帰還の道中

 クリスライド達が生まれ故郷であるミスト王国を捨て、フランメ王国を初めとする四ヶ国へ亡命しようと決めた理由は、当然ながら先日の暗殺である。


 元々クリスライドは王子とは言え何の後ろ楯も持たず、ミスト王国にとって何の価値も無い存在であった。グレドプテラを発見してそれの操縦士になると確かに価値は出たが、今度は今までの反動が一気に出たかのように気が強くなり扱い辛い存在と化した。


 加えて数日前の暗黒領域での命令違反、そしてドランノーガとの戦闘での敗北。これよってミスト王国の上層部はクリスライドを切り捨てることに決め、彼を暗殺してグレドプテラに新しい操縦士を登録させることを考えたのである。


 もはやクリスライドにはミスト王国での居場所はなく、それはクロエやラッセル達も同様であった。彼ら自身、力を持たない下級貴族の家の出身で、彼らだけでミストへ帰っても口封じされる未来しかない。


 ここまで考えてクリスライド……正確にはその補佐であるクロエがミスト王国を捨てて、フランメ王国を始めた四ヶ国への亡命を決めたのである。


「……と、言うわけです」


 アイゼン王国からフランメ王国へと向かう馬車の中でクロエは、同じ馬車の中にいるサイ達に亡命を決めた理由を説明していた。


「なるほど。そういうことか」


 サイはクロエから亡命を決めた理由を聞いて納得すると同時に、何故自分達がクリスライド達の護送役に選ばれたのか、その理由を理解する。


 確かにクリスライド達が亡命を決めた理由は分かるし、嘘ではないのだろう。だがもし万が一に彼らの亡命が嘘であった場合、フランメ王国を初めとする四ヶ国は、自らその懐に密偵を招き寄せることとなる。


 それを防ぐために他者の考えを知ることが出来るローゼや、もしクリスライドが反抗をしても力ずくで止めることが出来るサイに護送任務を出したのだ。


 そこまでは理解できた。命令であるなら従おうと思う。しかし……。


「……………」


 そこまで考えてサイが自分の正面に座るクロエの横を見ると、今回の件の中心人物であるクリスライドと目があった。彼はここ数日まともに寝ていないようで顔色が非常に悪く目の下に大きな隈ができていて、強い負の感情を感じさせる恨みがましい目でサイを見つめていた。


(フランメ王国までずっとこの調子なのかな……)


 クリスライドにとって自分はいくら憎んでも憎みきれない敵であるのは分かるし、任務である以上は彼から離れるわけにもいかない。しかしフランメ王国へ帰るまでの道中、ずっとクリスライドの恨みの視線を受けるかと思うと、サイはうんざりとした気分になるのだった。

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