愛。

 目が覚めたよ。


 何もない廃工場に君は立っている。

 それに向かい合っているのは私だ。


 なんで君は泣いているの?

 私の手足の感覚はないけれど、体は動かないけれど。

 君にこうして会えているのに。


 君は持っていた物を取り落として、ゆっくりと私に近づいて来た。

 そして、君は私を力強く抱きしめてくれた。

 突然のことで一瞬、体が強張ってしまったけれど、とても心地の良い抱擁で、暖かくて、優しかった。


 私は君にちゃんと会えたよ。

 ちゃんと君を愛して、君に愛されているんだよ。


 君の愛し方は随分と不器用だけれど、そんな君が私は好きなんだよ。


 だから、泣かないで、謝らないでね。

 縋るような想いは声に出なかったけれど、君がすすり泣く声が小さくなってくれて嬉しいよ。


 君が泣くところなんて私は見たくない。


 ごめんね、なんだか疲れちゃったみたい。眠くなっちゃった。


 君の頬にキスをした。君は満足そうに笑っていた。


 ごめんね、最期に君の髪を撫でようと思ったけれど。


 私には、もう、手も足も無いから。


 私の血で緋色に染まった君に触れることはできないんだ。




 ごめんね、おやすみ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Fear 家々田 不二春 @kaketa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ