第10話 特殊技能:ユニークスキル
(暇じゃのう……!)
ジュリは炎熱魔術で焼いた芋を齧りながら暇を持て余していた。この芋は地底湖の離島で取れる、唯一の栄養源だ。
トーリが斥候に出て
比較的無口で硬い男かと思いきや、意外と抜けている所が気に入っている。遊びがいがある。
(逃げ出すことはないじゃろうが。それにしても遅いのう)
救命の代償に主従の誓いはしたものの、隷属魔術は使っていない。人の意志を縛る魔術は適切な判断力を奪う。一瞬の判断が生死に繋がる冒険者にとって、魔術に意志を強制される隙は命取りになる。戦士としての質を落としてまで隷属を強制するのはジュリの本位では無かった。
(それに[
別に嘘をついているわけではないので、騙してない。
(……父や兄がいればあのような感じなのだろうか)
ジュリの記憶に父や兄の記憶はない。子供の頃の記憶は真っ白な建物の記憶ばかりだ。それに賢者となってからは畏怖と尊敬の念を持って敬われることはあっても、あのようにそこらの子供のように頭を撫でられた事は無い。
(――ふん! 立場も弁えぬ小僧が!)
耳まで熱くなってきた事に腹を立てて、これは純粋なギブアンドテイクの関係性だとジュリは何度も反芻した。
(それにしてもこの世界は随分と歪んだ形をしておるの)
やることの無いジュリはそのままこの世界について考える事にする。恐らく十七年前の
(冒険者、と言っても結局は準自衛軍扱いになるんじゃったな)
予備役的な扱いになるらしい。詰まる所、政府に金がないから日銭は自分で稼ぎ、有事の際は軍に合流する。ギルドとして成立はしているものの自衛軍の意向が強く反映され、かつ冒険者は正規自衛軍より下に見られるのが常らしい。
(ギルド特有の国や宗教組織に対しての抑止力の効果は薄い訳か)
冒険者ギルドは国であろうとおいそれとは口を出せない治外法権を有している場合が通常だ。
(トーリの驚き様を見ていると、恐らく単独での魔術研究の深度はこちらが上。うまく立ち回る必要があろうな)
ただトーリの知識が浅いだけかもしれないが、しかし魔武器に関する知識は比較的多岐に渡っており、機構もそれなりに理解はしているようだった。
(ネーミングセンスは最悪だったが。思い出したら殺したくなってきたの……)
(地上に出てからが問題か……)
あまりに腐敗していてもそれはそれで面倒だが、ある程度利権を食い合うというか、竦み合いをしていた方が取り入りやすい。もっとも注意しなければいけないのは、権力の一極集中が進んだ軍国主義国家だ。思想教育まで進んでいると、懐柔すら難しくなる。この世界はそこまでではないようなのでそれは一安心だが。どこかの組織に所属させられて息苦しい思いをするのは願い下げだし、拘束軟禁でもされたら事だ。[
(だが
(結局、権力者への接触はある程度必要か)
苦手なんじゃよなあ権力者、とため息をつく。奴らは鼻が効くし、自分の利に敏い。ついでにプライドが高くて傲慢だ。できるだけ関わりたくないが、最低限はどうしようもなさそうだった。
(まあしょうがないの。とりあえず方針は決まった)
ジュリは焼き芋の最後の一片を口に放り込むと、魔術を詠唱する。
「
第一階位:
するとジュリの目の前に光のプレートが出現した。ジュリの記憶を光線の位相を揃えて空中に投射する魔術だ。今中空には一枚のプレートが浮かんでいる。治療中にトーリからこっそりと取得したステータスだ。既にバラしているので隠す必要もない。
ジュリは
(
ジュリにとっては当たり前のステータス表示でも、トーリたちの世界で一七年前は大騒ぎだったそうだ。まあ世界に自分の存在を突然規定されたら驚愕する。本来は
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黒沢透利(くろさわとおり)
種族:人間
年齢:17歳
性別:男
[刀剣術][近接格闘術][気配遮断][気配察知][身体機能向上]
[暗視][薬学][料理] [魔術行使]
[
[憤怒][忘我][発狂][蛮勇][痛覚鈍麻][超回復][状態異常軽減][身体機能向上]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(しかしまあ冒険者としては可もなく、不可もなくじゃな。器用貧乏さが如実に表れているというか……)
何でも幅広く齧っているような
ステータス表示は魔素を利用する
ステータスを閲覧するときは、自分の検査用に魔術で調整した魔素を相手に放射して得た反響と、
(かつて身体機能の下位項目について研究していた奴がおったの)
ステータスについて思いを馳せる内に、過去に読んだ書物について思いつく。確か、腕力、生命力、など生物の構成要素の下位項目を立てて、数値化しようと研究した大魔導士がいたのだ。ジュリの知る範囲内では結局上手く行かなかったらしい。たとえその場で数値化してもすぐに変動して結局使い物にならなかったのだ。例えばその場で生命力を読み取ったとしても、その時の精神状態や体調、環境、その他大量の因子によってその最大値は大きく変動してしまうのだ。命の上限が一〇〇で、その内今のあなたは五〇の生命力を有していますと言われても、上限も大きく変動する上に減り方も綺麗に一〇〇等分して順当に減るわけでもなければ正確に数値する意味はなくなってしまう。結局ステータスで過度に相手の実力を読み解こうとする行為は、意味がないとして廃れてしまっている。
(まあ他者との比較ならば、大まかな使い方もできるんじゃけどな)
絶対値では難しくても相対値であれば、ある程度は数値化は可能だ。それも戦闘で積極的に使えるかというと微妙なところだが。
例えば魔術を連続的に行使できる総魔力量は、ジュリはトーリの二〇〇〇倍位はある。トーリを三〇とするなら六万ぐらいといったところだ。だがこの『総魔力量』は空気中に浮遊する魔素を体内に取り込んで、魔力に連続的に変換できる総量を示しただけのものだ。どれだけ続けて魔力を作り続けられるかを示しただけのものなのだ。魔術として効率的に事象改変を導けるかを評価するのは『魔力効率』だし、強力な魔術の発動に必要な単位時間当たり最大魔力の消費量を『最大魔力』と言ったりする。加えて、魔法陣に代表する魔術補助具や詠唱の適切な選択など、相対数値にすら出来ない部分も多くある。
ジュリにしても総魔力量は
(んー、まだ帰ってこんか……)
トーリのステータスを
(この回数を[
まず初回の[
(
大雑把な
それが単に確率の問題なのかは不明だ。そして最大の謎が果たして
(結局、卵と鶏になるんじゃがな)
ジュリは能力の結果と
(誠、罪深いものよの――)
その
(ジュ……、聞…え…か?……)
不意に脳内にトーリの声が響いて、ジュリは飛び起きる。蘊蓄を垂れ流すのは嫌いではないが、さすがに一人だと飽きる。
「やっと戻ってきおったか! 暇じゃ! 暇じゃ! 早く帰ってこい!」
別に声に出す必要は無いのだが自然と漏れる。さてまた忙しくなるなるな、とジュリは考える。地上に行くまでにあと何回、[
(テス、テス。普通に通じるようになったな。問題ないか?)
数時間ぶりに聞いたトーリ声ははいつもと変わりのない、何となく感情の薄いような、年の割に老成したものだ。
「問題あるわい! 変化が無いのは苦痛じゃ! 芋にも飽きた! 主人を置いて貴様は何をしておる! それに、てすてす、とはなんじゃ。貴様意味が分からず使っておるな。我にも伝わって来ぬ!」
ジュリの訴えに念話の向こうで苦笑される気配がした。普段であれば怒るところだったが、今は気にならない。それがトーリが戻って来た安堵によるものだとは、ジュリ自身は気が付かない。ただ正体不明の浮ついた気持ちは研究対象が戻って暇な時間が終わったことに喜びを感じている、と自分を納得させた。
(ああ情報を持ち帰ったから一緒に分析してくれ。あと一つ問題が起きた)
トーリの言葉にジュリは、まかせよ、と強く答えた。
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