突然の任務

「そうか。それは予想外の展開だったな」


「はい。正直、予想外すぎて今でも理解しきれていません……」


 フランベルク三世の執務室で、クリスライドのサーシャへの求婚の件を報告するとフランベルク三世は興味深そうにそう言い、サイがそれに返事を返すとピオンを始めとする四人のホムンクルスの女性達が自分達の主人に同意するように頷く。


「私とカーラがクリスナーガさんのお屋敷にお邪魔している間にそんな事があったんですね」


「あの、不幸のどん底にまで落ちて、世界の全てに絶望していたようなクリスライドがそんなことを言い出すなんてね……」


 ブリジッタとクリスナーガもサイの話を聞いて信じられないといった表情で呟くが、それはサイも同感であった。彼もその場を見なければ、ついでに言えば当事者でなければとても信じられなかっただろう。


「それでクリスライド君は今どの様な様子なのかな?」


「大人しいものですよ。今日だって朝『おはようございます。お義兄さん』なんて挨拶をされましたから」


 フランベルク三世の質問にサイが答えると、フランベルク三世は少し考えてからローゼの方へ視線を向けた。


「ふむ……。ローゼ君はクリスライド君に『読心』の異能を使ったのかね?」


「はい。それはもちろん」


「ではクリスライド君の本心はどうだった?」


「クリスライドさんのサーシャさんに対する恋心は本物でした。そしてサーシャさんの為ならばミスト王国と戦うと言った言葉も。もはや彼には裏切る気がない以前に、ミスト王国のことなんて興味ないみたいです」


 ローゼが自分の「読心」の異能を使ってクリスライドの本心を調べた結果を話すと、フランベルク三世は再び少しの間何かを考えてからサイに話し始める。


「ときにサイ君? サーシャ君はクリスライド君の求婚についてどう思っているのかな?」


「そこまではちょっと……。ただの冗談と思っているかもしれませんが、本当だったとしても、そこまで嫌な顔はしないと思いますよ?」


「ほう? それはどうしてかな?」


「ほんの一、二年前まで俺達は貴族とは名ばかりの辺境の村人でしたからね。そんな所では相手が見つかるだけでも幸運で、貴族とは別の意味で決められた相手と結婚するのが普通でしたから。サーシャも自分に本気で求婚されたら嫌な気はしないでしょう」


『『………………』』


 少し昔のイーノ村のことを思い出しながら言うサイの言葉に、ピオンを初めとするこの場にいる女性達は何とも言えない視線をサイに向けるのだが彼はそれに気づいておらず、フランベルク三世は今の話を聞いて何かを決めたようであった。


「そうか……。ではサイ君。いきなりで悪いが君達にある任務を出したいと思う」

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