内乱終結

「お前達! 俺はこの国の第四王子だったクリスライドだ!」


 クリスライドは呆然としているミスト王国の兵士達に向かって声を上げ、それによってようやく彼らは意識を彼に向けた。


「クリスライド様……?」


「この国の王子だって?」


「おおっ……」


 ミスト王国の兵士達は自分達の目の前にいるのが自分達の国の王族だと知って、その目に僅かだが希望の光を宿らせる。恐らくは先程のクリストミスと同じように、クリスライドが自分達の力となってこの状況を打破してくれると考えたのだろう。しかし……。


「言っておくが俺はすでにフランメ王国に亡命していてミスト王国の王族ではない。だからこれは命令ではなく警告だ。勝敗は既に決した。お前達はすぐに武装解除をして降伏しろ」


『『………!?』』


 クリスライドは自分の手を胸に当て、フランメ王国の軍服を強調しながら言う。その言葉は僅かに希望を感じていたミスト王国の兵士達を再び絶望へと落として、それを見てピオンはからかうように小声で呟いた。


「あらあら♩ ミスト王国の皆さんってば、お気の毒」


「ピオン、茶化すな。クリスライド君の邪魔はしては……ん?」


 サイがピオンを注意しているとミスト王国の兵士の一人、身なりや雰囲気から他の兵士をまとめ役だと思われる者がクリスライドに食ってかかる。


「そ、そんな! クリスライド王子! 貴方は祖国を裏切るおつもりですか!?」


 ミスト王国の兵士の言葉にクリスライドは僅かに顔をしかめて、それでも冷静さを保ちながら答える。


「……俺は今まで辺境の地に押し込められて、グレドプテラを見つけたら見つけたでいいように使われて、挙句の果てには暗殺されかけたんだぞ。先に裏切ったのは、お前達ミスト王国の方だ」


『『………』』


 静かな怒りを感じさせるクリスライドの言葉から、ミスト王国の兵士達は彼の言っていることが本当だと分かり言葉を失う。その姿を見てクリスライドも落ち着きを取り戻して再び降伏をすすめる。


「もう一度言う。勝敗は決した、すぐに武装解除をして降伏しろ」


「そ、それは……! クリスライド様のグレドプテラさえあればまだ戦えるのでは……」


 クリスライドの言葉に先程食ってかかった兵士が、的外れで図々しいと自分でも分かっていても彼とグレドプテラの力を借りられないかと言おうとする。しかしそれに対してクリスライドは首を横に振るだけであった。


「俺がグレドプテラに乗って戦っても勝てやしないよ。向こうのゴーレムトルーパーは『キマイラ』とノルド将軍のを合わせて五機。しかもその内の一機はグレドプテラと同じく空を飛べるんだから……ほら」


 そう言ってクリスライドが空を指差すと、そこには「通心」の力でここへ来るように言われたヴィヴィアンが操縦するドランノーガの姿があった。空を飛んでこちらへとやって来るドランノーガの姿は、ミスト王国の兵士達の心を折るのに十分な威力を持っていた。


 空を見上げてドランノーガの姿を確認したミスト王国の兵士達は、全員クリスライドの言う通りに武装を解除して降伏し、こうしてミスト王国の内乱は終結したのであった。

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