カテリーナ

 今回の指令は今井いまい加奈子かなこという女の捜索であった。


 今井加奈子は、なにかの事件の参考人で、調査機関が血眼ちまなこになって探しているらしい重要人物だそうだ。

 その女が潜伏する拠点が判明したとのタレコミの情報があったからだそうだ。


 ミサキは今井とは何者なのかよく知らない。 ただ、以前、小林が言っていた『遺跡』なるものを狙っているものであるらしい。その女が、何かを引き起こす前に先手を打つということだそうだ。


「ナオミちゃん、ミサキちゃん・・・・・・」今回、チームを組んだムツミがつぶやいた。

「えっ、はい!」ミサキとナオミは、シンクロするように返答をした。

「あんたら、今井加奈子と会うのは初めてやから言うけど、気合入れんとアカンで。 あと油断したら、食べられてしまうらしいから、気をつけや!」三人は、目的地目指してジャンプを続けている。

「た、食べられるのですか?」ナオミが驚きのあまり口を手で覆った。 ミサキは、少し卑猥ひわいな想像が頭の中を過った。

「まあ、ウチもコバヤンに聞いただけで、ホンマはよう知らんねんけどな、ガハハハ」とムツミさんは笑った。ムツミさんは、小林のことを『コバヤン』と呼ぶようだ。


「あそこや、手前のビルの屋上に隠れるで!」ムツミさんの顔が真剣モードに変わり、指示を出してきた。ミサキとナオミは、ムツミさんの指示に従い屋上の影に待機した。


 屋上から指示された建物の中を監視する。

 数人の男達が出入りしている様子であった。あの中に今井という女がいるのであろう思われる。

 一時間ほど張り込んでいると一台の高級車が縦門の前に停車する。中から数人の男達が姿を現した。その先頭を歩く女が今井加奈子のようであった。

「あの女!」ナオミの表情が変わる。

「ナオミ、どうかしたのか?」ミサキは彼女の変化に気が付き聞いてみる。

「ミサキくん、あの女、この間の黒装束の銃を持った奴よ!」ナオミは今井という女の動作から、その事実を確信したらしい。

「ちょっと待って、あれは何んや!」ムツミが指さす先を一同が見る。数台のパトカーがサイレンも鳴らさずに、あの建物の前で停車する。

「まずいんじゃないの・・・・・・」シオリがつぶやく。パトカーの中から数人の刑事と思われる男達が姿を見せる。

「純一さん・・・・・・・」ナオミはなぜだか切なく悲しそうな顔を見せた。ミサキは彼女のその顔を見て、どうやらあの刑事達の中に、彼女の知り合いがいるようであることを感じ取った。

 刑事達が建物に入って数分後、いきなり銃声が鳴り響いた。

「行くわよ!」耳に装着したピアスから、シオリの掛け声でバーニ達は一斉に飛び出した。

 

 刑事達は拳銃をドアの陰に隠れて拳銃を構えている。向こう側からは、レーザー光線のような光が壁を突き抜けて攻撃をしてくる。

「しゃがむんだ!」狩屋刑事が叫ぶ。その合図で他の刑事達は床にひれ伏した。その上をレーザー光線が通り過ぎる。

「純一さん!」ナオミは窓をぶち破って部屋の中に飛び込んできた。

「ナオミさん、どうして君がここに?」狩屋は目を丸くして驚いた表情を見せた。

 ナオミに続いて他のバーニ達も部屋に飛び込んだ。そして刑事達を守るように囲んだ。

「き、貴様達、この間の・・・・・・、そうか、お前達はバーニだな!」今井という女は、銃を上に向けると高笑いした。


「なぜ、その事を知っているの!」シオリは大きな声で聞く。

「そうだな、その答えはこれだ!」今井はポケットから何かを取り出して、口の中に投げ込んだ。その瞬間、今井の身体から黒い闇が噴出する。

「ま、まさか?」「これは?」「バーニ?」バーニ達の目に驚愕の色が現れる。

 黒く深い闇が少しずつ緩和されていく。その先には全身を黒いスーツで覆われた、美しく均整の取れ、引き締まった筋肉質の美しい女が姿を見せた。

 女は首をコキコキと鳴らすと、手に持っていた銃を放り投げた。


「この、見掛け倒しが!」フタバが両手を開いて突撃する。それを女が受け止めるように四つに組んだ。

 フタバの怪力はバーニの中でも折り紙付きである。

「うううううう!」フタバがカトリーナの腕を捻じ曲げようとする。

 カトリーナは涼しい顔でそれを受け流す。やがて慈悲に気がして床にヒビが入ってくる。

「フタバ!危ない!」ムツミの声が響き渡る。その瞬間床が砕けて二人は舌の階に落下していく。

「畜生!」フタバの声が、響き渡る。

「こいつ!」ムツミは、右手の指を開いて女の方に向けた。その指先から無数のレーザー光線が飛び出す。その光が女の顔面を直撃する。が、彼女は人差し指で掻きながら、まるで蚊にでも刺されたかのような仕草を見せた。


「そんなものか・・・・・・」そう呟くと、女はバーニ達の目の前から姿をくらませた。次の瞬間、彼女を見つけた時には、ミサキの懐にもぐるような仕草をして、右腕に力を込めて腹部を貫く勢いであった。ミサキはその動きに反応出来ずに茫然としている。まともにそのパンチを喰らえば、風穴が開いてしまいそうな勢いであった。その瞬間彼の体に電流が突き抜けた。


「ダメー!!」ナオミはそう叫ぶと、時間を止めた。

「はあ、はあ、はあ・・・・・・」ナオミは大きく肩で息をしている。この時間を止める能力を発動するには、かなりの体力を消耗してしまうのだ。

「ミサキくん・・・・・・」ナオミはゆっくりと停止しているミサキの体にに近づくと、彼の体を持ち上げて、女の拳の軌道からそらした。

「生意気な真似をするじゃないの!」突然、女の口が動いた。

「えっ!」動ける筈のない、女の言葉にナオミは仰天している。

「うおー!」その叫び声と共に、女の拳がナオミの体を貫く。

「げほっ!」ナオミの口から血液のような液体が飛び散る。

「うわははははは!」女は大声で笑いながら、ナオミの体に数十発のパンチを浴びせ続ける。

「ああああああああ!」ナオミは、抵抗する事が出来ずにされるがままになってしまった。

 そして、渾身を込めた一発が、ナオミの顔面を捕らえる。ナオミの体は、建物の体を突き破り、道路を隔てた建築物の壁にめり込んだ。


「あははははは、やはり作り物のバーニなんてそんなものなの?」その言葉を発した瞬間、カトリーナが独り言のようにつぶやく。「いいわ、今が丁度良い所なのだけど・・・・・・、引き上げるわ。どうやら少し手間取り過ぎたみたいだわ。私の名前はカトリーナ、覚えておいて、次はあなた達を地獄へご招待してあげるわ」この言葉を残して、カトリーナと名乗る女は宙高く舞い上がり姿を消した。 


 その可愛らしい名前と女の恐ろしさに違和感を覚え、ミサキは体を震わせた。

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