第28話 廊下ではしたなく
??「あ、あの、未咲先輩!」
未咲「?」
振り返ると、そこには華奢な体つきをした女の子がいた。
??「わたしのおしっこおもらし、見ていただけますか……?」
うるっとした目で訴えかけてきたのは、一年下の後輩。
名前を聞くと、その子は卯月と名乗った。
卯月「授業中、ずっと我慢してたんです……見て、いただけますよね……?」
未咲「うん、いいけど……」
そう答えるしかなかった。だいぶ切羽詰まっている様子だった。
どう頑張ったって、この様子じゃトイレまで間に合わなさそうだった。
卯月「いつもはこんなことにならないのに、きょうに限ってはなぜか……」
もじもじと、そしてぶるっと震えながら、みずからの窮状を伝える。
制服の裾をまくり上げて、その上からがしっと自分の手で押さえつけている。
指が赤くなっているのを見て、これは相当がまんしていると思った。
卯月「あっ、でるっ、おしっこでちゃうぅっ」
そのときだった。
未咲「おや……?」
わずかではあるけど、卯月ちゃんの指元がふにふにと動いていることに気づく。
よく見ると表情もどこか扇情的で、見ているこっちまでどきどきしてくる。
卯月「わたし、これからここでいっぱいおもらししちゃうんだ……」
決まりきった未来にあらがう様子もなく、いとおしそうにこすっている。
卯月「えへへ……見ていてくださいね、未咲先輩……」
ぽとっ、ぽとっ……と落ちていくしずく。
その色はもちろんあの色。だけどこの子に関しては、匂いが他と違っていた。
卯月「わたし、未咲先輩のことずっと見てましたから……」
わたしと同じで、この子のおしっこにもなんらかの香りが漂っていた。
喩えるならば……そう、これは……。
未咲「わたしと同じ、苺……?」
卯月「そう、ですよ……待っててくださいね、いますぐ全部出しますから……」
これからおもらしするというのに、まるで喜んでいるかのようだった。
卯月「未咲先輩を学校でお見かけするたびに、
あぁ、この人の前でおもらしできたらどれだけ幸せなんだろうって……」
未咲「あはは……」
反応に困る。当の卯月ちゃんは喋りながら欲に任せて一心に零し始めている。
名前を知られているくらいだから、確信犯的にマークされていたんだと思う。
卯月「眠れない夜もありました……ですけど、あぁ、やっと願いが叶うんですね」
じゅっ、じゅびぃっ……と、女の子にあるまじき音を立てて排泄を開始した。
卯月「だいすきです、未咲せんぱいっ!」
じょわぁぁっと、それはもうわたしたちとは比にならないほど純粋に。
卯月「ぜひ、わたしとおつきあい、してくれませんか……?」
そんな目で訴えられたら、もう付き合ってしまうしかないじゃない……!
――そう一瞬は思ったけど、やっぱり思いなおすことにした。
未咲「ううん、ごめんね。わたし、もう誰とも付き合わないって決めてるから」
卯月「そんな……じっ、じゃぁ、あなたの横にいつもいるあのかたは……」
未咲「玲香ちゃんとはただの幼馴染だよ。それ以上も以下もないんだって」
卯月「そう、だったんですね……」
仲がよさそうだったので、てっきりそういう関係なのかと思った。
それを知りながらもなお、わたしは思いを伝えずにはいられなかった。
わたしって、ほんといけない子……。
未咲「気持ちよさそうな顔が見られて、わたし的には満足だったかな」
卯月「そう思っていただけたなら、こちらとしてもやった甲斐がありました」
それだけ言って、わたしはうっすら浮かんだ涙をふきながら去った。
未咲「すっごくあまい匂いだなぁ……これ余裕でわたし負けてるんじゃ……」
後輩が放つ強烈な芳香に、わたしはひとり感心しきっていた。
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