第3話 電車で人違い

 玲香「へぇ、そんなことがあったのね……」


 聞いてみれば、未咲はやっぱり未咲だった。


 ♦


 未咲「あっ、玲香ちゃんだ! おーい!」


 電車通学に切り替えてすぐだった未咲。

 無理もないと言いたいところだけど、間違う相手がよりによって幼馴染。


 ??「(えっ……誰、この子……)」


 じとりとした目を向けてしまうわたし。名前はあゆみ


  歩「(一音もあってないんだけど……みょうになれなれしいし……)」


 にこやかな笑みを絶えずこちらに見せてくる。いや、というかほんとうに誰。


  歩「(訂正してあげたいけど……とりあえず様子見してみよう……)」


 下手に真っ向から否定してしまうと、相手がどう出るかわからない。

 大恥をかかせることにもなりかねない。どこかで気づいてくれるのを待とう。


 ♦


 それからあれこれ適当に話をかわすも、一向に気づく気配がない。


  歩「(どこで判断したんだろう……もしかして、この長い髪とか……?)」


 女の勘で、なんとなく彼女にはそういう友達がいそうだと感じ取れた。


  歩「(きっとそれで勘違いしたのね……うふふ、かわいい……)」


 いとしささえ見つけだすまでに、わたしの中ではこの子に親しみを感じていた。


  歩「(しかしこのお嬢さん、ずっと表情崩さずにぱにぱして話すなぁ……)」


 疲れたりしないのだろうか。わたしだったら途中でだれてしまうかもしれない。


  歩「あの……」

 未咲「あっ、もう駅に着くね。玲香ちゃんも降りるでしょ?」

  歩「えっと、失礼ですけど……人違い、されてませんか?」

 未咲「……ん?」


 このひとことで、彼女の表情がいっきに凍り付くのを感じた。

 どこかで気付いてくれると思ったんだけど、まさか目的駅を過ぎてもとは。

 さすがに言わないとまずいと感じて、単刀直入に言ってしまった。


  歩「わたし、乗り過ごしちゃったんですけど……」

 未咲「失礼しましたぁっ!」


 顔から火が出るとはまさにこのこと。わたしは全力で詫びてひとり駅を降りた。


  歩「お話がたのしくて、つい降りるの忘れちゃった……」


 ♦


 玲香「声とか、どこかで気づく要素あったでしょうに」

 未咲「ほんとうにそうだよね……ぱっと見で思い込むのってよくないよね……」


 心の中で、玲香ちゃんにも全力で詫びた。

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