無茶としか言えない要求

 この場にいる全員の視線が板状の機械に集まるが、当然ながら板状の機械はそれに反応すること無く感情のない男の声で話を続ける。


『まず最初に私達と貴方方の祖先は八百年以上昔まで同じ惑星イクスで暮らしていました。しかしある日、人類の天敵であるモンスターの出現と新種のウィルス……病の発生という二つの災害が重なり、人類は惑星イクスで生きるのが困難となりました』


『『………っ!?』』


 板状の機械が語る真実。前文明が滅亡した理由がモンスターの出現だけでなく新種のウィルスの発生も関係してあることに、モンスターの出現は知っていたがウィルスの発生は知らなかったビークボッド、マリー、ジェラードの三人が明らかに驚いた表情となる。


『惑星イクスで生きるのが困難になると、当時の人類は二つの決断を下しました。

 一つは惑星イクスに残り、モンスターとウィルスの猛威と戦うという道。そしてもう一つは惑星イクスを捨てて宇宙に新たな居住空間を作り、そこで生きていくという道。

 そして前者の道を選んだのが貴方方の祖先、後者の道を選んだのが私達の祖先なのです』


『『……………』』


 板状の機械から聞こえてくる言葉を聞いて、この場にいるほぼ全員が疑うような、あるいは苛立ったような表情を浮かべているのを見てランは内心で呟いた。


(やっぱり皆疑っているよね。上手いことを言っているけど、実際は宇宙の人達が自分達だけで逃げ出したんじゃないかって)


 ランの予想は当たっており、同時にこの場にいる全員が感じた疑問もまた的中していた。


 板状の機械から聞こえてくる声は、惑星イクスに残った人類があたかも自分達の意思で残ったように言っている。だが実際は宇宙に逃げた人類に切り離されて、モンスターやウィルスの脅威と戦いながら惑星イクスで生きるしかなかったのだ。


 その事実は宇宙で暮らしている者達は過去の歴史として全員知っており、宇宙から来たランは、この板状の機械にメッセージを録音した人間はわざと地上の人々を挑発しているのではないかと思った。そしてランがそんな事を考えていると、板状の機械はこの場にいる者達を更に挑発するに等しい言葉を放った。


『我々が惑星イクスを離れて八百年以上経ち、ウィルスの猛威は去り、モンスターの危険度が大きく下がったことが最近の観測で確認されました。これは地上の皆さんの努力によるもので、私達宇宙に生きる者達はお礼を申し上げます』


 板状の機械から聞こえてくる形だけのお礼の言葉に、この場にいる全員が不機嫌そうな雰囲気となるが、板状の機械から聞こえてくる言葉はまだ終わりではなかった。


『そしてこの事実を知った我々の同胞の一部が惑星イクスへの帰還を希望しております。つきましては地上の皆さんが所有している土地の一部を我々にお譲りしていただきますようお願いいたします』


 板状の機械から聞こえてきたのは、今まで必死にモンスターと戦いながら生きてきた惑星イクスに生きる人類にとって、無茶としか言えない要求であった。

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