イーノ村の変化

「ここは本当にイーノ村なのか……?」


 イーノ村の変わり様を見たサイ達は、実家に帰る前にまず村人達の様子を見に行くとこにして、そこでの光景を前にサイは今日で何回目になるか分からない疑問を口にした。


 イーノ村の村人達の家は全て改築されており、貴族の屋敷とまではいかないが王都の住民達が暮らす家と同じくらいに立派な家にと変わっていた。


「それは仕方がないと思いますよ。今のイーノ村は一応避暑地ですからね。いくら宿泊用の屋敷が立派でも周囲の村人達の家がボロボロだったら景観が台無しで意味がありませんから」


 周囲を見回して呟くサイにヴィヴィアンが声をかける。


 確かにヴィヴィアンが言うことももっともなのだが、見るべきものなんて何もなく住民全てがボロボロの家に住んでいた辺境の寒村で生まれ育ったサイからすればここがイーノ村だとはとても思えず、どこか別の村に間違って来てしまったと言われたほうがまだ納得がいくのだった。


 そんな事を考えながらサイが歩いていると、周囲の村人達がサイ達の姿に気づく。


「おい。あれってサイ様達じゃないか?」


「あっ、本当だ。サイ様だ」


「サイ様。お帰りなさい!」


 イーノ村の村人達はサイ達に気づくと全員が歓迎してくれるのだが、サイはそれに大きな違和感を感じた。


「サイ……『様』?」


 サイが覚えている限り、イーノ村の村人達がサイのことを様付けで呼んだことはなかった。彼は村長の息子で「倉庫」の異能を使って村の仕事を手伝い、村人達からそれなりに慕われている自覚はあったが、それは貴族ではなく村長の息子に対する信頼で貴族の子息に対する信頼ではない。


 しかし今の村人達はまるで尊敬する貴族を見るような目でサイを見ていて、様をつけて名前を呼んできたのだ。


「別に不思議ではないと思いますよ。何しろイーノ村の村人にとってはマスターは恩人ですから」


 戸惑いを隠せないサイに、悪戯が成功したような笑みを浮かべたピオンが村人達に手を振りながら言う。


「俺が恩人?」


「そうですよ。イーノ村を避暑地にする時、村人達の家の改築費用のほとんどをマスターの財布から出しましたから」


「えっ? 俺の財布から?」


「そうですよ。これまでマスターは数多くのモンスターを退治して、国から報酬金をいただいてます。ですがマスターはお金の使い方が分からないからって、私に預けていましたから、ここで使わせてもらいました」


「そうだったのか……」


 言われてみればサイは自分の財産の管理をピオンに任せっきりで、彼女はそれの一部を村人達の家の改築に使用したらしい。


 イーノ村の村人達からすればサイは一番の出世頭であり、ピオンの言う通り自分達の暮らしや住む場所を向上させてくれた恩人である為、見る目や呼び方も変わったのも当然の事と言えた。

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