第12話 請願
「ふむ、
地底湖の離れ小島に戻ったトーリはジュリと情報の共有を行っていた。ジュリは考え込むように首を傾げる。
「上層は
「それはそうじゃろうな。腐っても
「なあジュリ。元々の予定を繰り上げて
どうしたものかの、と思案するジュリを見て、トーリは意を決して提案をする。
「貴様は何となくお人好しなところがあるからのう。そう言いいだすのではないかと思ったわ」
溜息をついて、やや不快そうにトーリに半眼を向けるジュリ。その様子に唾を飲むトーリ。口約束とは言っても主従の契約を結んだ関係だ。ジュリに拒否されてしまったら、トーリにはそれを覆す術を持たない。
「そもそも[
ジュリの怜悧な視線に耐えながら、確かにその通りだとトーリは思う。トーリにとって[
[
そうジュリはトーリに問いかけている。お前の覚悟はその程度か、と。そんな甘い覚悟に振り回されるのは確かに不愉快だろう。トーリが逆の立場だったとしても不愉快に思うはずだ。
「分かっている。俺は甘い。例え上層と言えども
「その通りじゃ。自分の生死について自分で責任を持つからこその冒険者。逆に言えば貴様に
ジュリの鋭い舌鋒がトーリの感情を
―――トーリ、生きて。
二年前の記憶が再生されて、トーリの耳元で少女の声が囁かれる。既に失われた少女の声だった。
(分かっている。自分がどうしようもない人間だなんて。この二年間逃げて燻って。ヒナタに向けられる顔なんて無い)
全ては手遅れで。今更何を足掻こうとも過去が戻ってくる訳では無い。それでもトーリは縋らずには居られない。次の選択によって、間違ってしまった過去の選択の罪滅ぼしになるのではないかと。身を焼く劫火が少しは和らぐのでは無いかと。
トーリはジュリに対して深く
「上にいる初級の冒険者の中には、孤児院の出が多いんだ。 俺も孤児院の出だ。
若い内に納税を肩代わりしてくれる親も、親に通じるコネも無いからだ。結果、多くの孤児院出身者は奴隷となって成人になっていく。それを良しとしない子供たちが冒険者になる。冒険者登録は十三歳から可能だから、十五歳までにしっかりと稼げる冒険者になれば奴隷落ちを免れる。毎年冒険者を目指して多くの子供たちが
「[
一息に言い切った。ジュリにはトーリに付き合う義務なんてまるで無いのだ。むしろ約束を違えているのはトーリの方だろう。だからジュリから課されるどんな課題でも、受けようと思っていた。たとえそれが、自分の死を持って
沈黙の後、頭を下げ続けるトーリの頭上で溜息が聞こえた。
「顔を上げよ。貴様の宣言には、一片も歩み寄る気が無いではないか。交渉は妥協点を探るものぞ」
トーリが顔を上げると、苦笑いを浮かべたジュリがいた。何がツボにハマったのか徐々に笑いは大きくなり、最後にはくつくつと笑いをかみ殺す。
「良かろう。その案に乗ってやろう。じゃが前回の[
トーリは頷く。確かに前回の時そのような話をされた記憶がある。要は魔術を呪い化して、条件に合わせて自動で発動するようにしたものらしい。
「それは、何か問題があるのか?」
「我の方で痛みの総量のコントロールも出来ぬ場合も出てくるやもしれぬ。貴様はそれで精神をやられる可能性もある」
「それはつまり、常に調教の為の研究をしている状態になるということだろ。それは大丈夫だ」
[
ジュリの同意を得られたトーリは、深く頭を下げる。
「本当にすまない。感謝する。でも、いいのか?」
この提案にジュリの旨みはない。ジュリが言った通りトーリの我儘をそのまま通した形だ。
その疑問にジュリは、処置無しといった様子で
「良いも悪いも無かろう。貴様自分で言っておきながら……。それにまだ借りを返して貰ってない。これも貸し一じゃ。貴様は多重債務者じゃから、
「ああ分かった」
「安請け合いも貴様の専売特許じゃの……。まあ良い。地上に出る算段を立てるかの」
トーリの返答に何が気に喰わなかったのか、ジュリはぷらぷらと面倒くさそうに手を払う動作をすると、トーリとジュリの共視界上にトーリが獲得してきた
「さて地上への
こうして地上帰還作戦が開始された。
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