第33話 ペットボトル飲料

 未咲「ねぇ玲香ちゃん、これ、飲んでくれる……? ///」


 そう言って未咲が差し出したのは、うす黄色い液体が入ったペットボトル。


 玲香「あんた、これ……!」


 甘い匂いが鼻をかすめたこともあって、その正体はすぐに見破られた。


 未咲「そう、わたしのおしっこ……♡」


 出し終えて気持ちがいいと言わんばかりに、未咲がいじらしく笑った。


 未咲「利尿剤も飲んだから、思ってたよりすぐに出ちゃって……

    いっぱい頑張って出したんだよ? 飲んで、くれるよね……?」

 玲香「それは……」

 春泉「はいはーい! ハルミ、それ飲む!」

 玲香「えぇ……よく手挙げたわね、あんた春泉……」


 おいしそうに飲むクラスメートを横目に、げんなりする玲香ちゃん。


 未咲「あっ♡ 春泉ちゃんが飲んでるのを見てると、

    なんだかわかんないけど、勝手におまたが疼いて……!」


 ぴくっ、ぴくっと身体が反応して、ヘンな声まで出てしまう。

 と、そのとき。


 未咲「あ~~~~っ、ちょっと出ちゃった!」


 言って、未咲はスカートをみずからまくりあげた。

 利尿剤の効果がまだ続いているのかもしれないと、少しだけ思った。


 玲香「ちょっ、未咲あんたねぇ……///」


 珍しく玲香ちゃんがいい反応をした。目を背けても、たぶん視界には入ったはず。


 うみ「あっそうだ、ロコ、瑞穂、これ飲むか?」


 そう言ってうみさんが差し出したのは、同じく黄色い液体の入った飲み物。


 ロコ「えぇっ、うみちゃん……?! ///」

 瑞穂「それってまさか、あなたのおしっこ、じゃないですよね……?」

 うみ「何言ってんだよ、正真正銘ただの炭酸ジュースだっての。

    未咲なんかと一緒にすんなよ。もしかして飲みたかったのか?」

 瑞穂「だっ、誰もそんなこと言ってないじゃないですか!」

 うみ「なぁ瑞穂、どうでもいいけどさぁ、そろそろ敬語やめね?

    なんかお前と話してっと、なんかこう……な? わかるだろ?」

 瑞穂「いやですよ。誰が馴れ馴れしくするものですかっ」

 うみ「はぁ……まぁいいんだけど、とりあえずもらってくれよ。

    これ飲んだら身体冷えちまって……やばっ、早く行かないと……」


 言って、うみさんは教室を飛び出そうとしました。ですが……


 うみ「嘘、だろ……? こんな我慢効かなかったっけか、あたし……」


 下を向いて、一歩も動こうとしません。これはもう無理みたいですね。


 うみ「……!」


 両手を顔に当てて、下半身から音をさせはじめました。目も当てられません。

 ですがその音を聞いていると、こっちまでしたくなってきてしまいそうです。


 瑞穂「ちょっとうみさん! わたしまでトイレしたくなるじゃないですか!」

 うみ「知らねーよ、勝手に行けばいいだろっ……!」


 あーぁ、泣いちゃって情けない。

 こんな人なんてほっといて、わたしもさっさとトイレに……。


 瑞穂「あれっ?!」


 身体が動くのを許してくれません。これはきっと、わたしも限界なのでは……。

 ……思い出しました。きょうの予報で最低気温がかなり低かったことを。

 零下なん度だったかは忘れましたが、かなり寒くなると言っていたはずです。


 瑞穂「動いたら、出ちゃう……?!」


 わたしはめったに漏らさなくなったので、いまかなり動揺しています。

 出口がきゅうきゅうしてしまって、いまにも全部ぶちまけてしまいそうです。


 瑞穂「どうしようっ、どうすれば……!」


 そのときでした。


 瑞穂「はっ、あのペットボトルさえあれば……!」


 そう、うみさんのそれです。ところがここでひとつ、大変な点に気づきました。


 瑞穂「これ全部、のまなきゃだめなの……?」


 横を見れば、周りの雰囲気に呑まれたロコさんまでもが犠牲になりそうでした。

 未咲さんはすでに漏らしています。春泉さんもまた、うろたえている様子です。

 (春泉さんの場合、見ようによっては自業自得と言えなくはありませんが……)


 瑞穂「誰もこれを飲んでくれる人がいない……そんな、本当にどうしよう……!」


 意を決して飲もうにも、やっぱり意識がそれを許しません。

 誰かに頼もうとしても、とてもそんな雰囲気にはなっていません。


 汗と涙が滲み出てきて、自分で自分が情けなくなりました。

 もしかしなくても、これはもうおもらし一直線です。


 いま、少しだけ下着に出してみることにしました。


 瑞穂「んんっ?!」


 自分でもびっくりするくらい高い声が出てしまって、思わず口を押さえました。

 ですがこれで、少しくらいは気が紛れたような気がします。

 乙女として、というか、この状況下で正しいのかどうかはわかりませんが。


 瑞穂「の、飲まないと……」


 みずからに課す拷問のようです。でも、これを乗り切らないと先には進めません。

 いまの自分がどんな顔をしているかわかりません。きっとヘンだと思います。

 出口がいっそう排泄を欲している気がしてなりません。なんだか恥ずかしいです。


 瑞穂「どうしよう、ほんとにでちゃうっ……!」


 そろそろ我慢している自分に嫌気が差してきたみたいです。

 また少しだけ欲に負けてみて、それから改めて考えてみることにしました。


 瑞穂「んんっ……!」


 すごい……おしっこって、こんなにあったかかったっけ……

 つい、そんなことを考えてしまいます。

 気がついたときには、手が勝手に濡れた部分に吸い寄せられてしまいました。


 瑞穂「もう、飲めない……おしっこ、いっぱいじゃぁぁって出したい……」


 子どもみたいなことを考えていても仕方ないですが、どうしようもありません。

 いまのわたしには、そんなことを考えるくらいに〝退化〟しているのですから。


 瑞穂「んくっ、んくっ……!」


 それでも完全なおもらしは避けたいと、一心不乱になって飲み干す上のわたし。

 時すでに遅し。やっぱり下のわたしはすでに踏ん張りが効かなくなっています。

 結末を悟ったのか、わたしは恍惚とした表情でその下半身を濡らし始めました。


 瑞穂「はぁぁぁ……!」


 何かが開けたような感覚。味わったことのないような快感が身体を駆け抜けて。

 わたしはくすぐったいような、だけど確かに気持ちいい排泄感を愉しみました。

 気づけばわたしは誰かの視線を浴びせられてるような気さえします。視線……?


 未咲「瑞穂ちゃん?!」

 瑞穂「やっとわかりました……みなさんのあの表情のわけが、ぜんぶ……♡」


 そう言って、瑞穂ちゃんは倒れた。


 うみ「おい瑞穂、しっかりしろ! たかがおもらしじゃねーかよ!」

 ロコ「されど、じゃない、かなぁ……」


 もうひとり、ここにも危ないクラスメートがいた。

 座りながらたいせつなところをぎゅっと押さえて、ずっと動けずにいたらしい。


 春泉「は、ハルミも……」


 ふたりしてもじもじ。意外にも、このふたりが同時に催すのは珍しい。

 それだけこの日の気温が低いということかもしれないし、違うのかもしれない。


 うみ「おいおいどうすんだよこれ、全員おもらし祭り状態じゃねぇかよ……」


 絶望にまみれたふたりの表情。一歩も動けないのはさすがに信じられなかった。

 だからあたしがまずは手本がてらに動いてみる。意味があるかは知らねーけど。


 うみ「ほら、こういう感じに動いてみるんだよ! じゃないと……」

 ロコ「はぁ、はぁ……だめぇっ、もうがまん、できないよぉっ……」


 気づけばロコは自分が大切にしているぬいぐるみすら股に挟んで我慢していた。

 すでにうっすら染みができていて、心なしかそのぬいぐるみが悲しそうだった。


 春泉「あぁっ、出るっ……」


 先に音を上げたのは春泉だった。

 M字にしゃがんで、同性ながら目に毒な体勢になりながらのおもらしだった。

 よだれを垂らすくらいには乱れている。よっぽど我慢してたに違いない。


 じわじわと、ロコのぬいぐるみに染みが広がっていく。

 とても子どもには見せられない光景だ。こんなお姉さんがおもらしだなんて。

 だけどこのままでいいはずもない。あたしはとんでもない提案を持ち掛ける。


 うみ「ロコ、もう我慢すんな」

 ロコ「でも、でも……」

 うみ「しょーがないだろ、お前はじゅうぶん我慢したんだから、もう出せって」

 ロコ「そんな、やだよ……シュパーくんを、わたしのきたないおしっこで……」


 シュパーはロコが大切にしてるぬいぐるみの名前。

 それだけ思い入れのあるそれを股に挟むくらいピンチなこの状況を恨みたい。


 うみ「もう汚してるだろ。よく頑張った方じゃないか、お前にしては」

 ロコ「そうだけど、そうじゃないの……シュパーくんは、特別な存在なの……」


 そう言って、ロコは思い出話を始めた。そんなことをしている場合じゃないけど。


 ♦


 八才の誕生日を迎えたロコは、この日のプレゼントを楽しみにしていた。


 父親「誕生日おめでとう、ロコ」

 ロコ「……! ありがとう、パパ!」


 お父さんがくれたのは、小さめのぬいぐるみ。

 そのぬいぐるみが男の子だと聞かされて、最初はなんだかいやだった。


 ロコ「女の子のほうがかわいいのに……」


 最初はそう思っていた。だけど友達に見せたとき、すごく羨ましがられた。


 友達「いいなー、うちは女の子のものしか買ってくれないよ?」

 友達「そーだよそーだよ、ロコちゃんとーっても愛されてるよ!」

 ロコ「そう、なのかなぁ……」


 当時はその意味がよくわからなかったけど、いまはなんとなくわかる気がする。

 単純に考えれば、おままごとなんかのときに男の子役がいないと困る、

 みたいなことなのかもしれないけど、それだけじゃないような気もする。


 ロコ「人と違うものを買ってくれるのって、すごく特別なことなのかも……」


 だんだんとそう思い始めるわたしがいた。

 それからわたしはそのぬいぐるみを「シュパー」と名付けて、大切にしていた。

 だけどある日。


 男子「へへーん、おれさまのほうがかっちょいいぬいぐるみ持ってるぜ!」

 男子「なにそれすげー! 見せて見せて!」


 はた目にそれを眺めていて、何かが違うと感じ始めるようになった。


 ロコ「(あれっ、わたしのぬいぐるみ、やっぱり特別じゃないのかな……)」


 とぼとぼと帰るわたし。手にぶら下げられたぬいぐるみは悲しかったと思う。

 そのとき、一羽のカラスがわたしの大切にしてるそれを持っていこうとした。


 ロコ「やっ、やめて! 離して!」


 我を忘れるくらい叫んでいたと思う。

 ひとしきり格闘したところで、カラスはあきらめてその場を立ち去った。


 ロコ「はふぅ……もう会えなくなっちゃうかと思ったよ……」


 ふいに、わたしの中でこの子をずっと守り続けなきゃという気持ちが芽生えた。


 ロコ「(やっぱり間違ってなかったんだ……!)」


 ぎゅっと抱きしめたそのとき、シュパーくんに体温のようなものを感じた。

 それはもちろん自分の体温がその子に移っただけで単なる勘違いかもしれない。

 だけどわたしの中では、それはやっぱり特別だった。


 ロコ「(誰にも渡すことができない、大切なシュパーくん……)」


 手に抱えられてさながら上機嫌にも見えるシュパーくんがわたしは好きだった。

 そしてそれはいまも変わらない。

 みんなに理解されなくもていい。一生この子を大切にするって決めたから。


 ロコ「(これからもずーっと、わたしのそばにいてね、シュパーくん……!)」


 ♦


 ロコ「んんっ!」


 いままでとはあきらかに異なる量のおしっこが、ぬいぐるみに熱くかかる。


 ロコ「だめ……もう、全部でちゃう……」


 瞳はひどく潤んでいて、何もできずここにいるのが申し訳なく感じてしまう。


 うみ「ロコ……」


 気づけば自分まで太ももをこすりあわせていて、なんだかばからしくなった。

 んだよ、結局自分までつられてやんの……。


 ロコ「出して、いいんだよね……しょうがないよね、我慢できないもん……」


 自分を奮い立たせ(?)ながら、ゆっくりと深呼吸をひとつ。


 ロコ「すぅーっ、はぁーっ」


 よし、と言わんばかりに、ロコが真剣なまなざしをみずからの下半身に向ける。


 ロコ「ごめんね、シュパーくん……!」


 しぃぃぃぃっ、と高い排泄音を数秒ほどさせて、しばらくしてもう一度出した。


 ロコ「はぁ、はぁ……んんっ!」


 苦しそうにも聞こえるその声に、みな一様にどぎまぎしっぱなしだった。

 最後のひとりということもあって、注目度はかなり高くなってしまっている。


 ロコ「これで全部、かな……あぁっ!」


 短い叫び声とともに、今度こそ本当に膀胱に溜まったすべてのそれを出しきる。


 ロコ「ほんとにごめんね、どうしても我慢できなかったの……」


 申し訳なさそうにあやまるロコ。こちらまでたまらなくなってくる。

 思い出が穢されたようなものだ。無理もない。ロコはしきりに泣き腫らしていた。


 うみ「うーん……」


 感傷に浸っていたい気持ちも多少はあったが、こっちも我慢するつもりはない。

 あたしは大変なことになっている教室をあとに、目的の場所へと向かった。

 そういえばこのとき、自分がすでに漏らしていたことを忘れていた。

 正直どうかしていたと思う。


 ♦


 ところ変わって、放課後は未咲と玲香のふたり。

 思い出の場所に行きたいと未咲がいうので、ついていくことにした。


 玲香「ここって……」

 未咲「そ、昔よくここで遊んだよねー」


 ふだんは通学路と逆の方向なのであまり意識しないけど、そこに公園がある。


 未咲「それで砂のお城作ったとき、川も作ろうって話になったの覚えてない?」

 玲香「覚えてるわけないじゃない、そんな昔の話なんて……」


 嘘に決まっている。匂いで確実に覚えてしまっている。


 未咲「あれ、結果的に大問題になったよね……」

 玲香「色的には完全に排泄物だからね……誰だってびっくりするわよ……」


 みかんフレーバーのそれが、砂場のところに鎮座しているのだから、

 当然のようにそこで遊ぶ子どもたちは例外なく仰天することになってしまう。


 未咲「つい手を後ろにやっちゃったりして……いい思い出だなぁ」

 玲香「未咲以外のわたしたちにとっては最悪だけどね……」


 未咲はひとり笑い、自分で話しておきながら水に流してほしいと懇願してきた。


 玲香「どっちなのよ、まったく……」


 溜息をついて、その公園の近くで別れた。

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