敵対する理由

『『………』』


 その日の夜。サイの屋敷ではサイ達にビークポッド、ジェラード、マリーの三人も加えた大人数で夕食をとっていたのだが、その食卓の空気は非常に重かった。


 食卓の空気が重たい理由は不機嫌そうな表情で食事を食べているマリーで、いい加減場の空気に耐えきれなくなったサイが恐る恐る彼女に話しかける。


「な、なあ、マリー? いい加減機嫌を直してくれないか?」


「……私は別に怒っていないわよ。ただ、自分の不甲斐なさが許せないだけよ」


((それを怒っているっていうんじゃないのか?))


 話しかけてきたサイにマリーは相変わらず不機嫌……というより拗ねたような口調で返事をして、それを聞いたその場にいる全員が心の中で全く同じ台詞を呟いた。


 少し前。ビークポッド、ジェラード、マリーの三人は、サイの屋敷に泊めてもらう条件として家事の手伝いをしていたのだが、そこでマリーが致命的に家事……特に料理が苦手であることが発覚。


 ソル帝国でも歴史のある貴族の令嬢として生まれ、今まで料理をしたことがなかったマリーは野菜の皮剥きもろくに出来ず、早々と戦力外通告をされると食器を並べる仕事しかさせてもらえなくなった。せめて家事が出来ないのが彼女以外に一人でもいればまだ良かったのだが、不幸なことに彼女以外の全員はそれなりに料理が出来て、それらの事実がマリーのプライドを大きく傷つけて不機嫌とさせたのである。


「……そーいえばさー。ミスト王国ってー、どうしてアイゼン王国にちょっかいを出したのー?」


 マリーの言葉に再び食卓の空気が重たくなると、話題を変えようとサーシャが以前より気になっていたことを質問する。この一ヶ月の間に彼女も、クリスライド達がミスト王国の人間であること、そしてミスト王国が暗黒領域でアイゼン王国を対象にした破壊工作を行ったことは知ったが、ミスト王国がアイゼンを何故そこまで目の敵にする理由までは知らなかった。


 サーシャの質問によってマリーの気がそれたのか、食卓の空気がいくらか軽くなり、その場にいる全員がサーシャに感謝した。そしてミスト王国出身のクロエが皆を代表して彼女の質問に答える。


「それは簡単に言うと、アイゼン王国が長い間『スチム公国』との同盟関係にあるからです」


「スチム公国ー?」


「はい。スチム公国は私達ミスト王国の南方、そしてアイゼン王国の西方に位置する小国で、元々はミスト王国の領土の一部でした。しかし昔、一部の貴族が独立をして現在の国となりました。ミスト王国は長い間、スチム公国を再び自分達の領土に戻そうと何度も戦いを仕掛けましたが、その度に同盟関係にあるアイゼン王国の協力によって阻まれました」


(それって、フランメ王国とアイゼン王国を再び取り込もうとしていた少し前のソル帝国と同じだよな。アイゼン王国がスチム公国に協力しているのも同じ境遇の国を放っておけなかったからかな?)


 クロエの話を聞いたサイはそう考えると、自分の考えがそこまで間違っていないような気がした。


「グレドプテラが見つかるまで、ミスト王国が保有しているゴーレムトルーパーの数は二機でスチム公国は一機でした。ですからアイゼン王国の協力がなければ、とっくの昔にスチム公国を取り込むことができたと考える人間が上層部に多くいて、その為私達に命じたようなアイゼン王国に対する破壊工作をミスト王国は常に計画しているのです」


 サイが互いの国の関係を考えている間に、クロエはミスト王国がアイゼン王国を目の敵にしている理由をサーシャに説明し、暗黒領域で行ったような破壊工作を他にも計画していることを教えていた。

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