ノルド将軍

 ミスト王国の王都から少し離れた山の中に一つの巨大な影があった。それは豹の背中に戦士の上半身が生えた外見をしたゴーレムトルーパーで、ゴーレムトルーパーの周りには数十人の武装した兵士達が野営をしていた。


 豹のゴーレムトルーパーの足元には、顔中に無数の傷がある逞しい軍人が目を閉じ腕を組んだ姿で立っていて、そこに若い軍人が駆け寄ってくると顔に傷のある軍人が目を開いて若い軍人に話しかける。


「王都の様子はどうだった?」


「はい。今のところ、王都の住人は家から出る事を禁じられていますが、それ以外は特に被害を受けている様子はありませんでした」


「そうか……。あの国王達も住民に手を出せば自分達を守る『盾』がなくなることぐらいは理解していたようだな」


 顔に傷のある軍人はここにはいない者達への悪態を吐いているが、その表情は明らかな安堵の色が見えた。


 顔に傷のある軍人はミスト王国に所属するゴーレムトルーパーの操縦士であるノルド将軍で、周囲で野営をしている兵士達は今回ノルド将軍と共にミスト王国の国王に反旗を翻したミスト王国の軍人達であった。


「しかし今はまだ大丈夫でも、このままでは住民達の負担が大きくなるし、あの国王がまたおかしな事をしでかすかもしれん。それでなくてもあの四ヵ国がいつ動くか分からんのだ。早く何とかしなければ……」


「あの、ノルド将軍? 自分達がしたことは本当に正しかったのでしょうか? その、クーデターなんて……」


 王都がある方向を見ながらこれからどうするべきか考えるノルドに、若い軍人が躊躇いがちに話しかけると、ノルドはその言葉に僅かに苦い表情となって返事をする。


「……確かに。今回のことは強引すぎたかもしれない。他にも国王を止める方法があったのかもしれない。しかしあの時はこれしか方法がないと思ったのだ。あの国王は冗談でもなく本気でアイゼン王国だけでなく、そこと同盟を結んだフランメ王国、アックア公国、ソル帝国に歯向かおうとしたのだぞ? 当然、我が国にそんな力はなく、このまま行けば我が国が逆に四ヵ国によって滅ぼされるのは明らかだ」


『『………』』


 ノルドの言葉に若い軍人だけでなく、話を聞いていた他のミスト王国の軍人達も、自国の国王がとった愚行になんとも言えない表情となる。


「もちろん、私がとった行動でお前達や自国の民達に迷惑をかけてしまったことは悪いと思っている。だからこそなんとしてでも一刻も早くあの国王を……」


「た、大変です!」


 ノルドが若い軍人にそこまで言った時、周辺の警戒に出ていた別の軍人が血相を変えてノルド達の所まで走って来た。


「どうした?」


「な、南方よりゴーレムトルーパーがこちらへやって来ています! その数は四機!」


『『………!?』』


 四機のゴーレムトルーパーがこちらへ向かって来ているという報告に、周りの軍人達は驚きの表情を浮かべるが、ノルドだけは驚くことなく覚悟を決めた表情で呟いた。


「南方から四機のゴーレムトルーパー……。そうか、もう来てしまったか。アイゼン王国を初めとする四ヵ国が……」

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