予想外の変化

 翌日の朝。目を覚ましたサイが屋敷の食堂に行くと、そこにはすでに起きていたクリスライドの姿があった。


「あっ。お早う、サイさん」


「……ああ。お早う、クリスライド」


 昨日はよく眠れたのか、クリスライドの顔色は今まで見たことがないくらい良くなっており、サイに挨拶をする表情も柔らかくなっていた。その事にサイは内心で少し驚きながらも挨拶を返した。


 結局、クリスライド達をどうするかはミスト王国への対処を決めるフランメ王国、アックア公国、ソル帝国、アイゼン王国の四ヵ国での会議で同時で決めるらしく、それまでの間クリスライド達はサイの屋敷で預かることが決まっていた。しかし今のところクリスライドは大人しいし、クロエやラッセルといった彼の部下達は今もピオンの指示で食事の準備を手伝っているところを見ると、大丈夫だとサイは思った。


 そして朝食を食べ終わるとサイはクリスライド達に向かって話しかける。


「すまないけどクリスライド達にはもうしばらく大人しくしてもらうぞ。大人しくしていたら、俺達も一緒になるけど外を出る許可を出してもいいって、陛下達も言ってくれたから」


 サイの言葉にクリスライド達は全員嫌な顔をすることなく、むしろあからさまに安堵した表情となって頷き、クリスライドが口を開く。


「うん。俺はそれでいいよ。屋敷で大人しくしているのは慣れているから。それよりもサイさん、昨日の話の続きを聞かせてくれない?」


「え? ああ、別に構わないけど」


 クリスライドが昨日は夜が遅いということで途中までしか聞けなかったサイの過去の出来事の続きを聞きたいと言い、サイも特に断る理由がなかったのでそれに頷いた時、屋敷の玄関から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ただいまー。お兄ちゃんー。ピオンさんー。ヴィヴィアンさんー。ヒルデさんー。ローゼさんー。皆ー、帰っているんでしょー?」


「この声は……。ヴィヴィアン、頼む」


「分かりました、マスター殿」


 聞こえてきた声で誰が帰ってきたか分かったサイは、部屋のドアに一番近かったヴィヴィアンに声をかけると、彼女は彼に一礼をしてから玄関へと向かっていった。


「誰? サイさん?」


「昨日話した俺の妹のサーシャだよ。言っておくけど、お前達が亡命者だということは秘密だから。他国からの来客を泊めているってことで話を合わせてくれ」


 クリスライドが聞くとサイはそれに答えた後、彼だけでなくクロエ達にも自分達が亡命者であることは黙っているように言い、クリスライド達はそれに黙って頷いた。するとその直後、サイ達がいる部屋に久しぶりに顔を見るサーシャが現れた。


「お兄ちゃんー、皆ー、久しぶりー。……って、あれー? その人達はー?」


「ああ、久しぶりだな、サーシャ。彼らは他国から来た来客の皆さんで、しばらくの間、この屋敷に泊めることになったんだ」


「へぇー、そーなんだー。私はサーシャ、よろしくねー」


「あ、ハイ。く、クリスライドです。初めまして」


 サーシャはサイの言葉に頷くと目が合ったクリスライドに挨拶をして、自分と歳が近い人と会話したことがあまりなかったのか、クリスライドはそれに若干動揺したように挨拶を返した。


 それからサーシャはサイに話すと同時にクリスライドにも話しかけ、徐々に慣れてきたクリスライドも楽しそうに彼女と話すようになっていった。そんなサーシャとクリスライドを見て、これなら問題は起こらないだろうと安心していたのだが……変化は突然、全く予想外の方向で現れた。




「サイさん……いいえ、お義兄さん。サーシャさんを俺にください」


「クリスライド。お前は突然何を言っているんだ?」

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