前日の会話

 空を飛ぶドランノーガとグレドプテラ。この二機は人や馬はもちろん、他のゴーレムトルーパーとは比べ物にならない程の速度で目的地へと進む事が出来たのだが、それでもやはり一日ではフランメ王国からミスト王国まで行くのはむりであった。


 フランメ王国とミスト王国の間にあるアイゼン王国の領地に辿り着いたところで日が落ちてきたので、サイ達は仕方なく近くにあるアイゼン王国軍の砦に宿泊して明日に備えることにした。


「お義兄さんの『倉庫』の異能って卑怯ですよね」


「いきなりなんだよ?」


 砦の一室でサイが体を休めていると、そこでいきなりクリスライドが僅かに悔しそうな顔でサイに言葉を投げかけてきた。


「だってそうじゃないですか? 生き物以外だったらどんな大きな物でも無限に収納できて出し入れも自由な異能なんて便利すぎてもう卑怯じゃないですか?」


 現在この部屋には「キマイラ」に所属するゴーレムトルーパーの操縦士十人が揃っていて、クリスライドがそう言うと同じ部屋にいたジェラードとマリーが納得したように頷いた。


「あー、分かる分かる。俺も最初にサイがゴーレムトルーパーを一瞬で消したのを見た時、そう思ったから」


「私も。ゴーレムトルーパーだけじゃなくて部隊全ての食糧物資を簡単に運んで……。これまで必死に物資を守りながら戦場に運んでいた兵士達のことを考えると卑怯と言いたくなるのも分かるわ」


「いや……。そんな事を言われてもない……。フランメ王国の士官学校では何の役に立たない異能って馬鹿にされていたんだけど?」


 ジェラードとマリーの言葉にサイは戸惑ったような表情となってフランメ王国の士官学校時代の話をすると、部屋にいる人間のほとんどが呆れたような表情となる。


「その話……。前に聞いたことがあるけど本当なのかよ?」


「『倉庫』の異能が何の役に立たないって、そんなわけがないでしょう?」


「ミスト王国の軍隊に知られたら、今頃いろんな戦場に連れ回されてますよ」


「そうでしょう。そうでしょうとも」


 ジェラード、マリー、クリスライドの三人がサイの「倉庫」の異能が凄いと口々に言うと、何故かサイではなくピオンがまんざらでもない表情となって何度も頷いた。


「本当にフランメ王国の士官学校は色々とおかしかったんですよ。マスターを一方的に見下して苛めをするだなんて。今は陛下やクリストファーさんがそんな腐った教師を追い出して立て直してくれてますが、もしそうでなかったら……私、今頃何をしていたか分かりません」


「ピオン。もうそれは終わった事だからな? それより今は明日どうミスト王国の国王を捕まえるか考えような?」


 言葉の最後で表情に暗い影のある微笑を浮かべて呟くピオンに、何やら怖くなったサイが話しかける。そしてサイの言う通り、今この部屋に皆が集まったのは、明日ミスト王国に到着してからの作戦を考えるためだったのだが、そこにマリーが口を挟んできた。


「そこまで難しく考える必要はないでしょう? 作戦なんてもう決まっているじゃない」

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