ミスト王国の国王

「これは一体どういうことだっ!?」


 ミスト王国の王都の中央にある広場。そこから一人の男の怒声が聞こえてきた。


 広場には黒豹の背中に戦士の上半身が生えている外見のゴーレムトルーパーが立っており、その足元には豪華な衣装の上にマントを羽織って頭には王冠を被った四十代頃の男の姿があった。王冠を被った男、ミスト王国の国王クリストミスは王冠が落ちる程の勢いで苛立たしげに頭を掻き毟りながら周囲にいる兵士達に怒鳴り散らす。


「さっきアイゼン王国のを含めた四機のゴーレムトルーパーが、よりにもよって裏切り者のノルドが潜伏している山に向かって行くのが見えたぞ! 何でこんなにも早く、アイゼン王国の奴らがこちらに手を出してくる!?」


『『………』』


 先程までゴーレムトルーパーに乗っていたクリストミスは、ジェラードが乗るヴォルダートを初めとする「キマイラ」のゴーレムトルーパー四機の接近を確認していた。しかもそれらはノルドが潜伏している山へと向かって行ったのも確認していて、それについて周囲の兵士達に聞くが当然ながらそれに答えられる者などおらず、クリストミスの苛立ちは高まる一方であった。


「クソッ! 裏切り者のノルドだけでも頭が痛いというのに、そこに来てアイゼン王国とその同盟国まで来るとは……待てよ?」


 自分の疑問に答えられずただ恐縮している兵士達から視線を外し、愚痴を言うクリストミスだったが、その時一つの考えが彼の脳裏に浮かんだ。


(これを機にノルドをこちらへ戻すことは出来ないか? どうせアイゼン王国の奴らがやって来たのは、例の理不尽な要求に関することだろう。そんな要求をするためだけにゴーレムトルーパーを四機をよこすような国々だ。きっと我が国から謝罪だ何だと言って根こそぎもっといくはず。それはノルドも分かるはずだ)


 この時クリストミスが頭の中で言った「理不尽な要求」とは、アイゼン王国周辺の暗黒領域でクリスライドに実行させた破壊工作や彼とその部下を暗殺しようとした事等に対する謝罪と損害要求なのだが、彼はそれを脅迫同然の言い掛かりと考えていた。


(ノルドの奴も共通の敵であるアイゼン王国の奴らがこんなにも早くやって来た以上、愚かな戦いをしているべきではないと気付くはず。今頃はアイゼン王国の奴らから無理難題を言われて顔を青くしているはずだから、何とかして使者を送り連絡を取れば共に戦うだろう。……正直、反乱なんかをしたのは許せんが、今は非常時だ。ここは儂の心の広いところを見せて……!?)


 クリストミスがどこまでも自分の都合のいい、妄想とも言える思考を走らせているとその時、広場の近くから突然轟音が起こった。


「な、何だ!? 何が起こった………これは!?」


 突然の轟音がクリストミスが戸惑いながら音がした方を見ると、そこには自分がアイゼン王国へと送り、そして行方不明となったと報告を受けたゴーレムトルーパー、グレドプテラの姿があった。

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