父親の苦労

 イーノ村が避暑地となって変わったのはサイとサーシャの実家……この場合はリューラン伯爵家の屋敷も同じであった。


 以前は村人の家と大差ないみすぼらしい家であったが、今では宿泊用の屋敷より少し大きいくらいだが、王都リードブルムにある貴族の屋敷と同じくらいの屋敷となっていた。


「サイ、サーシャ、お帰り。そしてご友人の皆さんもようこそ」


 突然帰ってきたサイ達を驚きながらも迎え入れてくれたサイの父親は、貴族らしい仕立ての良い服を着ていたが、その顔は若干やつれているように見えた。


「と、父さん? ちょっと痩せた?」


「いや、まあ……。最近いろいろあってな……」


 驚いた表情となって言うサイに、サイの父親は苦笑いを浮かべる。


 この一年くらいの間はサイの父親にとって怒涛の展開と言えた。


 サイが士官学校を卒業して帰ってきたかと思えば、実家の蔵からピオンというホムンクルスの女性とドランノーガというゴーレムトルーパーを発見して、それから一月もしないうちに何故か隣国のアックア公国に留学するという話となり。


 サイとピオンがアックア公国に留学している間にフランメ王国から、リューラン家がフランメ王国とアックア公国両方の伯爵になったという話が来て、続いてサイ達が世界的に有名な黒竜盗賊団を討伐したという報せが来た。


 黒竜盗賊団を討伐した功績でサイがクリスナーガとブリジッタと婚約することになり、王都まで行ってその婚約パーティーに参加してようやく帰ってきたら、今度はフランメ王国とアックア公国両方のトップがイーノ村までやって来て、イーノ村をフランメ王国とアックア公国の共同管理地域としてリューラン家をその管理者とすることを発表した。


 フランメ王国とアックア公国がイーノ村を共同管理地域にすると発表してすぐに両国が大勢の大工達が送られてきて、状況を整理する間も無くイーノ村は避暑地へと作り変えられていく中、サーシャがドラトーラを使いモンスターを撃退したりサイが「キマイラ」に配属になったという報せが来た。


 次から次へと予想も出来ない出来事が続く上、伯爵となった以上は最低限の貴族のマナーを学ばなくてはならなくなったサイの父親は、精神的な疲労が続いてやつれて見えるのもそのせいであった。


 よく物語で予期せぬ幸運により出世する展開はよく見られるが、それには相応の苦労がつきまとうのがサイの父親を見るとよく分かった。サイの場合はピオン達という補佐をしてくれる人材がいてくれたが、サイの父親にはそれがいなかったのでその苦労はサイの比ではないだろう。

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