第6話作戦開始 2
時は経ち、日曜日へと入っていった。
あの後梶川と話し合い、俺たちは市内にある遊園地へ行くことに決めた。
俺と梶川と結衣の三人で遊園地に行くとなると結衣が疑問を抱きかねないので、、俺のクラスメイトであり、いつも共に行動している親友の『遠藤 優(えんどう すぐる)』を誘うことにした。
あいつは根っから真面目な性格でこういうことには興味ないと思い、どうせ誘っても断られるだけだと思っていたが、即答で承諾したのは驚きだった。
優の承諾を得たことを梶川に伝えると彼女は結衣に「日曜に男子二人と遊園地に行くことになったんだけど、来る? うん、来るよね。ということでよろしく」というかなり強引な誘い文句を送ったと言う。文面を写真で送ってきたので間違いない。
また、彼女の恐ろしいところはそれだけ送って結衣の返信を今日まで未読無視していると言うところだ。本人曰く、こうすることで結衣は必ず来てくれるだとか。
確かに、俺からしても拒否に対する承諾を受けていないのにもかかわらず、無断で休むなんてことを彼女がするわけがないのはわかっていたので納得してしまった。
多分、直接会ったら結衣に睨まれる気がするけれど、この一ヶ月間で彼女の視線には慣れてしまっているため問題はないだろう。
それにしても……
「早く来すぎた」
予定では遊園地が開催される時間九時に現地集合という話だった。
だが、緊張のためかなかなか寝付くことができず、つい早起きをしてしまった。結衣の前できちんと決めるために服選びに時間を注ぎ込んだのだが、結果集合時間三十分前には現地に着いてしまっていた。時間を注ぎ込んだと言っても、持っている服の数が乏しかったため選択肢が少なかったのが原因だろう。
この時間に来てしまうと嫌な展開が頭をよぎる。
俺の次に来るのが、もし結衣だった場合のことだ。そうなってしまうと俺はどう行動すれば良いのだろうか。
先ほどの話からして彼女は俺と一緒に遊園地で遊ぶことを知らされていない。だから必然的に俺の方から話をかけなくてはならないことになる。でも、……
思い出される以前の記憶。
俺はきちんと彼女を呼びかけることができるのだろうか?
ネガティブな思考を抱くと不意に梶川とのやりとりを思い出してしまう。
デートプランについて考えた時、俺は最初『デパートでお買い物』を提案した。だが、梶川に速攻拒否された。
今回の目的はあくまで『絢辻と六条の綿密接触』というところにある。四人で、デパートでお買い物して俺が結衣と綿密に接触できるか否かと聞かれた。「できる」と言ったが、梶川はすぐに否定して来た。今この場でそんなことを言えたとしてもいざ本人を前にしたら俺のこの想いは簡単に打ち砕かれると言う。でなければ、こんなに悩んでるはずないと。
その日は「そんなことない」と否定していたが、蓋を開けると梶川の言った通りであった。
正直今結衣に会ったらどうしていいかわからない。
なにはともあれ最初に来るのが結衣でなければいいのだ。確率は67パーセントの高確率。来ない可能性は高い。
覚悟を決め、視線を前に向ける。すると一人の少女が俺の歯科医へと入った。
白いワンピースを着たショートボブの少女。右側につけた猫型のヘアピンが紛れもなく彼女を示す象徴であるだろう。
可憐なる容姿に先ほどの葛藤は消え、見とれてしまう。何着ても似合うよな。
見とれてしまったことにより彼女がこちらを向いた時、思わず目があってしまった。
額を伝う一滴の汗。一体これからどうなってしまうのだろうか。
俺と目が合うや否や、彼女、結衣の足先がすっと三十度ほど変わる。微妙に気づかれない切り返しだが、凝視していた俺からしたらあからさまだった。
まずい、何かしないと。そう考えるが思ったように足が動かない。緊張により、小刻みに震えているのがわかる。
自分に怒りを覚えながらもがくように足を動かそうとするが、うまく前進できているかすら危うい。それとは反対に結衣の動きは淡々としていた。
早くなんとかしないと。
「絢辻くーーん、結衣ーー。おはよーーーーー」
刹那、遠くから俺たちを名指しで大きく挨拶して来る者がいた。思わず、顔がそちらへと向いてしまう。おそらく結衣も同じ動作をしているだろう。
「おはよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
大きく手を振りながら、その人物、梶川は俺たちに向けて走って来る。
Tシャツに短パン。斜めにかけるバッグの紐を胸元で挟んでおり、少しエロさが増している。いや、今注目するべき点はそこではない。
こんなタイミングで登場して来る梶川さん半端ない。救世主だ。天使だ。
俺たち二人に向けた挨拶は俺と結衣の間をまとめあげるだけでなく、さりげなく今日行動を共にする相手が俺であることを伝える良手段であった。
こうされては俺も結衣も梶川の方へ行かないわけにもいかない。小刻みに震えていた足は気づけば真っ直ぐ伸びており、うまく歩けるようになっていた。
「結衣、今日誘った男子二人のうちの一人絢辻くんだよ」
三人集まるや否や梶川が俺のことを紹介する。
「えっと、今日梶川さんに誘われて一緒に遊ぶことになりました。絢辻です、よろしくおねがします」
梶川とは学校であまり話したことがないため、馴れ馴れしくしないように「さん」づけしなさいと言われたためそうしてみたもののなぜだか違和感を感じる。
「こちらこそよろしくお願いします。六条です」
小さい声で結衣の方も俺に挨拶してくれた。こんな普通の挨拶にもかかわらず、六条と話せたことで俺の心は満たされた気がした。
前はあんな冷たい口調だったのに、今こんなに柔らかい口調なのは場を見てのことだろう。今から遊園地で遊ぶって言うのに冷たい態度をとって場を壊したりしないのが彼女の優しさだ。
「そういえば、なんで理子は絢辻くんを誘ったの?」
挨拶に続く、結衣の質問に俺たちは凍りついた。この不意の問いは仕方のないことだ。彼女は遊園地で遊ぶ以外のことを何も聞かされていない。そこに到達する敬意なんかも何も聞かされていないのだから。どうするんだよ、これ。梶川さーん。
だが、凍りついたのも束の間俺の助けに応えるかのように梶川は結衣の肩を掴み、二人して俺から離れていく。
梶川は耳打ちする形で結衣に何かを説明している。それを聞いた彼女はほおを赤らめながら俺の方に目を向けた。だが、俺と目が合うや否やすぐ視線を梶川に向ける。
戻ってきた二人は先ほどの話が解決したかのように俺の元に来ると「で、今日なんのアトラクション乗ろう?」とか
「お昼ご飯どうする?」とか話題を変えていった。
一体なんの話をしていたかはわからないが、うまくいったようで何よりだ。
一安心し、今日の予定について話始めた。
****
「時刻は9時00分00秒。俺の計画、行動に狂い無し。ふふふ、はっはっは」
そして、時が経ち一人の男が俺たちの元へとやってきた。
ぱっつん頭にメガネから出る鋭い瞳。意味のわからない言葉は周りの人をとおざかる引き金となる。とは言っても、自身の世界に入っているあいつはそんなこと気にもならないだろうが。
9時ジャスト。最後の一人『遠藤えんどう 優すぐる』が俺たちの元へとやってきた。
普段、理系科目の勉強もとい研究を欠かさず行っている彼にとって、こういった数字系にはかなり厳しい。
「遅れてすまないな。いや、集合時間9時ちょうどに来たのだから謝る必要はないか。むしろ9時よりも早く来たお前たちの方に問題が……」
「5分前集合に決まっているだろうが!」
くどくど話そうとする優の言葉を回し蹴りでこめかみを打つことによって止めたのは梶川だった。
梶川さんやっぱ半端ないな。
「梶川、貴様。何をするんだ!」
「あんたはいい加減、場を読むことを考えなさいよ。9時集合って言ったら基本5分前集合に決まっているでしょ!」
「それなら最初から8時55分集合にすればいいんだ!」
「そんな微妙な数字誰が言うか!」
出会うとすぐに口論する彼らを見るとなぜだかわからないが心が穏やかになった気がした。
それにしても優と梶川って仲が良かったんだな。普段学校で話しているところを見ないからてっきり知り合いではないと思っていたが。
こうして、全員集合したことで俺たちは遊園地の中へと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます