第19話 過去⑤
近づくにつれて
(やっぱり、何かあったんだ!)
先ほどの通路の終わりが見えてきた。そこから先はさっき男が倒れていた開けた空間へと出る。トーリに既に状況を確認する余裕は無かった。理由は何にせよ、ここで止まればまた足が完全に止まる。勢いで行くしかない。
トーリは腰に下げた剣を鞘から引き抜くと、全速力で空洞内部に侵入した。
(
まず目に飛び込んできたのは、無数の
(あいつら人間を爆弾に使いやがったのか……!)
奥歯がギリと嫌な音を立てた。沸騰しそうになった怒りを何とか留める。ヒナタが冒険者を助けようと近づいた、もっとも効果的な場面で爆発させたはずだ。ヒナタも無傷では無いだろう。
(名無し三、
足を止めずに素早く周囲に視線を巡らしてヒナタを探しながら、敵の数を補足していく。すると
「ヒナタっ!」
そこには満身創痍のヒナタが戦っていた。左腕は負傷しており出血し力なく垂れている。その他の箇所も傷が無いところは無い程傷だらけだ。白銀の鎧は泥と自らの血、そして
(なんだあいつは!?
ヒナタが戦っている相手を見てその異様に思わず目を見張る。普通
『ninゲンンンゥkoロスゥウア』
その
(
「そこをどけええッ!」
周囲に居る
(囲まれたら終わる……!)
(狙うは脚か!)
殺せなくても相手の機動力を奪えば戦力は大幅に下がる。トーリは狙いを付けた
Gya!
攻撃を受けた大腿から激しく出血して
止まらない。
そのことを強く意識しながら、脚を切り裂いた
視界の端に
(まずい!)
使う言語が違うために
トーリの隠れた岩に炎弾が当たり火の粉が弾け、氷矢が砕ける乾いた音を連続させる。
(――くッ)
氷矢によって浅く切り裂かれた左の二の腕から既に血が滲み始めていた。緊張と痛みによって荒れ狂う心拍と呼吸を、深呼吸によって整える。幸い致命傷ではない。どうせ長期戦を行うだけの力も体力も無いのだ。多少の怪我で体力を削られようと結果は変わらないはずだ。それに今はこの魔術の雨が終わる前に岩陰から飛び出すことの方が先決だ。飛び出す方向は左右の二方向。近接の
(魔術が終わったタイミングで近接が仕掛けてくる。どっちに飛び出すか、だ!)
トーリは右側から飛び出した。岩陰の向こうを気配で感じ取れるほどトーリの技術は高くない。詰まる所、勘しかトーリの頼るところはない。
(
トーリの選んだ先に待ち構えていたのは
(俺にやれるかッ!?)
(だからって止まる訳には行かないんだよ!)
トーリは姿勢を落とし、地を這うような姿勢で突撃を掛ける。直線ではなく大きな弧を描きながら進むことも忘れない。格上の相手に出し惜しみは無しだ。
「ああああッ!」
恐怖を推進力へと変えて踏み出す。半身になり剣の柄頭ぎりぎりを持ちながら、
「ごフッ」
だが、トーリも無傷では済まない。槍の穂先が右の脇腹を捉えていたのだ。トーリの最安の革の胴当てではとてもでは無いが、金属製の武器の攻撃に耐えられるようにはできていなかった。咳と共に出たのが、唾液だけでは無いとトーリは悟る。
(ま……だ、だァッ!)
深い裂創ではあるが、槍はそのまま地面に転がっていた。槍が残る貫通創ではない、内臓も出てきていない。まだ運は残っていると自分自身を鼓舞する。脇腹が強く熱を放っていて、痛いのかすら良く分からない。傷口から血液というよりも、生命の源が流れ出ている気分だ。何とかしゃにむに足を動かし続けているが、一歩を踏み出すごとに膝が抜けてしまいそうだ。
(
朦朧とする意識の中で、次の獲物を近場に居た
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