意外な急報

「はんっ! 全く、迷惑な話だぜ」


 クロエの話を聞いてこの場で唯一のアイゼン王国出身者であり、暗黒領域の一件で一番被害を受けたであろうジェラードが苛立った様子で鼻を鳴らした。その様子にクリスライドを初めとするミスト王国から亡命してきた者達は気まずそうな表情となるが、ジェラードはそれに気づいていないふりをして話し出す。


「要するにグレドプテラの発見はミスト王国にとって千載一遇のチャンスだったんだよ。実際、あのまま暗黒領域での工作を続けられてたら、アイゼン王国はとてもじゃないがスチム公国の手助けをする余裕なんてなかったからな。唯一誤算はあそこにサイ達がいたことだな」


 そこまで言ってジェラードはサイの方へ視線を向ける。


 ジェラードが言う通り、もしサイが「キマイラ」の隊員ではなくて暗黒領域にいなかったら、クリスライドが暴走して戦いを挑んだ挙げ句、敗北して捕まることはなかっただろう。そしてそうなればミスト王国はアイゼン王国が動けない隙を突いて、グレドプテラを加えた全戦力を動かしスチム公国を倒していたかもしれなかった。


「とにかく期待のグレドプテラはクリスライドごと逃げられて、アイゼン王国どころか同盟を結んだ三ヶ国も敵に回したミスト王国はもう終わりだな」


 そう締め括ったジェラードの言葉に全員が同意をして頷く。そしてクリスライド達は、一度ミスト王国に裏切られて暗殺されかけたことから、四つの大国に睨まれることになった「元」祖国に対して同情を懐くことはなかった。


 するとそれまで黙って話を聞いていたピオンが小さく手を上げてから口を開いた。


「あのー? 話を聞く限りミスト王国の上層部って、中々に往生際が悪そうな気がするのですけど、そこまで追い詰めたら変に暴走するのではないですか? クリスライドさんはどう思います?」


「……そうですね。確かに父上、いや、ミスト王国の国王は一つのことに執着すると、視野が狭くなって暴走するところがありました。けど、流石にこの状況で変なことはしないと思いますよ」


 ピオンに聞かれてクリスライドは、実の父親であったミスト王国の国王を思い出しながら答える。しかしいくら何でもフランメ王国、アックア公国、ソル帝国、アイゼン王国の四ヶ国に開き直って攻撃を仕掛けるような自殺行為はしないはずだと彼は言った。


 だがこの時ピオンが口にした予想は意外な形で的中することになる。


 数日後。フランメ王国を初めとする四ヶ国がミスト王国への対処を決める会議をしている最中に、ミスト王国で内乱が起こったという報せが飛び込んできたのである。

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