理解不能な出来事

「あ、あれは……グレドプテラ?」


 突然王都の中に現れたゴーレムトルーパーの姿を見てクリストミスが思わず呟く。あの巨大な翼を持つ竜の背中に戦士の上半身が生えている外見は間違いなく、ミスト王国の領土にあった前文明の遺跡で発見されたグレドプテラであった。


 グレドプテラの姿を見てクリストミスだけでなく兵士達の間にも同様が走る。グレドプテラは他のゴーレムトルーパーと比べて機体が大きく、あれだけの巨体ならば、例え空を飛んで来たとしても誰かが気付くはずだ。


 しかし今まで誰もグレドプテラの接近に気付かず、クリストミスと兵士達はどうやってグレドプテラがここまで来たのか疑問に思うのだった。


「え、ええい! 今はそんな事はどうでもいいわ!」


 クリストミスは頭を振って疑問を振り払うと、急ぎ自分のゴーレムトルーパーへと搭乗する。


 確かにグレドプテラがどうやってここまできたのかは疑問だが、今はそれよりも重要なことがある。


(グレドプテラが帰ってきたということは儂の陣営の戦力が増えるということ。そして空を飛んで地上の敵を一方的に攻撃できるグレドプテラさえいれば、ノルドの裏切り者の力を借りんでもアイゼン王国の奴らを倒すことができるはず!)


 クリストミスの頭にノルドの力を利用しようとした時と同じ、自分にとって都合がいい考えが浮かび上がる。アイゼン王国の奴ら、つまり「キマイラ」にもグレドプテラ同様に空を飛べて、しかもグレドプテラを倒した張本人であるドランノーガがいるのだが、クリストミスはその事を完全に忘れているみたいであった。


 ゴーレムトルーパーの操縦室に入ったクリストミスは早速、外部音声機能を使い自分の声を大きくするとグレドプテラに、そしてそれに乗っているであろう人物に向かって話しかける。


「おお! 我が愛しき息子クリスライドよ! よくぞ帰ってきた」


 クリストミスはグレドプテラに乗っているのが自分の息子であるクリスライドで、彼が何とかアイゼン王国を初めとする四ヵ国から逃げ出し、グレドプテラを回収して帰ってきたと考えていた。


 口では愛しき息子と言っているがクリストミスはクリスライドに対して特に情など持ってはいなかった。しかしそれでもこの状況を打破できる要因であるので親子であることを強調して話しかける。


「お前がアイゼン王国の奴らに捕まって儂は心配で胸が張り裂けそうであったぞ。都合のいい話であるが、国王としてお前に危険な任務を押しつけてしまった儂をどうか許してほしい」


『……』


 クリストミスの演説に対し、グレドプテラに乗っていると思われるクリスライドは無言。しかしクリストミスはそれを妙だと思う事なく話続ける。


「愛しき息子クリスライドよ。危険な任務を押しつけた償いは必ずしよう。しかし今我が国は、裏切り者のノルドや憎きアイゼン王国の者どもによって危機に瀕している。まずは我ら親子の力でこの状況を……おぉぉっ!?」


 クリスライドに向かって演説をしていたクリストミスであったが、その途中で彼の乗っているゴーレムトルーパーが突然煙のように消えてしまう。クリストミスは自分に何が起こったのか分からないまま落下し、受け身を取れずに背中から地面に激突すると意識を失うのであった。

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