最終話 あの日の校庭に立つ

 未咲「あっ、玲香ちゃんだ。おーい!」


 ありふれた呼びかけに、玲香ちゃんは気丈に反応してみせる。


 玲香「……なによ」


 あれっ、きょうの玲香ちゃん、なんだか不機嫌なような……。


 時は進んで、わたしたちは受験会場にいた。

 下半身を濡らしてばかりの学生生活だったけど、今回ばかりは失敗できない。

 この日のために、しっかりとその癖は直してきた。たぶん大丈夫、だと思う。

 何が起こるかなんて最後までわからないけど、きっと大丈夫。

 身体をひと震わせして、試験に臨んだ。


 ♦


 受験が終わり、わたしたちが最後に立ち寄ったのは、おなじみの学校。


 未咲「昔、ここですってんころりしちゃって大変になったことあったよねー」

 玲香「いまとなってはすっかり懐かしいわね」

 未咲「思い出したら顔が真っ赤に……そういえばトイレ行ってなかったなぁ」


 そう言った未咲だったが、なぜかその場から一歩も動こうとしない。


 未咲「玲香ちゃん♪」


 謎に満ちたテンションで、未咲が振り返る。


 未咲「最後にここで、記念おもらししていってもいいかな……?」


 すればいいんじゃないの……腕を組みながら、そう無言で伝えることにした。


 未咲「えへへ、ありがと……それじゃ、はりきってやっちゃうね……」


 張り切って、という割に、挙動はおとなしい。

 そういうものかもしれないけど、このときことばのズレがなんだかおかしかった。


 しゅしゅしゅっと細かい音がする。まぎれもなく未咲の下半身からだった。

 相変わらず気持ちよさそうだ。つられてしてしまいそうになる。


 未咲「何回だって、この快感をあじわっていたいなぁ……」


 未咲が満足したころを見計らって、わたしからも提案を持ちかける。


 玲香「あの、未咲……」

 未咲「ん? どうしたの、玲香ちゃん?」


 見ると、うっすら額とかに汗をかいているような様子が見受けられた。


 玲香「実はわたしも、その、したくて……朝から、ずっと我慢してるの……」


 衝撃の告白だった。

 まさか玲香ちゃんのほうが、わたしよりも上を超えてくる日が来るなんて。


 玲香「膀胱がおかしくなりそうで……はっ、んっ、出して、いいかしら……」


 全身が青ざめるくらいに我慢している。下半身の動きも硬く、つらそうだ。


 未咲「無理はよくないよ、玲香ちゃん! いっぱい出しちゃっていいから!」


 いくら集中力が増すからと言って、ここまでする必要はないと思った。

 もしかしたら他の理由もあるかもしれないけど、どちらにせよよくない。

 わたしは玲香ちゃんに、一刻も早く楽になるように必死に促し続けた。


 玲香「……ごめんなさいっ」


 誰かに謝りたくなったのか、玲香ちゃんがそう言った。

 その意味をはかるにはあまりにも短いけど、なんとなくその気持ちは伝わった。


 いきおいのあるおしっこが、玲香ちゃんの脚のあいだを通り過ぎていく。

 湯気はもちろんのこと、その量の多さに少し圧倒されそうになった。


 未咲「すごいにおい……」


 自分では決して味わうことができない、本物のおしっこのにおい。

 わたしまでつられてしてしまいそうになる。玲香ちゃんとおんなじだね。


 未咲「んっ」


 気づけばわたしの手は、自分の股に一直線に伸びていった。


 玲香「ちょっ、あんたいままでわたしのことそんな目で見てたわけ?!」


 ちょっと違った。

 完全に間違いってわけじゃないけど、なにせこれまでいろいろ我慢してたわけで。

 欲望がおさえきれなくなって、ついことに及んでしまった。


 未咲「でっ、出る……!」


 ぷしゃぁぁ……噴き出してきたのは、おしっこよりも透明な液――潮だった。


 玲香「あのね、誰か見てたらどうするつもり……」

 未咲「あはは、ごめん……でも、もう見られてるよ?」

 玲香「見られてるって誰に……って、あら、春泉じゃない」

 春泉「ハウディー! ふたりとも、受験おつかれさま!」


 慣れているのか、この状況についてつっこむ様子は一ミリたりともないらしい。

 代わりに春泉は、これまた誰よりも丁寧なイラストを描いてきてくれたようで。


 春泉「ハルミには縁のないことだけど、やっぱり描かなきゃって思って……」


 そう言って、わたしたちに手渡してくれた。


 春泉「それじゃ、バイバイ! またいつか、どこかで会おうね!」


 背を向けて走っていく春泉の横から、なにか煌めいたものが見えた気がした。


 玲香「……行っちゃったわね」

 未咲「そうだね……まだお礼も言えてなかったのに」


 ちなみに春泉は今後、どこか働き口を探して就職するつもりらしい。

 応援したい気持ちはあったけど、風のように去ってしまってはことばもない。


 玲香「帰りましょう」

 未咲「そうだね」


 ふたりなかよく脚を濡らして、それぞれ帰路についた。


                           あいすくーる!3 終

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