第35話 虎の穴(上)
前略 賀茂課長お元気でしょうか。
マニラは新型コロナウィルスのため,ロックダウンされており,24時間,外出するためには許可証が必要です。
最近,子供の頃に夢中になったテレビアニメをYouTubeで視聴するようになりました。私のお気に入りはタイガーマスクです。これをフィリピーナに見立てたコメディを書いてみましたので,気が向いたらお読みください。
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「虎の穴」は,カミングウェイ原作「タイガーピーナ」に登場する悪役フィリピーナの養成機関である。フィリピン共和国の首都マニラのトンド地区にあるスラム街に本拠を置く。総本部には,翼を生やした巨大なハイエナのモニュメントが建てられている。
日本,香港,中東など,世界中のフィリピンパブの盛んな国に支部がある。
日本支部は東京の「国際貿易センター」の中にあり,「マニラ芸能社・ミスX事務所」と名乗っている。英語の正式名称は,「Hyena's Cave Co., Ltd」であるにもかかわらず,なぜか「『虎』の穴」と呼ばれている。それは,かつてイギリスに実在したプロレスラー養成機関の通称「Snake Pit」(蛇の穴)と「後漢書『班超伝』」の「虎穴に入らずんば虎子を得ず」に由来するものと思われる。
ハイエナは実に狩りが上手い。天敵はライオンや虎などの肉食動物である。
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「虎の穴」の本部では,フィリピン中からスカウトされたワイルドで気が強く,マネーに対する執着心旺盛なフィリピーナたちに「10年計画」で地獄の猛特訓を施して淘汰し,強靭で強欲なフィリピンパブ嬢(KTV嬢)に育て上げる。
主人公であるタイガーピーナいわく,そのトレーニングの過酷さは,前期5年の基礎訓練の段階で,全体の3分の2がファミリーの元に送り返されるほどで,これに耐えて生き残った者にはOJT(実施訓練)により,恐るべきノルマが課される。例えば,日本では女に相手にされることのない貧乏なスケベオヤジを顧客とするKTVに出勤させられワンセットで10杯のドリンクをおねだりする,同伴してオープンラストを強要する,ファミリーに病気とか事故を定期的に発生させ,ヘルプ名目でカネを騙し取るなどの方法によって,虎の穴に対し,給料および
こうした猛特訓により,次から次へと脱落者が出続けることになり,10年後に生きて卒業できる者はごくわずかだという。
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「虎の穴」という組織の全貌は,カミングウェイの原作では明かされなかったが,その「近況ノート」によると,「虎の穴」は,フィリピンの闇社会を束ねる悪の国際シンジケート「ハイエナ」の一部門であり,「ラスベガスの1年間の収入に匹敵する利益」(ボス談)を上げている。
「ハイエナ」は,悪役フィリピンパブ嬢の育成のほか,ゴーゴーバー,置屋,KTVの経営,立ちんぼの配置,スケベオヤジへの
「ハイエナ」の
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タイガーピーナは,虎の穴での殺人トレーニングをこなす日々の中で,自分と同じような貧しい生い立ちをしたフィリピーナたちに,同じような苦しみを味わわせたくないという思いと,同胞の日本人女性には見向きもされない日本人スケベオヤジに対する憐憫の情を抱いたまま,虎の穴を首席で卒業した。卒業記念にはハイエナのメダルが授与された。
「虎の穴」出身のフィリピンパブ嬢は,常に残虐非道な悪役としての接客しか許されない。彼女らにとって高速ドリンク注文やヘルプ攻撃などの反則技によりスケベオヤジを債務整理や破産に追い込むまで叩きのめせば勝利であり,ワンセットワンドリンクの客しか呼べないようでは,客の反則勝ちとして彼女らの敗北とみなされる。
「虎の穴」から派遣されたフィリピーナは,ファイトマネーと呼ぶ売り上げ(ヘルプ攻撃による詐取金を含む)の50%を上納金として組織に納めなければならず,この掟を破ると裏切り者と見なされ,「虎の穴」出身の刺客から,ピンパブ内で恐るべきいじめを受ける。それは他のフィリピーナに対する見せしめも兼ねており,たとえその刺客のいじめに打ち勝ったとしても,新たな刺客からのいじめが次から次へと繰り返され,ほとんどがPTSDを患って廃人になるか再起不能になる。仮に一命を取りとめても,最後は店外での事故に見せかけて暗殺される。
タイガーピーナももちろんそのことを知っていた。
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タイガーピーナは悪役ピンパブ嬢として,日本の錦糸町でピンパブデビューを果たして以来,スケベオヤジからカネをむしり取るたび後悔の念を抱くようになり,ゴッドに懺悔するとともに,収入の一部を特別養護介護施設へ寄付するようになった。虎の穴への売上の半額という上納金は支払った上で,自分の手取りの範囲内での援助だった。
そうした中,かつてヘルプ攻撃により無一文にさせてしまったスケベオヤジたちが最後の余生を送る私営の貧困老人介護施設「スケベ老人ホーム」の存在を知り,その窮状を救うため,虎の穴に上納する予定の金をその借金返済のために寄付してしまった。
虎の穴はタイガーピーナを裏切り者とみなし,ミスXに命じ,タイガーピーナを倒すための刺客を次々と送って来ることになり,タイガーピーナは陰湿ないじめにあうようになった。
タイガーピーナは,刺客たちのいじめ攻撃にあいながらも,客のオヤジたちを守り続ける。裏切り者となったからには,せめて「スケベ老人ホーム」の老人たちに恥じない接客をして,これ以上ピンパプでの犠牲者を出したくなかったからである。
悪役ピンパブ嬢からフェアプレーで接客する正統派スタイルへ転向したものの,当初は身についたラフプレーが抜けきらず,またフェアプレーの接客では強力な刺客との売り上げ競争には勝てないため,苦闘の連続だった。酔客の目を盗んで無断でドリンクを注文するなどの隠し技を使うこともあったが,亀戸黄門にあっさりこれを見抜かれ,以後封印する。
やがて,ウルトラ・タイガー・ドロップ,ウルトラ・タイガー・ブリーカー(フジヤマ・タイガー・ブリーカー),タイガーVなど,独自の必殺技を開発することによって売り上げを伸ばしていく。
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小説のエンディングでは,ミスXによって人質にされた老人(亀戸黄門)を救出すべく単身本部に乗り込んだ。頓さん,
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