第2話 Be nervous at karaoke shop

 玲香「今週末、一緒にカラオケ店に行きましょう」


 平日のそのひとことがきっかけで、きょうのわたしたちはカラオケ店に。

 歌うのって、あんまり得意じゃないんだけどな……。


 ♦


 ひととおり歌いきった玲香ちゃん。

 はた耳で聞くと確かにうまかった。わたしは遠慮したいところだったけど……。


 玲香「未咲もなにか歌いなさいよ」

 未咲「いやーそうしたいのはやまやまなんだけど……あっ、ちょっとトイレ!」

 玲香「えっ、そんないきなり?!」


 脈絡もなく、あまりに唐突だったので、つい訝しげに見てしまいそうになる。

 そして、その見方はおおむね正しかった。


 ♦


 ほんとうに個室に来てしまった。することといえばひとつ。


 未咲「とりあえずすっきりしたけど……これからどうしよう……」


 ヘンな汗が流れてきて止まらなかった。そんなに苦手だとは思わなかった。


 未咲「裏返ったりしないように、ちょっとここで練習……」


 完全にフラグだった。


 ♦


 未咲「じゃ、じゃぁ歌いま~す……」


 玲香ちゃんのひかえめな拍手が聞こえてくる。それだけでだいぶプレッシャー。


 未咲「ひゃうっ?!」


 急にしゃっくりが止まらなくなってしまった。もうイントロが始まってるのに。


 玲香「未咲、とりあえず落ち着いてこれ飲んでからもう一回やり直しなさい」

 未咲「面目ないです……」


 水が渡されてひとまず落ち着くことはできた。ただ、後戻りはできそうにない。


 玲香「はい、始めるわよ」

 未咲「ちょっと! まだ、心の準備が……!」


 きょうの玲香ちゃんはとにかく容赦なかった。二度目のイントロが流れている。


 玲香「そろそろくるから」

 未咲「わかってるよ!」


 Aメロ前の数小節。いよいよはじまると意識した瞬間、歌詞が視界から消えた。


 未咲「えっと、えっと、歌い出しってなんだっけ?!」

 玲香「よく見なさいよ、ちゃんと書いてあるでしょ」

 未咲「いや、たしかにそうなんだけど……あっあっ」


 直後、下着にみょうな湿り気を感じて、冷や汗が流れた。


 未咲「~~~~~?!」


 もはや裏返った、というレベルじゃない。嬌声にも似たようなものが聞こえる。


 未咲「そんなっ、さっき出したばかりなのに……!」

 玲香「未咲……?」


 玲香ちゃんのクールな視線がみょうに突き刺さった。あきれた顔をしていそう。


 玲香「ちょっと失礼」

 未咲「玲香ちゃん?!」


 まさか玲香ちゃんのほうから、わたしのスカートをめくる日が来るなんて!

 これはこれでちょっとうれしかった……んだけど、やっぱり恥ずかしいな。


 玲香「……こうなる前に予見できなかった?」

 未咲「だ、だってしょうがないよ! カラオケ苦手なんだもん!」

 玲香「無理に歌わせようとしたわたしも悪いけど、まさかここまでとは……」


 とりあえずこれで拭きなさい、とポケットティッシュを渡す玲香ちゃん。


 未咲「うぅ……せっかくの勝負パンツが台無しだよ……」

 玲香「念のため聞くけど、たんなるカラオケを何かと勘違いしてないかしら」


 これからは控えたほうがいいのかもしれないと、少しでも思ってしまった。

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