クリスライドの異能

 サイはクリスライドに聞かれるまま、ドランノーガを手に入れてから自分の身に起こった出来事を話した。


 ドランノーガの試験飛行でフランメ王国とアックア公国の国境付近にあるアックア公国の街の付近まで飛んだ時、そこを襲おうとしたモンスターの大群を見つけ、ドランノーガの主砲で焼き払ったこと。


 モンスターの大群を退治したことが切っ掛けでビアンカと知り合い、彼女に勧められてアックア公国の士官学校に留学し、そこで黒竜盗賊団を撃退したこと。


 ドランノーガの戦闘能力に黒竜盗賊団を撃退した功績を認められてフランメ王国とアックア公国両方で伯爵と少佐の爵位と階級を与えられ、そのままクリスナーガとブリジッタの婚約者になったこと。


 サイが語るこれまでの出来事はまるで物語のような、普通の人間ならまず経験する事のない出来事ばかりで、クリスライドはそれを興味深そうに聞いていた。その姿は年相応の少年のもので、暗黒領域でグレドプテラに乗って襲いかかってきた時の狂犬のような気配は感じられなかった。


 そしてそんなサイとクリスライドの姿を、ピオンとクロエは二人がいる部屋の外から覗き見ていた。


「あの……。誰なんですか、アレ? 以前とは全く別人なんですけど?」


 ピオンがクリスライドを指差して自分の側にいるクロエに聞くと、彼女は少し戸惑った様子で答える。


「誰……と言われましても……。あれが昔のクリスライド様で、グレドプテラの操縦士となって王宮に呼び戻されるまでは、あんな感じだったんですよ?」


「王宮で一体何があったんですか?」


 クロエの言葉に即座に聞き返すピオンだったが、そう言いたくなるのも無理はないだろう。暗黒領域で戦った時と今の変わりぶりを見れば、クリスライドが王宮で洗脳を受けたと言われても納得できる。


「……クリスライド様は王宮での地位は決して高くなく、早くに辺境の領地に送られてました。そこでグレドプテラを発見して操縦士となり、今まで冷たい目で見てきた人達にいきなり優遇されたのもクリスライド様を変えたのでしょうが、一番変わった理由はクリスライド様の異能でしょう」


「クリスライドさんの異能?」


「はい?」


 クロエは一つ頷くとピオンにクリスライドが持つ異能を説明する。


「クリスライド様の異能は『嘘感知』。相手が嘘をついているかどうかを知る異能で、しかも本人の意思が関係なく常に発動しているタイプなのです。そして王宮の方々は……」


「耳障りがいい嘘ばかりを言って、クリスライドさんを上手く使おうとしていた、と……」


 ピオンはクロエの言葉を引き継いで言うと同時に納得した。


 確かにそんな環境にいれば信じられるのは自分と自分の力であるグレドプテラだけで、性格もあそこまで攻撃的になるのも納得できた。そして今はサイが語る自分以上の苦労話が「嘘感知」の異能で全て真実だと分かり、昔のような性格に戻りつつあるのだろう。

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