屋敷での会話

「あれ? サーシャ達は?」


 サイ達がフランベルク三世からの命令でイーノ村に帰省した翌日。サイの屋敷に居候しているランは、サーシャやサイ達の姿が見えないことに気づき、広間にいる者達に聞いた。


 現在サイの屋敷にいるのはランと、彼女と同じ士官学校でサーシャの友人であるアミーナとカレン、クロエを初めとするクリスライドの部下達。彼女達はそれぞれが国の命令でサイの屋敷に居候している者達であった。


「サーシャさん達だったら昨日、陛下の指示で故郷に帰ったじゃないですか」


 屋敷の広間にはアミーナとカレンの姿があり、アミーナがサイ達がイーノ村に帰省したことを言うとランは思い出した顔となって口を開く。


「ああ、イーノ村! そう言えばそうだったね。……イーノ村かぁ。私、行ったことがないんだよね」


 ランはフランメ王国の住人ではない。いや、それどころか惑星イクスの住人と言うのも少し違う気がする。


 前文明がモンスターの発生とウィルスの蔓延によって崩壊した時、一部の生き残りが宇宙にある居住施設へ避難した。ランはその前文明の生き残りの子孫であり、惑星イクスの国々の調査をする為に宇宙からやって来たのだ。


 フランメ王国に潜入する際にランは辺境のイーノ村、つまりはサイとサーシャの生まれ故郷の出身であると偽っていたのだが、彼女は実際にイーノ村に行ったことがなく、それを白状する発言にアミーナとカレンは呆れた顔となる。


「ラン……。貴女、『元』がつくとはいえ諜報員でしょう? そういう基本的な情報はしっかり把握しとくべきです」


「え? あはは〜。そ、そうかもしれないけど、もういいじゃん? 諜報員なんてやっていないんだし……」


 カレンの言葉にランは頭をかきながら誤魔化そうとするが、それを聞いたアミーナがため息を吐いて反論する。


「いいわけないでしょう? ランの故郷のことは国家機密なのよ。幸いクロエさん達は出かけていたからいいけど、カレンも軽々しくその事を言わないで」


「う……。ごめんなさい」


 アミーナに注意されて自分の不注意に気づいたカレンが頭を下げる。


 現在カレン達は買い出しに出ており、ランが諜報員であることは彼女達には秘密とするようアースレイより言われていた。


「分かってくれたらいいのよ。……でも確かにイーノ村は最近、観光地として開発されたらしいから、私も行ってみたいかな?」


「へぇ、そうなんだ? それじゃあやっぱり私も行ってみたかった……ん?」


 謝罪をするカレンを見てアミーナが話題を変えようとイーノ村のことを口にして、それにランが反応した時、玄関の方から来客が屋敷の扉を叩く音が聞こえて来た。


 来客は王宮からの使者であり、その目的はランを王宮へと迎える事であった。

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