第26話 死線②
「チッ! 先にやられた! 脱出するぞ! 足を止めるな!」
突然の振動。それがどこかで起こった爆発音だと気が付いた時に、舌打ちしながらも最も早く状況に対応したのは吉岡だった。
すぐに抜剣すると剣に淡い魔力の光を帯びさせる。東総重工社製、
「アツコは後方警戒、ユウヤは僕の後ろに! 絶対に傷を受けるな! 【
【
「アツコ!」
「
吉岡が呼びかけると、アツコはイラついた様子で後方から答える。未だレナの視界には一匹も姿は見えない。しかし探索に特化している
【
「――ッ! 駄目だ! クソ、このための爆発か!」
不意に吉岡が怒りに満ちた声を上げる。既に着いていく事に精一杯で、周囲など気に留める余裕の無かったレナはそこで我に返る。吉岡が不愉快げに見る視線の先に崩れた洞窟の壁が見える。そこから先の通路が無いのだ。
(通路が塞がっている!? あの爆発で
その状況の深刻さに改めて気が付く。普通、
(四節の主通路が! コレだと私達地上に帰還できない!)
六階層は網目の様に広がっているが、植物の主根と側根のように上層に抜けるために全ての通路と繋がる主通路があった。それが四節通路だ。それが今こうして破壊されている。そこに破壊者の悪意を感じる。抜け道は無いわけでは無いが、七階層を経由したり、六階層の中を迂回して三倍以上の距離を歩かなければならない。そして敵が意図して主通路を壊した以上、他の通路もすんなりと通れるとはとても思えない。
「誰ッ!?」
「た、助けてくれぇ! 敵意は無い!」
不意に美濃部が今、自分たちが抜けて来たのとは別の側道に鋭い視線を向ける。と、同時に男が飛び出して来た。
「あんた! 【
ケンロウが警戒を隠さない声を上げる。目の前に現れた男はクラン【
「山崎はどうした!」
「トオルの奴はやられちまったよう! あいつらに滅多刺しにされて……」
「芳賀、テメエ連れて来やがったな! ミツテル、来るよ!」
吉岡が芳賀に問いただしそれに芳賀が答えている途中に、重ねて美濃部が鋭い剣幕で遮った。調度そのタイミングで側道の暗がりから、何かが投げ込まれる。それらに反応できたのは吉岡達だけで、【
その投げ込まれた物体を視認した時、レナの口からはヒュと悲鳴にすらならない吐息が漏れた。
「オアアッ!?」
次に気が付いたケンロウが驚きと恐怖を半々に分けたような悲鳴を上げる。周囲も悲鳴こそ上げなかったがその物体が何かを確認すると、息を飲んだ様子が伝わって来た。
投げ込まれた物体は山崎の頭だった。瞳孔が開き切り、驚いたまま気絶したような虚ろに空ろな表情と目が合ってしまったレナは、そのまま固まった。レナの異変に気が付いたチヒロがレナの腕に縋りつく。
「――ハァッ! ……ハァ……ハァ」
僅か数瞬の事だったが呼吸も止まっていたらしい。冷や汗が伝う感覚共に心地良いとは言えない
嘔吐に至らなかったのは決してレナの意志が強かった訳では無い。状況が許さなかっただけだ。我に返ったレナが顔を上げると、そこには暗闇に二対ずつからなる暗く濁った光点が、空間を埋め尽くすようにびっしりと浮かんでいた。その殺意の乗った光点の一つ一つが、
「う、うそ……」
か細い声がレナから漏れる。
「狼狽えるな! 装備を整えろ! 生存を諦めるな!!」
レナの気持ちが完全に折れかけた時、後方から鋭い声が上がった。振り返れば吉岡が、厳しい表情で檄を入れていた。その顔に余裕は無かったが、闘志も失われていなかった。
「横芝! 詠唱準備! 一〇時方向側道に最大級のを叩き込め! ユウヤは
吉岡の言葉は折れかけたレナの心に沁み込んで、再び手足に力が入るをの感じる。吉岡がB級冒険者として周囲の者から認められている理由が分かった気がする。こういった危機的な状況で周囲の人間を引っ張って行けること、自らが士気の中心となって奮い立たせられること。こんな絶望的な状況でそれが出来る人間はやはり普通じゃ無い。普通じゃないからこそ、冒険者として頭角を現せるのだ。
レナは吉岡から貰った具体的な指示で、自分の役割を認識する。役割が与えられれば動くことが出来る。必死に動いてさえいれば、絶望に足を取られる事は無いのだ。ゴクリと唾を飲みこむと背中に背負った鉄板で縁取られた木製の大盾を、チヒロを
チヒロが空中を探る様にしながら魔術を構築していく。一つ一つ詠唱を行うごとにチヒロの足元に浮かぶ魔法陣に魔素が満ちていく。
「
チヒロの頬を汗が伝う。それほどまでに細かい作業を必要としているのだろう。そして魔法陣の光が最大限に達した時にチヒロは、吉岡に発動のタイミングをゆだねた。頷いた吉岡はぐるりを皆を見回す。
「生き残るぞ、皆! 行け、横芝!」
「
魔法陣がひと際強く光輝いた。同時に仲間と
ヒナタの精霊魔術。ヒナタは魔術に
魔術を放ったヒナタがぐらつく。
「大丈夫――?」
「大丈夫!」
二人は短い言葉で確認をし合う。チヒロはレナの顔を見るとニコリと笑って、支えているレナから離れた。すでにチヒロの脚には力が戻っている。
「続け!」
まだ残火の残る側道に吉岡が、跳躍に近い速度で突っ込んだ。チヒロの魔術から生き残った
(す、すごい!)
レナはその恐ろしい程の身体機能強化に驚愕する。ケンロウは口が開いているし、チヒロも表情を取り繕っているが目を見張っていることからレナには驚いていることが分かった。
「【
後ろから美濃部の檄が飛んで我に返る。見れば吉岡は側道の奥に消えようとしている。敵を切り開きながら進んでいるというのに、レナ達が走るのと変わらない速度だ。レナは
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