一番安全な場所

「それで皆は会議が始まるまで、何処に泊まる気なんだ?」


 とりあえずジェラードがクリスライドに怒りをぶつけることが分かったサイは、ジェラード達に話しかける。


 まだ四ヵ国会議が始まるまで数日の猶予があり、当然ながらそれまで泊まる場所が必要である。王都には一応宿屋や軍の宿舎があるが、それだけでは会議をする為に集まった各国の上層部の人間とそれを護衛する軍人達、そして「キマイラ」の隊員達全てを泊めることはできない。だから泊まる場所を確保できなかった一部の軍人達は、野宿や王都の住人の住居を借りるしかなかった。


「もしよかったら俺の屋敷に泊まらないか?」


「それは助かる。是非泊めてほしい」


「正直、それを期待していたからな。ありがとうよ」


「正直すぎよ、ジェラード。でも本当に助かるわ。ありがとう、サイ」


 サイの提案にビークポッド、ジェラード、マリーの三人は明らかに安堵した表情になって礼を言う。


「どういたしまして。だけどこの屋敷には使用人とかがいないから、食事とかの手伝いはしてくれよ」


「そうなのか? ……まあ、それくらいなら大丈夫だ」


 アックア公国の士官学校時代に、サイが元々は平民同然の辺境の男爵家出身であることを聞いていたビークポッドは、彼の言葉に納得して頷く。すると玄関の方から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。


『お兄ちゃーん。皆ー。ただいまー』


 それは士官学校から帰ってきたサーシャの声で、しばらくすると彼女はサイ達が集まっている広間にやって来た。


「あれー? 今日はーお客さんたくさんいるねー? 初めましてー、サイお兄ちゃんの妹のー、サーシャ・リューランですー」


「ついでに言えばフランメ王国のゴーレムトルーパーの一体、ドラトーラの操縦士だ」


『『………!?』』


 サーシャの挨拶の後でサイが追加で情報を出すとビークポッド、ジェラード、マリーの三人が驚いた顔となる。


「ちょっとー、お兄ちゃーん? それー、言っていいのー?」


「構わないよ。ビークポッド達は俺と同じ部隊『キマイラ』の隊員で、三人のうち二人はゴーレムトルーパーの操縦士だ」


「えー? そうなんだー? いつもサイお兄ちゃんがー、お世話になっていますー」


 サイの言葉に今度はサーシャが驚いた顔となり、彼女は改めてビークポッド達三人に挨拶をする。


「いやいや、世話になっているのはむしろこちらの方だ。ビークポッド・ボインスキーだ。よろしく頼む」


「ジェラード・バウトだ。よろしくな、サーシャちゃん」


「マリー・デオニールよ。少しの間だけどよろしくね」


 サーシャの挨拶にビークポッド、ジェラード、マリーの三人が挨拶を返す。こうしてビークポッド達は、会議が始まるまでの間サイの屋敷に泊まることになり、サイの屋敷はある意味フランメ王国で一番安全な場所となるのであった。

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