カプセル

 俺の服装もナオミと良く似たバトルスーツに変わった。


 バーニには特別な衣装が用意されている。 様々な状況に対応できるように、バーニの思い描いた服を、空中に無数にある元素を集めて生成してくれるそうだ。普段の服もこれで補えるそうである。 今後、衣食住の衣は困らなくてすみそうだ。今回、用意したバトルスーツは、バーニが戦闘時に動きやすく、さらに特殊な素材で体を保護サポートしてくれる優れものだそうだ。 ただ、一つ俺は不満があった・・・・・・。


「この、スカート・・・・・何とかならんかな。 スースーして落ち着かないよ・・・・・・だいたい、短すぎるんだよ!」俺は極端に短いスカートを履いていた。バトルスーツは、明らかに女向けに設計された、セクシーなコスチュームであった。加えて、さらに俺を悩ます現実があった。それは・・・・・・ 胸の辺りには見慣れない二つの脹らみが見えるのだ。おまけに、長年連れ添った相棒の姿が消えている。

「くそ、やはり納得いかない!」


 俺は、バーニに変身することに成功した。

 しかし、とんでもない災難がそこには待ち受けていた。俺は頬を赤くなることを自覚しながら、覇王女学院でのやり取りを思い出していた。


「すまないが、今のところ解析できたバーニのタイプは、女性型しかないのだよ・・・・・・」小林先生は申し訳なさそうな言葉を発していたが、俺には彼女が、今にも噴出しそうな顔にしか見えなかった。

 バーニとは特殊作業用人造人間のことを指すらしい。ちょっと意味不明だが……。

  何でも、通常の人間では対処出来ない犯罪、事故に対応する為に企画・開発されてきたそうだ。ただし、特殊戦闘用と言っても、見た目は普通の人間にしか見えないとの事。 先日銀行強盗事件を解決した、直美さんが変身したナオミという少女もバーニだと言うことだ。

 俺の場合は薬を服用して変身するのだが、ベテランの皆さんは、そんな物が無くても変われるそうである。

「バーニと適合する人間は希少なのだ。 だから、適合しそうな人間がいたら報告するように、他のバーニ達に依頼していたのだが、なかなか、適合者は見つからなかった。 しかし、まさか君みたいな男子を連れてくるとは思わなかったのだが・・・・・・」小林先生は、俺の周りを回りながら、上から下まで俺の体を観察している。

「まさか・・・・・・、俺が?」俺は自分の顔を指差した。

「そう、やっと見つかった適合者が君だったのだ・・・・・・ただ、今まで偶然なのか、男性の適合者は、一人もいなかったのでな」小林先生は背後から俺の両肩をぎゅっと掴んだ。顔は見えていないのだが、なんだか小林先生が笑いを堪えているような感じがした。


「岬樹さん、私と一緒にこちらへ来てください」直美さんが声をかけてきた。

「えっ、はい・・・・・・」言われるままに直美さんの後をついて行った。


 移動した部屋の中は色々な機械が設置されている。これは明らかに勉強をする場所ではない。機械を操作する白衣を着た数人の女性がいる。学生など一人もいない。なにもかも初めて見るものばかりで困惑する。一通り部屋を見渡した後、不似合いな物を発見する。


「すいません・・・・・・、直美さん、このカプセルはなんですか? 丁度、人一人入りそうな感じですが・・・・・・まさか・・・・・・」目の前のカプセルのような容器の中に、青い液体が満たされている。

「岬樹さん、 服を脱いで裸になってください」直美さんが、ニコッと微笑みながら言った。

「はい・・・・・・って、急になんですか?」俺は驚愕の声をあげた。

「早く、裸になって、そのカプセルの中に入ってください」直美さんが指差したカプセルは、いつの間にか蓋が開放されていた。

「いや、裸って、ここで・・・・・・ですか?」周りを見渡すと、研究員の女性達の視線が俺に集中している。 一際、小林先生の視線が鋭く光っているような気がした。

「とにかく、裸になって寝てください。それで貴方の疑問はすべて解決します」直美さんはニコリと笑う。笑い顔が恐ろしいくらいに美しい。直美さんは躊躇せずに俺の服を奪い取ろうとする。


「じ、自分で出来ますから、解りました・・・・・・」俺は、直美さんに言われるまま、上着とズボンを脱いだ。もう残りはパンツ一枚だけになった。

「それも、脱いでください」最後に残った、俺のパンツを指差して直美さんは微笑んだ。

「これも・・・・・・ですか?」俺は、最後の砦だけは、死守しなければと前の辺りを両手で隠した。

「はい!」直美さんの指が俺の下半身を指差していた。部屋の中の女性達が慌しく、コンピュータのキーボードを連打している。

「・・・・・・? 」次に瞬間、勢いよく俺の砦は背後から何者かに引き下げられた。結果的に、直美さんの目の前に、俺の可愛い相棒が姿を見せることになってしまった。

「きゃー!」悲鳴をあげたのは、もちろん俺であった。

  直美さんは無反応のまま、俺の衣類を拾い上げると、近くにあった籠の中に放り込んだ。最後の砦を奪ったのは、小林先生であった。俺は、研究員に即されて、さきほどのカプセルの中に寝転がった。カプセルの中は心地がよく、少しだけ目を瞑っていた。 突然、カプセルの上に気配を感じた。見上げると、小林先生が立っていた。仁王立ちで俺を見下ろしている。


「ちょ、ちょっと待って! まさか・・・・・・やはり、もう少し考えてから・・・・・・!」俺はカプセルから起き上がろうとしたが、両手で下半身を隠している為、うまく動けなかった。カプセルの蓋がゆっくりと閉まっていく。

「止めてください! これは・・・・・・!」まさかこんな目に遭うなんて! 小林先生は、恐ろしい笑みを浮かべながら、カプセルの蓋をゆっくりと閉めた。蓋が閉まってから、カプセルの中が青い液体で満たされていく。俺は、息が出来なくなることを恐れて、両手で口を覆った。 カプセルの外で、小林先生が興味深い表情で俺を見ている。 何処をみているんだ? 相変わらず女性達は無言のまま、キーボードを連打している。俺は手足をバタつかせ、カプセルの蓋を開けようとするがビクともしない。

「やめろ! 誰か、助けて! ・・・・・・止めてくれ!」俺の声は外へは聞こえていない様子だ。 俺の目から涙が溢れてきた。

「先生、調整完了です!」一人の女性が大きな声で言うと。小林先生が勢いよく、キー簿オードのENTERキーを叩いた。その瞬間、全身に電気が流れたような感覚に襲われて俺は意識を失ってしまった。

(はかない人生だった・・・・・・・!)最後に、直美さんに良く似た天使が頭の中を飛びまくっていた。いや、・・・・・・悪魔の間違いであったようだ。


 どれ位時間が経ったのだろうか、俺は温いお風呂の中いるような感覚に変わっている。

(あぁ、気持ちいい・・・・・・ さっきの出来事は夢だったのかな・・・・・・ )ゆっくりと目を開けてみる。

(なんだ・・・・・・これ・・・・・・俺は・・・・・・)俺の体は、先ほどと同じく青い液体の中に浮かんでいる。 不思議と息は苦しくない。

 呆然としていると周りの液体が徐々に減り、普通に呼吸が出来るようになった。俺の周りを覆っていたカプセルの蓋が、小さな機械音を立てながらゆっくりと開いた。蓋が完全に開ききった事を確認してから、俺はゆっくり体を起こした。目の前に、小林先生のにやけ顔が見える。 なんだか歓喜に打ち震えている様子であった。


「さっきのは、夢じゃなかったのか・・・・・・」俺は目を凝らしながら周りの視界を確認した。

(あれっ?)見慣れない物が、俺の体についている。 そして、長年見慣れた物が無くなっていた。直美さんが手を差し出してきた。混乱する頭を整理しながら「大丈夫・・・・・です」俺は差し出されたその手を遠慮して立ち上がって周りをキョロキョロ見渡した。唐突に小林先生の解説が始まった。


「君の体は、究極の進化を遂げたのだ! 君は新しい『ミサキ』へ生まれ変わったのだ!」

小林先生は得意げな口調で言葉を続けた。新しい『ミサキ』って誰のこと・・・・・・俺は、頭をひねった。

「この覇王女学院の一角を借りて研究を続けてきた。 今までは、対象者が女性のみだったので都合が良かったのだが、今後検討の余地ありだな。 この施設は、国から大量の予算を頂戴して、少数先鋭のメンバーで研究を重ねてきた」俺は更に頭が呆然し状況が今一つ理解出来ない。

「遺跡を守る為には、それなりの防御体制が必要だ。 普通の人間では、困難なことも多いのだ。 そこで、特殊な肉体を作り対応する事を考えた。 作為的に最強の肉体を作れても、精神の伴わない者、そして素養の無いものではどうしようも無い・・・・・・いや、出来ないのだ。 ロボット兵器の開発も検討したが、機械の思考では、突発的な状況への対応が出来ない・・・・・・。そこで、健全な精神と素質を兼ね備えた人間を探し、進化を促すことを考えた」眼鏡のズレを人差し指で直した。

「それが・・・・・・」自分の顔を指差してみた。

「そう! バーニだ」小林先生は、眼鏡を直した指をひるがえし私を指差す。

「みんな成功したぞ!」

「・・・・・・」

「君こそ、最強の戦士・・・・・、いや、もとい最強のスーパーガール『バーニ・ミサキ』だ! おめでとう!」

「おー!」激しい歓声が聞こえた。 周りの研究員らしき人達も、激しく拍手している。 クラッカーが数発なった。へたするとケーキでも出てきそうな雰囲気である。

「ちょっといいですか?」盛り上がっている中、大変申し訳ないとは思ったが、俺はゆっくり挙手をして質問をしてみた。

「あんた達、頭大丈夫なんですか?」拍手がピタッと鳴り止んだ。

「ん、なにが?」教官の手にマイクが握られていた。

「なにがって!俺の体を進化したって、俺はどうなるのですか? 俺こんな話聞いてないし・・・・・・酷過ぎます!」俺は少し恨めしそうに直美さんの顔を見た。 直美さんは嬉しそうな顔をしてこちらを見ている。


「かわいい・・・・・ミサキさん」直美さんのウットリした目。

「ふと、開いたカプセルの蓋に反射した、自分の姿を確認した。

 紫のショートカットの少女が、ほぼ裸で座っている。 ・・・・・・って、この娘は!

「ぎゃー!」俺は、発狂の一歩手前の状態であった。

「落ち着きなさい! 君の体を、元に戻すことは可能だ。というよりも、一定の時間が経過すれば、元の体に戻るのだ。これからは、定期的に『ミサキ』として、それ以外は、榊 岬樹君として生活してもらいたい。幸い君は一人暮らしのようだし、少々家を空けても支障は無いだろう。 それに、総持寺君に連れられて来て、君も満更ではなかっただろう。 今後は、彼女達と一緒に活動してもらうことになる。 美女に囲まれて嬉しいだろう」なんだか、無理やりにまとめようとしている感がアリアリだ。俺が一人暮らしであることは調査済のようだ。

「えっ・・・・・・俺、本当に元の体に戻れるのですか?」胸の辺りに手をやった。手に当たるいつもと違う感触に驚いた。

「当たり前だ。そんな非人道的な研究はしとらんよ」

「十分、非人道的だと思うのですけど・・・・・・」

「バーニの体は、普通の人間の8倍から10倍程度の力・スピードを出すことができる。そして、相手を油断させる為に美しい女性の姿をデザインした。見たまえ!」気がつかなかったが、目の前に大きな鏡がある。そこに写った俺の姿は・・・・・・。


「まぁ、まさか、男性を連れてくるとは思わなかったのでな・・・・・・」小林先生は激しく頭を掻いた。 胸は大きく、ウエストは細くお尻はキュッと締まったモデルのようなスタイル。 髪は紫色のショートカット。目は大きく開いていて二重、大きくて少し紫が混じったような美しい瞳!鼻も高く、透き通るような白い肌。綺麗な唇。ゆっくりと頬に手を当てた。思わず見とれてしまうほど美しい。 

(なんて綺麗なんだ・・・・・・ こんな綺麗な女の子・・・・・・見たこと無い・・・・・・ )鏡の中には絶世の美女が立っている。少しの間を置いて、俺は冷静な判断が出来るようになった。

「なんじゃこりゃ!」自分を現実に引き戻すように大きく首を振る。

「本当に、俺じゃない!これは、ちょっと・・・・・・本当に女の体じゃないか!」両手で胸を持ち上げてみた。 おっ重い!

「野澤君、ミサキのユニフォームをここに!」

「えっ!」慌てて、俺は自分の姿を見る。胸がはみ出しそうな白のビキニと食い込みの激しいパンツ、ほとんど裸のような状態!

「キャー!なっ、なんで・・・・・・!」見慣れない体で、俺の羞恥心は完全に麻痺していた。鏡に映る姿は俺であるという自覚は全く無くて、女優かモデルの美女であると錯覚していた。 手で胸と下半身を押さえしゃがみこんだ。

「なっなぜ、こんな格好なんだ・・・・・・!」

「綺麗ですよ・・・・・・、ミサキさん」直美さんが、頬を赤くしてこちらを見ている。あなたは、そっちの気があるのですか?

 小林先生に、野澤と呼ばれた女性が衣服を運んできた。

「君が常時着用するユニフォームだ。これを着なさい」野澤さんの傍に駆け寄って衣服を奪い取り胸の辺りを覆った。

「こちらを見ないでください!」恨めしそうな顔で皆の顔を睨んだ。

「何を、今更・・・・・・」小林先生と野澤さん、そして直美さんは背を向ける。周りにいる研究員らしき人達にもキッとした目で、こちらを見るな!と信号を送った。 

 皆、慌てて後ろを向いた。誰も見ていない事を確認してから、シャツ・スカート・ブーツの順番に着用していった。

(俺の体じゃないのに・・・・・・!恥ずかしい!)改めて自分の体を観察してみる。今まで視界に存在しなかった二つの物体が、俺の足元の視界を妨害する。見事に均整のとれた美しいバストだ。視界の高さも全く違う。指で胸を押してみる。見事な弾力だ。これだけ大きければモミ甲斐があるだろう。 ウエストはキュッと締まっている。お腹をさすっても、贅肉の存在は確認できなかった。お尻も柔らかくて適度な弾力がある。

 自分の身体なのだが手触りが非常に良い。最後に長袖の上着を羽織る。明るい紫と白を基調とした革のような素材の上着、スカート、ブーツ。スカートは超ミニスカートで、俺は絶対にチョイスしない組み合わせだ。これはこれで十分恥ずかしい。すべての衣服を着用する。鏡の中には、スーパーモデルのような少女の姿が見える。


「もう、振り向いても大丈夫かね?」後ろを向いたまま小林先生が尋ねてくる。 

「はい・・・・・・」服を着たのを確認し、小林先生が口を開く。

「良く似合っているよ。いいかね、そのユニフォームは特殊な加工をした物だ。今の状態が基本系で、君の力を最大限に発揮させることが出来る。必要状況に応じて、肩の飾りを触り着用したい服を想像すると君がイメージした服装にチェンジすることができる。」言われたまま、試しに肩に触れながら、学校の制服を想像すると、見慣れた制服姿に変化した。

「すごい!」いつも着用している学生服だ。

「ミサキさん、それは男の子の制服ですよ」直美さんが不満そうに言ったかと思ったら、「でも、良く似合っています・・・・・・・」と笑みをこぼした。 直美さんは向こう側の人なのか・・・・・・。もう一度肩を触れながら直美さんが着ている制服を想像すると、思いのままの姿に変わった。

「腕のブレスレットからは、ワイヤーを出すことが出来、君の体重+八十キロ程度の物をぶら下げることが可能だ。視力もずいぶん向上しているだろう、双眼鏡が無くても遠くまで見通せるはずだ。他にも様々な特殊な能力があるが、それは君がその体に適応していけば自然と使えるようになっていくだろう。 あと、すこし時間が必要だが傷や怪我は一部を除いては自動治癒してくれる」説明を聞きながら体の各所を確認する。触っている感覚は、全く女の子の体としか思えない、皮膚は柔らかくて、よく手入れの行き届いた女性のものであった。

「あの・・・・・・ 俺が気を失ってからどの位経ったのですか?」先ほどの入っていたカプセルの方向に視線を向ける。

「君が気を失っていたのは数分程度だ。体のほうも心配ない。しばらくすると元にもどるよ。 次に変身する時は、これを飲み込むのだ」言いながら、小林先生は、小さな箱を手渡してきた。

 箱を開けると、中には小さなカプセルが入っていた。よく薬局などで購入する風邪薬のようであった。

「それは、『きっかけ』だ。 それを飲み込む事により、君の体はバーニへと変身する。 あまり乱用はしてはいけないよ」小林先生は、事務的に説明を続けた。「体への副作用は・・・・・・今のところ確認はされていないが、個々に特殊能力を発生させる。衝撃波を発したり、人の心を操ったり、背中から翼の生えた例もある。 君にはどんな能力が出現するかは私達にも解らない。それと、変身後に、すこし記憶に混乱を生じる場合もあるようだが・・・・・・すぐに慣れるだろう。 そんな症状が出たらすぐに私に報告してもらいたい。」小林先生は、無責任な話を平然と話し続けた。俺は頭に、角でも生えているのではないかと確認した。


 とりあえず、体の外見には異常がないようなのでホッとした。・・・・・・って、女の体になってるじゃん! 一人で乗り突っ込みをしてみた・・・・・・。


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