サーシャの未来

 ドランノーガ、ドラトーラ、グレドプテラの三機のゴーレムトルーパーで行った巡回任務は特にモンスターと遭遇することなく終わり、巡回任務を終えて王都に戻ったサイは、一人でリードブルムの執政室へと向かうと今回の任務の報告をしていた。


「そうか。クリスライド君はグレドプテラを取り戻してもミスト王国に戻ろうとしなかったか」


「はい。それどころか、以前よりもグレドプテラに対する執着心が薄くなっているような気もしますね」


 巡回任務を終えて王宮の格納庫へと戻ると、そこにいる整備兵達に己の愛機であるグレドプテラを預けてサーシャと話していたクリスライドを思い出しながらサイは言った。これが暗黒領域で出会ったばかりの頃のクリスライドであれば、見ず知らずに人間をグレドプテラに近づけたりはしなかっただろう。


「ほう……。それはやはりサーシャ君の影響なのかな?」


 サイの言葉にフランベルク三世はからかうような視線を彼に向けるが、それに対してサイは少し考えてから苦笑を浮かべて頷く。


「あー……。そうかもしれませんね。魅力的な女性と出会えたらそれまでこだわっていたものがどうでもよくなるなんて、男だったらよくあることですし」


 流石は胸の大きな女性のためならばどんな無茶なことでもしてきた巨乳好きな馬鹿。説得力が他の男とは段違いである。


「なるほど。ではやはりクリスライド君を取り込むにはサーシャ君とくっつけるのが一番というわけか」


「そうですね。俺もそう思います」


「おや? 怒らないのかね?」


 サーシャを道具扱いする発言をしたフランベルク三世は、怒るどころかあっさりと同意したサイを見て意外そうな反応をする。


「怒るも何も、それが取り扱いが難しいクリスライド君の問題を一番穏便に解決できる手段ですからね。あと、サーシャとクリスライド君がくっつけば実家のリューラン家は、ゴーレムトルーパーを三機保有している名家になるっていうメリットがあります。何より……」


 そこでサイは一度言葉を切ると自分の考えを口にする。


「正直な話、サーシャさえよかったら、クリスライド君はいい相手なんだと思うんですよ。サーシャはゴーレムトルーパーのナノマシンの効果で歳も取らない上に長く生きるから、同じ状況の男と一緒なら辛い事は少ないんじゃないかな、と……」


 サイの言った通り、ゴーレムトルーパーの操縦士は最初に乗った時にナノマシンを注入され、死ぬまで外見の年齢を取らなくなる。永遠に若いままいられると言えばいい事だけと思われるが、それには家族や友人、恋人といった親しい人達と同じ時間を生きられないという辛い未来が約束されている。


 サイにはピオン達といった同じ状況の伴侶が複数いるが、サーシャのは今のところそういった相手がいない。だから同じゴーレムトルーパーの操縦士であるクリスライドが妹と一緒になってくれれば、サーシャの未来も寂しくならないのではないかとサイは思ったのであった。

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