情報の有無

「まさかゴーレムトルーパーの開発にそんな理由があったなんて……」


 ブリジッタの呟きはこの場にいる全員の気持ちであった。


 モンスターを倒せるのはゴーレムトルーパーだけだという認識は現代でも同じである。しかしそれは単に「現代にある兵器で唯一モンスターに有効な兵器がゴーレムトルーパーだけである」という理由にすぎない。


 もしこれこら先の未来に、ゴーレムトルーパーより強力で効率の良い新兵器が登場すれば、何も知らない人々はゴーレムトルーパーから新兵器へと乗り換えるだろう。そうなれば人類とモンスターの戦いは、人類が不利になってしまうことも十分にあり得る。


 ブリジッタはそんな未来を恐れると同時に、前時代の研究の専門家でありながら前文明の人類がゴーレムトルーパーを開発した理由を知らずにいたことに悔しさを感じた。


「……ピオンさんは何故今のような話を教えてくれなかったのですか?」


「だって聞かれませんでしたし。それに……」


 どこか恨みがましい表情のブリジッタの言葉にピオンは当然のように答えると、自分の横にいるサイの右腕に両腕を絡めて抱きついた。


「前文明のことを話したらブリジッタさんに質問攻めにされるじゃないですか? そうなったらマスターと一緒にいられる時間が減ってしまいますからね。マスターも私のおっぱいを触れなくなったら寂しいですよね?」


「そうだな」


 サイの右腕に抱きつき自らの乳房を押しつけるピオンの言葉に即答するサイ。


 流石はサイ……ではなく巨乳好きな馬鹿。このような場、しかも目の前に婚約者が二人いても自らの欲望を口にするのをためらわないのは、見上げたスケベ根性と言えるだろう。


「……! でしたらサイさん。わ、私のおっぱいを好きにしてもいいですから、その後でピオンさんを貸してくださいと言ったら貸してくれますか?」


『『………!?』』


 ピオンの言葉により悔しさと前文明への好奇心を刺激されたブリジッタが顔を真っ赤にしながら大胆な発言をすると、それを聞いたサイとピオンが驚いた表情となる。


「サイの奴め……! ピオンさんとブリジッタ様の巨乳美女からあんな羨ましいことを言われるとは……殺してやりたいくらい憎らしい……!」


「全くだ……! サイの野郎、巨乳の婚約者どころか知り合いもいない俺への当て付けか? 八つ裂きにしてやりたいくらい怨めしい……!」


 ブリジッタの大胆発言を聞いた驚きから硬直するサイの姿を見て、ビークポッドとジェラード……巨乳好きな馬鹿二号と三号が小声で話し合う。ちなみにこの時の巨乳好きな馬鹿二号と三号のサイを見る目には、殺気にも似た怒りの光が宿っていた。


 ゴーレムトルーパーを五機保有し、現代の惑星イクスで上位の戦闘力を持つ特殊部隊「キマイラ」。その最大の敵はモンスターでも、敵対国のゴーレムトルーパーでもなく身内同士の衝突かもしれない。


「全く……。いつまでも馬鹿な話をしないの」


 ビークポッドとジェラードの会話を聞いていたマリーが頭が痛いという表情で二人を止めると次にランを見た。


「それで? 宇宙の人達はゴーレムトルーパーしかモンスターを完全に倒せないことを知っているの?」


「えっ? ええと……分かりません。そんな話は聞いたこともありませんでしたし。……でも、軍のデータベースだったら情報が残っているかもしれません」


「そう……」


 マリーの質問にランが戸惑いながらも答えると、それを聞いたマリーは何かを考えるような表情となり、それに気づいたクリスナーガが彼女に話しかける。


「マリー、一体どうしたの?」


「ちょっとね……。ゴーレムトルーパーだけがモンスターを完全に倒せるという情報。これを宇宙の人達が知っているかどうかで、向こうが地上にやって来た時の状況が大きく変わるんじゃないかと思ったのよ」


「それは……確かにありそうですね」


 クリスナーガに答えたマリーの言葉にランが顔色を少しだけ悪くして頷く。宇宙にはモンスターは存在せず、事前の情報では知っていたが実際に自分の目で見た時感じた恐怖を思い出したのだろう。


 宇宙の人類達も惑星イクスへやってくる事を計画している以上、当然モンスターのことも調査はしているだろう。しかしそれでも宇宙から来た人類が実際にモンスターを目にした時、どの様な反応をしてどの様な決断を出すのか、同じ場所から来たランにも分からなかった。

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