二つ目の報せ

「随分とはっきりと言うのね。そんなに嫌?」


「同然です。俺がミスト王国のせいでどれだけ迷惑したと思っているんですか?」


 苦笑を浮かべるクリスナーガにクリスライドが即答する。


 最初はいらない子扱いされて辺境に送られ、そこでゴーレムトルーパーを見つけたら見つけたで便利な駒扱いで危険で表に出ない任務をやらされ、それに失敗して捕虜になると即座に暗殺されそうになれば、そう思いたくなるのも無理はないだろう。


 クリスライドの気持ちは痛いほど分かり、この話はここまでだとサイを初めとするこの場にいる全員が思っていたのだが、クリスナーガはまだクリスライドに話しかける。


「でも叔父様……フランメ王国の国王陛下は監督役になればサーシャちゃんと結婚するのに有利になるって言っていたけど?」


「……っ!? それってどういうことですか?」


 クリスナーガの言葉にクリスライドが思わず聞き返すと、彼女は王宮でフランベルク三世から聞かされた言葉を伝える。


「サーシャちゃんはこの国のゴーレムトルーパーの操縦士で、操縦士の結婚は個人だけのことじゃなくて所属している国にとっても大きな意味があるのはわかるでしょ?」


 クリスナーガがそう言うとクリスライドだけでなくサイ達も頷く。


 国の軍事力の要であるゴーレムトルーパーの操縦士が、勝手に変な相手と結ばれてしまったら、それが元でゴーレムトルーパーを他国に奪われるという最悪な未来が生じかねない。だからこそ国の上層部は操縦士を自分達の国に縛りつけておく意味も兼ねて、操縦士の結婚相手を探したりして介入してくるのが当然であった。


「フランメ王国の上層部はすでに国内で信頼できる貴族の家からサーシャちゃんの婚約者候補を探し始めているみたいだよ。そこでクリスライド君がミスト王国の監督役になれば、フランメ王国に協力的に見えるだけじゃなくて、上層部もフランメ王国とミスト王国の関係を強化する為にクリスライド君もサーシャちゃんの婚約者候補に「なります! 監督役!」……おおう?」


 クリスナーガの話の途中でクリスライドが声を張り上げる。クリスライドの表情からはさっきとはうって変わってミスト王国の監督役を引き受けるという意思がはっきりと感じられた。


「そ、そう……。まあ、ミスト王国の監督役を前向きに考えてもらって助かるわ。とりあえずこれで伝えることの一つは終わりね」


「一つは? まだあるのか?」


 クリスライドの気迫に気圧されたクリスナーガの言葉にサイが違和感を覚えて聞くと、クリスナーガは一つ頷いたかと思えば何故か恥ずかしそうに頬を僅かに赤くして口を開く。


「え、ええ……。実は王宮から伝えられた報せはもう一つあって……決まったみたいなんだよね……」


 そこでクリスナーガは一度言葉を切ると、サイとブリジッタの目を見て言った。


「私と、サイと、ブリジッタさんの、結婚が」

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