの時間(?)は、突然奪われた。


「大変よ! 西高の校庭で爆発が起きて何者かが暴れているわ! 警察では手に負えないみたい!急いで!」小林が慌てた様子で、部屋に飛び込んできた。

 休校日の夜、学校には生徒はいない。

「なぜ、誰もいない学校を狙うんだ・・・・・・」岬樹は納得のいかない表情をしている。

「とにかく・・・・・・、学校に急いで! 早く!」小林は、詩織達に学校へ向かうように指示した。

 詩織達は頷いてから首元のチークに手を当てる。

 部屋の中が無数の光に包まれた。 そこには、バーニに変身したシオリ達の姿があった。

「岬樹ちゃんも、 変身するんや!」緑色の髪を束ねたムツミが岬樹に変身するように即した。

「えっ! やっと、男の体に戻れたのに・・・・・・!」言いながら、岬樹はカプセルを取り出して、ゆっくりと飲み込んだ。

岬樹の体は、紫色に輝き『バーニ・ミサキ』に変身した。

「やっぱり・・・・・・可愛いい」ナオミが少し頬を赤くして言った。 ミサキは、少し呆れた顔をしてため息をついた。


「行くわよ! 皆!」シオリが声をかけた。

「はい!」皆が返事をして、マンションを飛び出していった。


「なんなんだ! この騒ぎは!」狩屋は西高の校門の前で苛立っていた。

 非番でくつろいでいた処を、突然の電話により呼び出された。 署内の学校で大規模な爆発が起こった。 勤務中の刑事達だけでは、手が回らないとのことであった。

 校門の前には、何か見えない壁のようなものがあるのか、学校の中に入ることが出来ない。

「これは、一体どういうことなんだ? どうして中に入ることができないんだ!」狩屋は苛立ちを隠せない様子で、先に現場に駆けつけていた警察官達に聞いた。

「それが、私達にも何がなんだか解らないのです・・・・・・」警察官は明確な返答が出来ずに困っているようであった。

 狩屋は、見えない壁を拳で叩いた。それは、狩屋の力ではビクともしなかった。

「なっ、なんだ君たちは!」警察官達が何か騒いでいる。

「騒がしいな、どうした・・・・・・」狩屋は騒ぎのする方向へ向かった。 そこには、見たことのある少女達が立っていた。

「あっ、ナオミさん!」狩屋は少女達の中に、ナオミの姿を見つけた。

「えっ、狩屋さん?」ナオミは、あからさまに嬉しそうな表情をした。 その表情を見てミサキはゲンナリとした顔をした。

 きっと、現場に来れば狩屋に会えることを、ナオミは期待していたのだとミサキは感じた。

「ここは、一般の人間は立ち入り禁止だ。 危ないから子供は向こうに・・・・・・」警察官が底まで言ったところで、サツキが人差し指を警察官の唇にあてた。

「なっ、なにを・・・・・・?」警察官は顔を真っ赤にしてたじろいだ。

「私達に。お・ま・か・せ! ねっ!」サツキはウインクをしながら警察官に言った。 その言葉を聞いて、警察官はボーっとした顔でサツキの表情を眺めた。

「これは、バリアね! ムツミ、出来るわね?」シオリがムツミを見た。 ムツミはその言葉で全てを理解したようだ。

「なめんなよ! まかしときや!」そう言うとムツミは右の手首を左手で掴み、ゆっくりと掌を校門のバリアにかざした。

「エネルギー充填! たぁ!」その掛け声と同時に、激しい衝撃波がムツミの掌から発射された。 衝撃波は真っ直ぐバリアに命中した。 激しい爆発と共に、バリアに穴が開いた。

「さすが~!」フタバは、気を失ったムツミの体を抱え上げた。

「行くわよ!」シオリの掛け声を合図にバーニ達は校門を潜り、学校の中に侵入した。

 シオリ達が門を潜ると、再びバリアが門を塞いだ。 狩屋達も後を追って校内に入ろうとしたが、行く手を阻まれた。

「イテっ!」狩屋は顔面をバリアに激突させて、苦痛に表情を歪めた。

 この狩屋達の経験では理解できない出来事に、彼らは頭を抱えた。


 もはや、学校の校庭内は異次元の装いであった。

 普段、見慣れた校舎、樹々などの色は、どす黒い赤のような色に染まっており、一箇所を目指して負のオーラのようなものが集まっているようだった。 地響きが更にひどく響き渡っている。 普通の人間であれば気分が悪くなり、立っていられないかもしれない。

「あれは・・・・・・・?」ミサキが運動場の真中辺りに浮かぶ物体を指差した。

 激しく揺れる運動場の真中に、学校中に渦巻くオーラが集中している。 そこには、両手を振り上げて力を込めている人の姿が見えた。

「またか・・・・・・!」ミサキの目には、その人影が女の姿に見えた。

「意外と、遅かったわね・・・・・・」カトリーナは両手を下ろすとバーニ達に目をやった。 カトリーナが力を抜いた瞬間、辺りを揺らしていた地響きが少し弱くなった。

「あの人も、俺達と同じなのですか?」ミサキがシオリに質問をした。 シオリがゆっくり首を横に振った。

「私を貴方たちと一緒にしないで欲しいわ! 」言いながらカトリーナは、腰に手をやり胸を張った。突き出した胸の形が美しくてミサキは唾を飲み込んだ。

 ミサキ達が油断した瞬間、少女が姿を消した。

「えっ、どこへ・・・・・・」

「あなたがミサキね・・・・・・・、ウフフ面白い」背後から声がする。 ミサキが振り返ると、そこに先ほどのカトリーナが立っていた。

「いっ、いつの間に!」ミサキは前に転がり、カトリーナの前から逃れた。

「あら、そんなに怖がらなくてもいいのに」カトリーナは、片目を閉じると、色っぽいウインクをして見せた。その仕草を見てミサキは一瞬顔を赤らめた。その表情を見てナオミが少し拗ねたような表情をする。

「自分だって・・・・・・」敏感に彼女の表情を捕らえたミサキは納得のいかない様子であった。

 ミサキは気を取り直し、右手を上空に向けると雷雲を集めた。 空で雷がゴロゴロ鳴っている。

「ミサキさん! 待って!」シオリが声を荒げる。 その言葉に従い、ミサキは手を下ろし目の前で握りしめた。

「貴方のその力・・・・・・、遺跡によるものね」シオリさんが詰め寄るように質問する。

 その言葉を聞いて、黒髪の少女はニヤリと笑った。その笑顔を合図にしたように、気を失っていたムツミが目を覚ました。 目の前に見知らぬ少女が立っている事に驚いた様子であったが、状況を把握するまで静観を決め込むことにしたようだ。

「貴方たちは、あれを遺跡と呼んでいるのね・・・・・・。 あれを研究しているのは、貴方達だけではないわ。 それに、あれは・・・・・・貴方達の扱えるでもないわ」カトリーナは長い髪の毛を掻き揚げながら言った。


「遺跡って、なんのことなんですか?」ミサキは近くにいたフタバに聞いてみた。

「実は俺達も詳しくは知らないんだ。 ただ、それが悪人の手に渡るととんでも無いことが起きるとしか聞かされていない・・・・・・」フタバは、少し低い声で説明をした。

「この、西高の下には、新たな力が眠っている。 それを発動させる為に、私はこの学校に潜り込んだ。 でも、この力を発動させるには、私の力だけでは不十分だったのよね」カトリーナは舌をペロリと出した。

「それで、私達を誘き出したと言う訳ね」シオリは全てを悟っているかの言い方で呟いた。

百戦鬼ひゃくせんき!」カトリーナは百戦鬼の名を呼んだ。その声に反応するように、カトリーナの傍らに、まるで岩のような大男が姿を現した。

「カトリーナよ!俺様はお前の下僕げぼくではないぞ!」百戦鬼は強い口調で言い放つ。 右手を地面に触れて、いつでもダッシュして襲いかかれるような体制であった。

「二人一緒ということは、あなたも私達の敵ということね!」シオリの声と同時にバーニ達は戦闘態勢で構えた。


「お前達の相手は、俺様で十分だ!」百戦鬼が凄まじいスピードで移動した。 サツキの前に飛び出すと、彼女の腹部に蹴りをお見舞いした。 不意をつかれたサツキの体は、後方に飛び校舎の壁に激突した。

「サツキ姉!」イツミが慌てて、サツキの元に駆け寄ろうとする。 その行く手を百戦鬼がふさぐ。

「人の心配をしている場合ではないぞ!」百戦鬼がマントをひるがえしイツミの顎の辺りに膝蹴りを食らわす。 イツミは後方の宙返りして攻撃をかわす、片手で地面を支えてから着地した。

 着地したイツミの目が赤く輝く。 イツミの力、念動力により百戦鬼の動きを封じ込めようと試みた。


「わははははは! お前ごときの力で俺様を抑え込む事ができようなどとは、この俺様もなめられたものだな!」百戦鬼が拳を握りしめてイツミの頬の辺りに裏拳を振りかざした。

 イツミは避けようと顔を背けるが間に合わず、まともに百戦鬼の拳を食らった。イツミの体は、大きく横に弾けとんだ。

「おやめなさい!」シオリが弓を片手に、矢を構えて百戦鬼を狙う。 輝きを放つ矢が百戦鬼めがけて発射される。百戦鬼はそれを避けるように横に体を移動させた。その瞬間、放たれた矢が無数の光に分かれて百戦鬼の体をつらぬく。

「すごい!やった!」ミサキは歓声の声を上げた。


「いいえ!まだよ!」シオリが、構えた弓をそのままに百戦鬼の姿を凝視し続けた。矢が貫いた百戦鬼の体がゆっくりと透明になり姿を消した。


「そこや!」ムツミが指先からレーザービームのようなものを発した。 そのビームの先には、百戦鬼の姿があった。百戦鬼は、体を軽く半身だけ角度を変えて、ムツミのビームをかわした。

「それじゃ、これならどうだ!」大きな声で叫んだフタバが、両手を前に突き出して、その掌から業火を噴射させた。 それはまさに火炎放射器のようであった。

 フタバが発した炎は、百戦鬼の立っていた辺りの樹々を軒並み焼きつくした。 ナオミはサツキを、ミサキはイツミを介抱していた。サツキは体を起こし、大きく頭を振ってから、ナオミに向かって大丈夫とばかり微笑んだ。

「イツミちゃん!」ミサキはイツミの体を抱き起こした。「大丈夫か?」ミサキはイツミの顔を覗き込んだ。


「お、お兄ちゃん・・・・・・・痛いよ・・・・・・・」イツミは苦痛に顔をゆがめた。

「しっかりしろ、イツミちゃん!・・・・・・どこが痛いんだ!」ミサキはイツミの頬の辺りを撫でた。

「百戦鬼に殴られた、ホッペの辺り・・・・・・・お兄ちゃんが、チュウしてくれたら直るかも」イツミは頬をミサキの顔に突き出した。

「えっ・・・・・・・!」ミサキは、イツミの頬を見て顔が赤くなった。

「おい! あんたら遊んでいる場合とちゃうで!」ムツミがミサキの腕の中の、イツミを軽く蹴ろうとした。イツミは勢いよく飛び上がった。

「ちっ、もう少しだったのに」イツミの顔が、かなり悪い顔になっていた。フタバの炎の中から、百戦鬼が飛び出した。マントによってフタバの炎の熱を遮断していたようであった。 百戦鬼は一直線にナオミに向かって襲いかかっていく。ナオミは、体の動きを加速して百戦鬼の攻撃を避けた。更に百戦鬼はナオミに攻撃を繰り返す。 二人の動きは早さを増し、その姿を捕らえることが出来なくなってきた。

「クソー!」ミサキは両手を天に向けて力をこめる。 上空を暗雲が包み隠す。

「ミサキ! 待ちなさい!」シオリがミサキの攻撃を止めようと声を上げる。

 上空の暗雲から稲妻がミサキの体に向かって落ちてくる。

「この瞬間を待っていたのよ!」カトリーナがミサキの体を羽交い絞めにする。

「一体! なにを?」ミサキとカトリーナの体を雷が貫く。 カトリーナは歯を食いしばりながら、両手を振り上げて力を込めた。 その瞬間、二人の体から校庭に向かって稲妻が落ちる。

 校庭の一部が激しい光を発して輝く。 その中から、白銀に輝く鎧のようなものが姿を現す。


「これこそ、クイーンズ・シールド! 銀のアプサス!」カトリーナは歓喜の声を上げて、白銀の鎧に手をかざす。


「ミサキ! それを、渡しては駄目よ!」シオリは言いながら光る矢を放った。瞬く間に鎧はカトリーナの体を包み込み、シオリの矢を弾き飛ばした。

 銀のアプサスは白銀の光を放つ。 その光をまともに見ることが出来ず、ミサキ達は目を細めた。アプサスはカトリーナの腕、足、体を覆い彼女を守っているようであった。 カトリーナが右手に力を込めると、その手の中に輝く長剣が姿を現した。

「美しい・・・・・・」カトリーナは、長剣をゆっくり目の前で移動させながら食い入るように眺めた。

 互いの腕を交差して、相手の出方を確認して睨みあっていたナオミと百戦鬼は、唐突に出現した白銀の女戦士の姿に目を奪われた。

「お帰りなさい、アプサス・・・・・・凄い力だわ・・・・・・! 体に力が沸き起こってくる!」カトリーナは興奮のあまり、恍惚の表情をしている。

「みんな! 後退して!」シオリが叫ぶ。 その声を合図にしてバーニ達はバックターンして後方にさがった。百戦鬼と戦闘中であったナオミも、呆然とする百戦鬼の隙を突きシオリ達と合流した。

「なんなのですか! あの鎧は!」ミサキが銀のアプサスを身に纏うカトリーナを指差してシオリに聞いた。

「私達は利用されたようね・・・・・・」シオリは苦虫を潰すような顔をした。

「利用された?」ナオミがシオリの言葉を聞き返した。

「この学校の下に遺跡・・・・・・銀のアプサスが埋まっているのを知った、あの女は、ミサキの力を利用する為に、私達を誘き出したのよ」

「ミサキちゃんの力?」ムツミが聞いた。

「ミサキちゃんの力は、落雷とちゃうん?なんで、それであの遺跡が出てくるや?」

「ミサキの力は、落雷とは別に、他者の力を増幅して、放出する能力。 あの女は、自分の念力を強化して、銀のアプサスを呼び起こしたのよ」

「あの鎧は、そんなに凄いのか?」ミサキは上空に浮かぶカトリーナの姿を注視した。

「そんなに、このアプサスの力を知りたい?」悪魔的な笑顔で微笑笑んだ後、鬼のような形相に変わったカトリーナがミサキめがけて剣を振り下ろしてくる。 ミサキはその刃を腕を盾にして防ごうとする。

「危ない!」翼を広げたシオリが、ミサキの襟首を後方から掴み、手元に引いた。 変わりに体が入れ替わり、ミサキの体を守るかたちになった。

「シオリさん!」ミサキが叫んだ時には、シオリの美しい片翼が切り落とされていた。 シオリの背中から、鮮血が噴出す。

 シオリの体はミサキの上に覆いかぶさる。

「相手の攻撃の性質を、考えないと駄目よ・・・・・・!」そういうと、シオリは意識を失った。

「シオリ!」ムツミは叫ぶと、カトリーナを標的にして、衝撃波を発射する。

 ムツミは体をひるがえして、攻撃を避ける。 すかさずに、サツキとフタバが水流と炎のダブル攻撃を仕掛けるが、カトリーナは長剣を回転させて、二人の攻撃を防御した。

「くっ!」ナオミが加速し、カトリーナを捕らえようとした瞬間、目の前に百戦鬼が立ちふさがった。

「お前の相手は、俺だ!」百戦鬼がナオミの顔面めがけて、蹴りを食らわせようとする。その攻撃を右手で受けて、左足を掴んだ・・・・・・つもりであったが、百戦鬼の足首は存在せず、空振りに終わった。上空にジャンプしたナオミを追いかけて、百戦鬼もジャンプをした。

「シオリさん! シオリさん!」ミサキの腕の中で、シオリは顔面蒼白な顔をしている。 ミサキは手にヌルッとした感触を感じた。 その手を確認すると、シオリの背中から吹き出た、血液であった。

「あっ、あっ、うわー!」ミサキは半狂乱に近い声を上げた。

校庭では、圧倒的に優位な立場で戦いを進める、カトリーナ、百戦鬼の姿と、苦戦するバーニ達の姿があった。

「い、いや!」ナオミが悲痛な悲鳴をあげながら頭を左右に大きく振る。 百戦鬼がナオミの上に覆いかぶさり彼女の両腕を強く握って、地面に体を押し付けていた。フードの奥の百戦鬼の、顔はニヤリといやらしい顔を浮かべたように見えた。

 百戦鬼の体にめがけて、ムツミの衝撃波が発射される。 その攻撃を避け、百戦鬼はナオミの上から移動した。 ムツミは再び、その場にへたり込む。

「ムツミ!」フタバがムツミの体を支える。 サツキが二人をガードするように、百戦鬼に向けて水撃をお見舞いする。 その攻撃も百戦鬼は器用に避けた。

 ナオミが加速して百戦鬼に蹴りをお見舞いするが、手ごたえが無い。 ナオミの体は、百戦鬼を突き抜けていった。「どうして・・・・・・!」ナオミは、状況が理解出来ない様子であった。

 一方、イツミがカトリーナの動きを念力で止めようと試みる。

「その程度の力では、私を止めることは出来ないわ!」イツミは、右手をイツミにかざすと気合でイツミの体を吹き飛ばした。

「くっ!」イツミは宙返りをして猫のように地面に着地した。

「畜生! 畜生! 俺のせいだ! 俺のせいで、シオリさんが・・・・・・・!」ミサキが大きな声で叫んだ瞬間、ミサキの体を強烈な稲妻が直撃した。 ただ、地に着いたミサキの足がアースのような役目を担ったのか、校庭に電流が流れた。

「驚かせないでよ。 なにをやっても無駄・・・・・・」そこまで、カトリーナが口にした瞬間、彼女の言葉は止まった。ミサキの体から流れた電流により、校庭の一部が黄金に輝き始める。

「えっ、何・・・・・・・」ミサキは、輝きの辺りを凝視する。輝く地面の中から、何かが姿を現す。 金色に輝く鎧、先ほど姿を見せた、『銀のアプサス』カトリーナがそう呼んだものと、よく似ている。

「まさか・・・・・・、同じ場所にキング・シールドが眠っているなんて・・・・・・ありえない!」カトリーナが苦々しい表情を浮かべる。

「カトリーナ! なにをしている。 そのアプサスも奪え!」百戦鬼がカトリーナに向かって叫ぶ。

「無理よ・・・・・・。 二つのアプサスを装着することは出来ない。 私は、既に銀のアプサスを装着してしまった・・・・・・ それにあれは、私のものでは無い・・・・・・」カトリーナは複雑な表情を浮かべた。ミサキは、体を震わせながら右手を、金のアプサスに伸ばした。

「ミサキさん・・・・・・!」ナオミが、心配そうにその様子を見ている。 その声を聞いて、ミサキはまるで、大丈夫だと言わんばかりの目でナオミを見た。金のアプサスが光を増して、その体を四散させた。 次の瞬間、ミサキの体を金の光が包み込んでいだ。


(なんなんだ、この・・・・・・・記憶は・・・・・・)アプサスを装着した途端、ミサキの頭の中に様々な記憶が流れてきた。

 大勢の群集、ミサキは心地の良い胸の中に抱かれている。なぜだか嗅いだ事の無い香り・・・・・・・懐かしい匂い。お母さん・・・・・・・? その隣には、赤ん坊を抱いた猛々しく口ひげを蓄えた男性が立っていた、身なりは、昔映画で見た王様のようであった。


 なぜか、ミサキはこの男性にも、猛烈な懐かしさを感じていた。


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