ミスト王国の監督役は?

「もう自分は関係無いって顔をしてるところを悪いけど、まだ貴方とミスト王国との関係は続きそうよ」


 クリスライドが気楽な調子で言った直後、彼の言葉を否定する声が聞こえてきた。声が聞こえてきた方を見ると、そこには王宮に呼ばれていたはずのクリスナーガがいつの間にか広間にいたのだった。


「おかえり、クリスナーガ。いつ帰ってきたんだ?」


「今さっき。王宮でちょっとした報告を受けたから、急いで伝えようと異能を使って瞬間移動してきたの」


「ちょっとした報告? いや、それよりも俺とミスト王国の関係が続くってどういうことですか?」


 サイの質問に答えるクリスナーガに、嫌な予感を感じたクリスライドが話しかける。すると彼女は少しばかり同情するような表情をクリスライドに向けた。


「ああ……。それなんだけど、実は四ヵ国の会議でミスト王国の監督役をノルド将軍からクリスライド君にしようって意見が出ているみたいなんだよね」


「はいっ!?」


 クリスナーガの言葉に椅子に座っていたクリスライドは思わず立ち上がり声を上げる。この時の彼の表情は驚きの他に明らかな絶望の色があり、どれだけ嫌なのかが分かった。


「ど、どうしてそんな話になったんですか?」


「いや、どうしてって……。クリスライド君は元々ミスト王国の王子でしょ? だからクリスライド君がミスト王国の監督役になったら、向こうの国民達も安心できるかもしれないってことらしいけど」


 必死な表情で聞いてくるクリスライドにクリスナーガはやや引きながら質問に答える。確かにミスト王国の王族である彼がノルドに変わって監督役となれば、ミスト王国の国民達もフランメ王国を初めとする四ヵ国が自分達に無茶な要求はしないと安心するかもしれない。だがクリスライドはその説明では納得できないのか首を横に振った。


「国民達を安心させるのだったら、俺よりもノルド将軍を監督役にしたままの方がいいですって。そもそも俺は『あの』国王の息子ですよ? そんな俺が監督役になったら国民だって安心するどころか逆に不安になりますって」


 実の父親であるクリストミスを名前ではなくあの国王と呼ぶクリスライド。この態度だけでどれだけクリストミスに対して悪感情を抱いているかが分かり、クリスナーガだけでなく話を聞いてサイ達も思わず苦笑いを浮かべた。


「ま、まあ、決定したわけじゃないから。とりあえずはそういう意見が出て、それをクリスライドに言われただけで、一応覚えておいてね?」


「……覚えておきますが、俺は絶対監督役なんかなりませんよ? もうミスト王国に関わりたくないんですから」


 なだめるように言うクリスナーガにクリスライドは渋々とそう答えるのであった。

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