変わり果てた故郷

 サイ達がフランベルク三世からイーノ村への帰省命令を受けた翌日。荷物をまとめてドランノーガ、ドラトーラ、グレドプテラの三機のゴーレムトルーパーに乗ってイーノ村に帰ってきたサイ達だったが、そこで見た光景にサイは思わず呟いた。


「嘘だろ……? これが、あのイーノ村だって?」


 邪魔な岩などが撤去され、丁寧に刈り揃えられた芝生。


 石畳で舗装された通路と、その両隣に植えられた街路樹。


 小さくて人が住んでいる気配はないが、それでも一目で手入れがされているのが分かる数軒の屋敷。


「何だこれ? 一度も行ったことはないけど、まるで貴族が利用する避暑地みたいだ」


「みたいだ、ではなく本当に貴族の避暑地ですよ、マスター殿」


 サイの呟きに答えたのは彼の後ろに立っていたヴィヴィアンであった。


「ヴィヴィアン? 一体どういうことだ?」


「マスター殿はイーノ村がフランメ王国とアックア公国の共同管理地域となっていて、そうなった理由は覚えていますか?」


 後ろを振り返ったサイがヴィヴィアンに聞くと、逆に聞き返されたので彼はそれに頷いて見せる。


「それぐらい覚えているよ。というかお前が言い出したことだろう」


 イーノ村がフランメ王国とアックア公国の共同管理地域となった理由。それはヴィヴィアンがイーノ村に隠されていた前文明の遺産、生鉄の樹の存在をフランメ王国とアックア公国に知らせたことである。


 生鉄の樹は人間の遺伝子情報に反応してゴーレムトルーパーにとなるナノマシンの集合体ゴーレムオーブを製造する装置で、サイもこの生鉄の樹が製造したゴーレムオーブを見つけたことでドランノーガを手に入れたのだ。


 生鉄の樹は他にも十二本あるのだが、そのどれもが老朽化が進んでいて新しいゴーレムオーブを製造するにはまだ何十年もの時間が必要らしい。イーノ村に生鉄の樹が隠されていることをヴィヴィアンに知らされたフランメ王国とアックア公国の両国は、彼女の提案のままに生鉄の樹が他国に奪われないようイーノ村を共同管理地域として守ることにした。


 その事をサイがヴィヴィアン暗に告げると、彼女はそれに頷いてから口を開いた。


「その通りです。ですが馬鹿正直にこの地を守る基地なんか作ったら逆に他国に怪しまれます。ですからフランメ王国とアックア公国はその偽装としてイーノ村を避暑地にしたのです」


 そこでヴィヴィアンは辺境の寒村から貴族の避暑地にと生まれ変わったイーノ村に視線を向ける。


「現在のイーノ村はフランメ王国とアックア公国の王族、そして限られた貴族しか使用出来ない特別な避暑地という扱いです。そうすることでこの地を秘密裏に信頼できる者達だけで警護しているのです」

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