第27話 死線③
「斉藤! 二時方向補助! 横芝もけん制を入れろ! 移動と同時にアツコに
「「はい!」」
吉岡の指示と共にケンロウとチヒロが素早く動いて、二時方向から溢れてこようとする
「レナ!」
「分かってる!」
チヒロを庇う様にして
「
レナ、ケンロウ、避けて!」
チヒロの呼びかけに答えてレナとケンロウは飛び退る。
「
魔法陣の輝き共に水球が五つチヒロの前に生まれた。
「嬢ちゃん! アンタやるねえ……! 芳賀、次はアタシらの番だ! 嬢ちゃんにデカい顔したかったら相応の働きをしな!」
チヒロに賛辞を残しながら、美濃部が完全に統制を崩した
(もうすぐ、もうすぐ六階層の主通路に復帰できる)
その事実にレナは安堵の息を漏らす。結局、吉岡率いる混成パーティが選んだのは六階層内を迂回して主通路に戻る案だった。普通に主通路を抜けるよりも三倍以上時間が掛かる。それでも囲まれる恐れのある七階層に抜けるよりは、安全度が高いと判断したためだ。
「……あと、少しだね!」
「ああ、夕飯が恋しいぜ!」
レナの雰囲気を察してチヒロとケンロウも意気を高める。正直なところ、空元気も良いところだ。通常なら帰還を選択する時間帯から追い打ちを掛けるように始まった脱出行だ。体力はとっくの昔に底を付いている。ただ今まで体験したことの無い危機的状況の連続に、精神が高ぶって良く分からなくなっているだけだろう。実際の所、チヒロも魔術枯渇の一歩手前で肩で息をしているし、ケンロウも細かい生傷がそこら中にある。そういうレナだって、ケンロウ程ではないが傷だらけだ。盾が相当に重く感じるようになってきていることからも、限界は近いのだろう。
(時間の感覚もめちゃくちゃだしね。今が何時なのか良く分からないや……)
主通路を抜けるより三倍近い距離を歩いたのだ。随分と時間が経ったことだけは確かだろう。時計を見てしまうと心が折れそうなので見るのをやめる。【
(あと少し…。あと少しだから……)
そう呪文を唱えるようにレナは言い聞かせながら、重くなった足取りを一歩一歩踏みしめていく。
「よし! 主通路だ!」
先を歩く片岡の声が響いた。その声は喜色に満ちている。その声に反応して、レナも視線を上に上げる。確かにそこに側道の出口を見つける。その奥は、
片岡が嬉しそうに側道出口に駆け寄っていく。パーティの隊列が乱れる。
「待て!」
吉岡が鋭い声を発するが、片岡が側道の出口に近づく方が早かった。
吉岡以外は、他のパーティメンバーもそんな片岡の行動を厳しく止めたりしなかった。その気持ちは嫌でも分かったからだ。消耗と終わりの見えない戦いに対する苛立ち。そしてその戦いに終わりが見えた時の嬉しさだ。皆、疲れ切っていた。特に【
「大丈夫ですよ。もう出たも同然だ」
確かに主通路に向かうにつれて
片岡が側道出口にたどりついた時、主通路から一体の
「ユウヤ! 戻るんだ!」
「ミツテルさん、心配し過ぎですよ。 主通路に伏兵はいません! 俺たちあの攻勢を突破したんですよ!」
そのことがよほど嬉しかったのだろう。片岡は気が大きくなっているようで、
(あれなら私の
非力な為に盾だけしか装備しておらず、攻撃手段の少ないレナですらそう思う。六階層が主な狩場である【
(あれ罪人や犯罪奴隷の人が付ける首輪に似ている気がする)
「……? 吉岡さん。あの
念のため確認しようとレナが吉岡に伝えようとする。その
Gyyyy!
反応は激烈だった。
おかしいと感じたのはレナだけでは無かった。吉岡は完全に足を止めて様子見に入り、チヒロも防衛魔術の詠唱に入る。片岡も先ほどの余裕は消え失せて、パーティに合流しようと
しかし今回に限って言えばそれは既に遅すぎる行動だった。
「伏せろ!!」
「
吉岡が吼え、チヒロが魔術を発動し、レナがチヒロの前で盾を構えたその時。
爆炎が視界を満たした。
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