Read your life
アリクイ
午前二時、自室にて
モニターに映っているのは、とあるブログの記事。一昨年に最後の更新があってからは長らく放置されているこのサイトに僕は果たして何度訪れているのだろうか?自らの愚かしさに思わず苦笑いを浮かべつつ、それでもまた目を通さずにはいられない。
『スカルゴンから写メきた!』
そのようなタイトルが付けられた記事のど真ん中には、一枚の画像が掲載されている。いかにも安そうな長袖の英字Tシャツとジーンズを身に着け、某有名ホラー映画のそれを模したマスクで顔を隠した男……学生時代の僕だ。
あるとき悪質な荒らしが湧いたのをきっかけに、僕と当該ブログの主である白川ユリはコメントではなくメールで会話をするようになった。荒らし自体はそれから程無くして大人しくなったが、それでも個人的なやり取りは続き、そんな中で「姿が見たい」と言われた際に送ったのがこの写メである。彼女は顔も見たがっていたが、過去の僕にはそこまで晒す勇気がなかったことを今でも覚えている。
……さらに次の記事、そしてまた次の記事へと読み進めていく。まだ中学生だったユリによって綴られた文章は、内容の多くを学校での友人とのやり取りや勉強のこと、それにお気に入りのメイクや服に関する話、あとは多感な時期だったからだろうか、詩のようなものが占めている。そんな中に僕と話したことへの言及が混ざっているのを見つけるたびに、彼女に抱いていた感情の残滓が胸の奥できらりと光る。
……しかしある日の更新を境に、そのような記事は完全に姿を消した。普段の柔らかな雰囲気を纏った文章とはまるで異なる悲しげで重苦しい言葉の羅列。それを前にして、僕はあの日の事を思い出す。
もし彼女の想いに少しでも気付いてやることが出来ていたら……いいや、違う。僕は薄々感づいていて、その上で傷付けたのだ。物理的な距離だとか、歳の差だとか、そんな下らないものを言い訳にして。
再びリンクをクリックし、ユリの足跡を辿る。暫くはネガティブな投稿が続くものの、じきに何事もなかったように日常に戻り、着実に彼女は人生を進めていく。新たな出会いに卒業、高校進学……そして数年が経ち、彼女が大学に上がると同時にぱったりと更新は途絶えた。
最後の記事に写っていたのは、二人がまだ友達同士でいることが出来ていたあの頃よりも、すっかり大人になった彼女の写真。
……ここから更に時が経った今、彼女は一体どこで何をしているのだろうか?確かめる手段はもう何処にも無い。
Read your life アリクイ @black_arikui
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