第41話 童話「アビ」(下)

     *****愛の国

 その頃,アビの元に胸にレジスターの付いた不思議な怪獣「マネゴン」が現れ,とある場所へと案内します。マネゴンの不思議な力により,アビは,オヤジたちに見つからることなく,「ウルトラピーナの星」に辿り着きます。

 そこには幾千種類もの時計が愛(Love)を刻む不思議な場所です。

 アビを出迎えてくれたのは,「マネゴンの母」という銀髪のほっそりとした老女でした。

 マネゴンは,オヤジたちからアビを守るためにマネゴンの母が遣わせたの使徒でした。マネゴンは30分先の未来を見通す力を持っていて,そのためオヤジたちに見つからずに済んだのです。

 マネゴンの母はこれまでの出来事を知っていて,オヤジたちについて説明してくれました。彼らはジャパゆきさんと呼ばれる過去のフィリピーナたちにカネをむしり取られて無一文になった挙げ句見捨てられたことによって生まれた亡霊で,若いフィリピーナを支配するため,同じ目に遭った多くの仲間が集まったのだと教えてくれました。

 さらにフィリピンスタイルでいうところの家族愛とは何かについて,謎解きを通してアビに教えます。ファミリーに対するラブは,ヘルプという名前で誤魔化したマネーという意味でした。しかし,ファミリーのいないアビは非常に敏感かつ客観的に家族愛というものを捉えており,真の家族愛の意味を理解することができるだろうということで,マネゴンの母はアビをここに連れてきたのでした。

 さらにここは全ての愛(Love)の源で,マネゴンの母はそれを人間たちに配っているのだといいます。マネゴンの母は見せたいものがあるといって,アビを愛(Love)の源に連れていきます。

 そこでは,愛(Love)が美しい花として絶えず咲いては散ってゆき,数え切れないほどの色のハーモニーを作り出しています。後からそこは,アビの心の中であることを教えられ,アビは愛(Love)とはヘルプでもなく,ましてやマネーでもないと悟ります。

 アビは,マネゴンの母に,マビニ通りのフィリピーナたちにこの花を見せていいかと聞きますが,マネゴンの母は,ダメだと言います。しかし,「帰りたくなるまでここにいていい。」と言われました。

 アビは頷き,眠りに落ちるのでした。


     *****フレンズは誰もいなくなった

 目が覚めると,そこはいつものマビニ通りでした。

 しかし,アビが「ウルトラピーナの星」で見たことは全て本当のことで,夢ではないと知ります。アビはあの時に聞いた歌を自分で歌うこともできます。辺りを見渡すと,マネゴンも一緒でした。マネゴンは,アビが望んだからついてきたのだといいます。

 アビは見てきたことをフィリピーナたちに早く話したいと待ち望んでいましたが,誰も会いに来てくれません。これには理由がありました。アビは一日しか経っていないと思っていますが,こちらの世界では一年が経過していて,その間にオヤジたちがピッポやパッポを洗脳してアビを悪魔の使いだとだまし,会わせないようにしていたのです。

 他のフィリピーナたちに関しても,各バランガイ(地区)ごとに「ピーナのハウス」(House of Pina)と呼ばれる建物を作り,ヘルプしなければならないファミリーがいるフィリピーナは皆ここに収容され,家族愛を貯蓄するため,ゴーゴーバーなどに働きに出ていたのです。その実態は,スケベオヤジのための置屋でした。アビはこの事実をマネゴンから聞かされますが,信じられない気持ちで一杯でした。

 すると,アビが寝泊まりしていた路上の電柱にパッポからの手紙が貼られていました。その手紙には,オヤジから指名のなくなったパッポは夜の世界から足を洗い,引っ越してトロトロ(安食堂)を始めたが,アビのことが心配なので,会いに来てくれれば,事情を話すと書かれていました。

 アビは翌日,パッポを訪れます。しかし,仕事に追われるパッポとはほとんど話ができず,それでも何とかピッポの連絡先を教えてもらい,後日ピッポを訪ねようと決心しました。

 アビはピッポが変わってしまったことを知って悲しくなり,さらにマネゴンもいなくなってしまったことに気が付きます。

     *****

 アビは悲しみに暮れマビニ通りに戻りました。ピッポを探し始めたところ,数か月経ってようやくピッポを見つけることができました。

 久しぶりに再会したピッポはアビを歓迎してくれますが,独身の彼女にはオヤジの指名が多いため,忙しく,アビが自分の話したいことを一方的に話すと,すぐにいなくなってしまいました。ピッポも何かに追われるように神経質になっていて,昔のようにはもう遊べないのだといいます。そうならピッポがお世話になっている「ピーナの家」に連れていってほしいとアビがお願いしますが,その途端,ピッポはアビを残して,磁力にひかれるように「ピーナの家」に吸い込まれてしまい,アビは一人残されました。

 そこにオヤジが現れ,フィリピーナたちを返してほしければ今夜マビニ通りの日本料理屋「纏」《まとい》の2階で会って話そうと持ち掛けられました。そこを待合場所にしたのは,そこがマビニ通りで唯一オヤジが喫煙できる日本料理屋だったからです。アビはフィリピーナを取り戻したいと思う一方で,オヤジたちと会うのが怖くてたまりませんでした。

 何かないかとマビニ通りを端から端まで歩いた後,気づけば遠くまで来てしましました。疲れたところで止まっているジープニーの荷台で束の間の睡眠をとります。すると,起きた時にはジープニーは動き出していて,アビは慌ててジープニーを降りました。

 ここでようやく恐怖に打ち勝ち,マビニ通りに戻ってオヤジたちと会うことを決心しました。しかし,このままでは指定された時間までにマビニ通りに戻るのは無理だと思って「トラフィックとレイニーだから間に合わない!あたしはここよ!」と叫びます。

 すると,目の前にオヤジたちが現れ,待ち合わせ場所までトライシクルで送ってくれました。日本料理屋「纏」の2階に着くと,オヤジは,先日,アビをピッポと切り離してしまったのは自分の仕業であること,フィリピーナと違い,きちんと時間を守ろうとするアビが遅刻しそうになっていたので助けるために現れたことを自白しました。

 オヤジは,アビに,マネゴンの母に会わせるよう要求しました。これに対してアビは,もし案内するとしてもマネゴンがいないと辿り着けないと話します。すると,日本のオヤジたちは一斉にマネゴンを探し始めるのでした。

     *****愛(Love)を取り戻す戦い

 「これからどうしよう。」とアビが考えていると,マネゴンが帰ってきました。

マネゴンは未来を見通してオヤジたちに見つからないタイミングでアビのところに戻ってきたのです。そしてマネゴンの母のところに戻るために,二人はまた歩き始めます。

 しかし,オヤジたちはアビたちの動きに気が付き,後をつけます。マネゴンは未来を見通すことはできますが,自分の背後までは見えません。

 ウルトラピーナの星に着くと,アビは眠ってしまいました。目が覚めると,後をつけてきたオヤジたちによって星が包囲されていることを知ります。

 オヤジたちは星には近づけませんが,手がないわけではありません。オヤジたちの持つ葉巻は,奪った家族愛(Love)の花びらをむしりとり,灰色にかたくなるまで乾燥させることで作られています。オヤジたちはそれを吸うことで生き永らえていますが,その煙は死んだ愛(Dead Love)であり,生きている愛(Living Love)に混ざって人間がこれを吸うと,FSLBウィルスに感染し,やがてFSLBに貯蓄した家族愛が凍結されることになります。 オヤジたちは,愛(Love)の源に葉巻の煙を吹きかけると脅します。

 このピンチに,マネゴンの母はある作戦を考えていました。

 マネゴンの母が眠ると,すべての愛(Love)が消えてしまい,オヤジたちは家族愛を盗めずやがて消滅してしまいます。もちろんある程度の蓄えがあるので今すぐではありませんが,時間の問題です。

 しかし,すべての愛(Love)が消えるとマネゴンの母は目覚めることができなくなるため,誰かに愛(Love)を引き継いでもらう必要があります。

 そこでアビの出番です。マネゴンの母は,1時間だけ咲き続けることのできる小さな愛(Love)の花をアビに渡します。マネゴンの母が眠り,愛(Love)が消えても,アビに渡した愛(Love)の花が1時間だけ咲き続けていれば,愛は復活することができます。1時間以内にアビがすることはたくさんあります。

 オヤジたちは,マネゴンの母が眠り,愛(Love)が消えたことに気が付くと,葉巻の補給が止まってしまうので,慌ててFSLBに設置した愛(Love)の金庫室に向かうはずです。そのときアビは,オヤジたちの後をつけて金庫室の場所を特定し,オヤジたちが金庫室から葉巻を補給する邪魔をして一人残らず消滅させなければなりません。さらに金庫室に閉じ込められた家族愛を開放して,初めて作戦は完了となります。

 アビはなかなか決心がつきませんでしたが,マネゴンも助けてくれるということで了承し,マネゴンの母が眠ると同時に作戦が始まるのでした。

     *****プロローグ

 ウルトラピーナの星に侵入した日本のオヤジたちですが,すぐに愛(Love)が消えていることに気が付き,慌ててFSLBに設置した愛(Love)の金庫室に瞬間移動しようとします。アビもマネゴンの助けを借りて後を追いかけます。

 道中,アビはようやくピッポを見つけますが,過労により愛(Love)が止まっているせいで鉄のように固くなり,会話どころではありません。アビはピッポを置いて先を急ぎます。

 アビはようやく金庫室の入口にたどり着きました。そこには愛(Love)を貯蔵する大きな金庫がありました。そこでオヤジたちは少しでも生き延びようと人数を減らすことを決め,コイントスの判定によってその人数を六人にまで減らします。

 金庫の扉は開いていて,冷凍庫から冷気が逃げているため,愛(Love)の花は溶け始めています。人数が減ったせいで愛(Love)の花を凍らせておくには冷気が足りませんが,しかし,とても一時間では溶けません。

 そこでアビはオヤジたちに見つからないように,マネゴンの母から預かった愛(Love)の花を金庫の扉に触れさせると,扉はアビの力で動かせるようになり,,金庫の扉を閉めることができました。これでオヤジたちはもう愛(Love)を補給することはできません。

 扉を閉めようとするアビに気が付いたオヤジたちは,アビの持つ愛(Love)の花を奪おうと追いかけますが,奪う前に全員力尽き消えてしまうのでした。

 安心したのも束の間,アビはさらに愛(Love)を開放しなければなりません。マネゴンの母から預かった愛(Love)の花で金庫の扉を開けると,中はまるで温室のように温かくなり,愛(Love)が再び息を吹きかせします。と同時に,嵐が起こって愛(Love)の花はそれぞれ持ち主の元に帰っていきました。

 マネゴンに別れを告げようとする間もなく,アビもこの嵐によって飛ばされまっした。

 アビが意識を取り戻すと,そこはマビニ通りで,いつもの電柱の下にはピッポがいました。二人は再会を喜ぶのでした。話したいことは二人とも山ほどありました。

 マビニ通りのKTV嬢たちは,再び元の木阿弥の暮らしに戻りましたが,それが誰のおかげなのか知る由もありませんでした。

 マビニ通りに戻ったアビの元には,再び話を聞いてほしいというKTV嬢たちがみんな集まり,再会を喜ぶのでした。

 めでたし,めでたし

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