理解の限界

「それでいきなりこんな大人数で帰ってきて、一体どうしたんだ?」


「実は父さんと母さんに伝えることがあって帰ってきたんだけど……母さんは?」


 サイは父親の質問に答えたところで辺りを見回す。しかし屋敷の中はサイ達しかおらず母親の姿は見えなかった。


「母さんは村の主婦達の集まりに顔を出しているが……」


 そこまで言ってサイの父親は一度言葉を切り、期待するような目をサイに向けた。


「もしや伝えたいこととは、リューラン家の当主になる気になったということか? それだったら手続きに必要な書類は既に用意しているが……」


「い、いや。そうじゃなくて、俺はまだ当主になる気はないから」


「……そうか。……そうか」


 期待するような父親の言葉にサイが慌てて言うと、サイの父親は心から残念そうな表情となる。それを見てサイは少し前にヴィヴィアンから聞いた、自分がリューラン家の当主になることを一番望んでいるのが父親だという話が本当だったと実感した。


「では伝えたいこととは一体何なんだ?」


「うん。実は俺とブリジッタとクリスナーガ、正式に結婚することが決まったんだ。だからその報告に」


「………!?」


 サイが父親に結婚が正式に決まったことを言うと、その相手であるクリスナーガとブリジッタが頭を下げて、それを見たサイの父親が驚愕の表情となって絶句する。


「け、け、結婚!? お前がブリジッタさんとクリスナーガさんと!?」


「うん。そうだけど?」


 いくら息子の結婚が急に決まったとはいえ、ここまで驚いた顔になるのは変だと思いサイが首を傾げていると、サイの父親は焦ったように言った。


「お、お前、これがどれだけ重大なことか分かっているのか? ブリジッタさんとクリスナーガさんの二人と結婚するということは、フランメ王国とアックア公国の両方の王族の親類となるということだぞ!? 今は伯爵家とはいえ少し前まで辺境の名ばかりの男爵家のリューラン家が!」


 父親の言葉を聞き、サイは何で自分の父親が驚き焦っているのかを理解した。ドランノーガを手に入れてからは自国と他国の王族や地位の高い人達と触れ合う機会が増えて感覚が麻痺していたが、本来はサイの父親のような反応が普通なのだろう。


「そ、そうなるね」


「そうなるねって、お前は……」


 父親が焦る気持ちは理解できたがどう答えたらいいか分からずサイが言葉を濁して返事をすると、サイの父親は脱力したように肩を落とした。


「……それでそちらの少年は? 確か初対面だと思うが?」


 サイの父親はなんとか話題を変えようと初めて見るクリスライドに話しかけると、声をかけられたクリスライドは背筋を伸ばして大きな声で返事をした。


「はい! 俺はクリスライド・ミストと言います! サーシャさんの婚約者候補で、今日はお義父さんとお義母さんに挨拶をするためにやって来ました」


「…………………ナヌ?」


 クリスライドの言葉にサイの父親はしばらくの間固まり、それからサーシャの方を見た。


「……この子がサーシャの婚約者?」


「うん、そーみたいー。それでクリスライド君はー、ミスト王国の王子様でー、私達と同じー、ゴーレムトルーパーの操縦士なのー」


 父親に聞かれてサーシャはそれに頷き、更にクリスライドがミスト王国の王子でゴーレムトルーパーの操縦士であるという情報も加える。すると……。


「……………!?」


 サイの父親は理解の限界を迎えて白目を向いて気絶した。

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