村人達の希望

「ここがあのイーノ村ー? 随分と変わったねー。陛下が言っていたのってー、これのことだったんだねー」


 イーノ村を驚きの表情で見るサーシャの言葉からサイ達は先日のフランベルク三世の言葉を思い出す。


 帰省命令を出した時フランベルク三世はイーノ村を見れば驚くと言っていた。確かにここまでの変わりようを見せられれば驚くなと言う方が無茶な話だろう。


 ちなみに表向きは貴族の避暑地となったイーノ村はこの後、建前ではなく本当にフランメ王国とアックア公国の王族、それに近しい貴族に避暑地として利用されるようになる。その事実によりフランメ王国とアックア公国の貴族達から、ここで余暇を過ごすことがステータスとなる高級観光地になるのだがそれはまた別の話。


「いやいや、変わりすぎだろ? 秘密を守るためにイーノ村避暑地にしたのは分かったけど、フランメ王国とアックア公国の共同管理地域になってからまだ一年も経っていないのにどうして……」


「それは国の力でしょう? フランメ王国もアックア公国も共同管理地域にすると決めたらすぐに腕の良い大工の方々を大勢イーノ村に送っていたみたいですし」


 サーシャの言葉を聞いて疑問の声を上げるサイに答えたのはピオンで、前文明の知識と記録を持つ彼女から見て、現代の大工達は建築の速度「だけ」は前文明の建築業者にも負けていなかった。流石に前文明に存在していた高層ビルのような建築物を建てることは無理だが、この時代の「腕の良い」大工とは「超人化」の異能を初めとする様々な異能を使う重機顔負けの労働力のことで、彼らの手にかかれば短期間でイーノ村を一から作り直すことも可能である。


 だがその為にはフランメ王国とアックア公国から見ても決して安くない多額の費用が必要だ。サイは生まれ変わったイーノ村の姿から、フランメ王国とアックア公国の両国の、イーノ村の隠されている生鉄の樹の秘密を守ろうとする本気度を感じ取った気がした。


「まあ、良かったじゃない? こうしてイーノ村が豊かになったってことは、村人達の暮らしも良くなったんでしょう?」


 クリスナーガがサイに声をかけてからヴィヴィアンに質問をすると、ヴィヴィアンは誇るような笑みを浮かべて頷いた。


「はい。それはもちろん。イーノ村の住人の方々は村の景観の維持や屋敷の手入れをしているそうです。皆さん、最初は慣れない仕事で戸惑っていたようですけど、国からもお給料が出るようになりましたし、生活も豊かになっているそうですよ」


「本当か? それは良かった」


 ヴィヴィアンの言葉にサイは安堵して笑顔を浮かべる。フランベルク三世やバルベルトばするとは思えないが、一からイーノ村を作り直したことでそれまで住んでいた村人達が追い出されたり、あるいは自分達から出て行ったりしていないのか不安だったのだ。


 安心するサイにヴィヴィアンが声をかける。


「村人の皆さんはマスター殿に非常に感謝しているそうですよ。イーノ村がここまで豊かになったのはマスター殿のお陰だと知った村人の皆さんは、マスター殿が早くリューラン家の当主になることを期待しているみたいです」


「いや、それはちょっと気が早すぎないか?」


「ですが一番マスター殿がリューラン家の当主になることを望んでいるのはマスター殿のお父様ですよ」


「父さん……」


 ヴィヴィアンから聞いた村人達の希望に苦笑を浮かべるサイだったが、実の父親も同じことを希望していると聞かされて言葉を失うのであった。

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