軍事演習

「なんだか変なことになったな……」


 宇宙の人々がシェーヴィル同盟と交渉をするために巨大な船に乗って惑星イクスへとやって来た翌日。サイは昨日と同じ草原に立って呟いた。


 昨日、空から降りてきた巨大な船に腰を抜かさんばかりに驚いていたシェーヴィル同盟の文官達は、何とか落ち着きを取り戻すと交渉役である数人の宇宙の人々と交渉を開始した。しかしシェーヴィル同盟と宇宙の人々の交渉はやはりと言うべきか難航して、サイは昨日の交渉の様子を思い出す。


 宇宙の人々の要望は簡単にまとめると「我々は大陸の西半分、貴方達が暗黒領域と呼んでいる地域を開拓する予定で、その間シェーヴィル同盟の領地で使っていない土地を貸してほしい」というものだった。


 しかし国民全員が巨大なゴーレムトルーパーに乗って領地を巡っているシェーヴィル同盟に言わせれば、現在使っていないからといって土地を貸せるはずがない。更に言えば暗黒領域を開拓するという言葉はシェーヴィル同盟の文官達だけでなく、隣で聞いていたサイ達も不可能だと思った。


 大陸の西半分、暗黒領域に生息しているモンスターは全て、大陸の東半分にある人類の生息圏に出現するモンスターと比べてはるかに強力である。その力はモンスターに対抗するための兵器、ゴーレムトルーパーと同じか、あるいはそれ以上だったりする。


 これまでにも惑星イクスにあるいくつもの国家が暗黒領域を開拓する計画を何度も立てて実行したが、その全てが失敗していた。暗黒領域は人の手に負える場所ではなく、そこからやって来るモンスターを撃退して人類の生活圏を死守するのが限界というのが惑星イクスの人類の考えである。


 だからシェーヴィル同盟の文官達が、宇宙の人々の言葉は嘘で最初から自分達の領地が狙いだったと疑っても、それは無理もない話だった。


 その後は「私達は暗黒領域を開拓する予定で侵略をするつもりはない」と宇宙の人々が言い、それをシェーヴィル同盟の文官が嘘だと否定するやり取りが何時間も続いた。


 やがて宇宙の人々は「ならば我々が暗黒領域を開拓できる力がある事を証明する」と言い出して交渉の日の翌日、つまり今日宇宙の人々による軍事演習が行われることになった。そしてその演習にサイ達「キマイラ」も参加することになったのである。


「確かに変なことになりましたけど、宇宙の方々の戦力が見られるのですから結果的にはいいことではないですか」


 サイの呟きに彼の隣に立つピオンがそう言うと、彼女はランの方へ視線を向ける。


「なにしろ宇宙の方々の軍事力についてはランさんも知らないのですから」


「え……? ご、ごめんなさい。宇宙では貴族や軍属の人以外には軍の情報は秘密になっていて……」


 ピオンの視線に気づいたランが申し訳なさそうに言うと、離れた場所から重々しい機械の起動音が聞こえてきて、ピオンが音が聞こえてきた方を見て呟いた。


「どうやら準備ができたようですね。あれが宇宙の方々の兵器ですか」

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