亡命

 クリスナーガから故郷への帰還命令を伝えられると「キマイラ」の隊員達は、それぞれの故郷へと帰還する準備を始めた。そしてサイを初めとするフランメ王国に帰還する「キマイラ」の隊員達も帰還の準備を済ませたのだが、彼らにはとある者達をフランメ王国まで護送する任務があり、その者達がやって来るまで待機を命じられていた。


「全く、いつになったらくるんですか? いい加減待ちくたびれましたよ」


 サイ達が護衛対象を待つ中でピオンが馬車に背中を預けながら愚痴を言う。すでに待機を命じられてから小一時間すぎており、ピオン以外の「キマイラ」の隊員達にも苛立ちが見え初めてきていた。


「落ち着けよ、ピオン。それよりクリスナーガ? そろそろ一体誰を護送するのか教えてくれないか?」


 サイはピオンを宥めた後、クリスナーガに誰を護送するのかを聞く。以前彼女は、その護送する者達はサイも知っている者達で会えば驚くと言っていたのだが、いくら考えても誰か分からなかった。


「ああ、それね……。実は……」


「すまない。待たせたな」


 クリスナーガがサイの質問に言い辛そうな顔で答えようとした時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。声が聞こえてきた方を見るとそこにいたのはジェラードで、その後には例の護衛の対象だと思われる数人の人影が見えた。


「ジェラード」


「手続きに手間取って遅れた。護衛の件は聞いているよな?」


「ああ、もちろん聞いている。……後にいる彼らがそうなのか?」


「そうだ。……おい」


『『……………!?』』


 ジェラードに声をかけられて彼の後に立つ護衛対象の者達が前に進み出て、その姿を見たサイを初めとした「キマイラ」の隊員達は全員例外無く驚きの表情となった。


 護衛対象の者達、それは暗黒領域で戦ったグレドプテラの操縦士クリスライドと、クロエやラッセルといった彼の部下達であった。


「彼らが私達の護衛対象ですか? ……クリスナーガさん、ジェラードさん。これは一体何の冗談ですか?」


「残念だけど冗談じゃないのよ」


 クリスライド達の姿を見てピオンがそう言うとクリスナーガが困ったような苦笑を浮かべてそう言い、ジェラードも苦い顔をしながら頷いて同意する。


「クリスナーガさんの言う通りだ。コイツらはミスト王国を捨てて俺達の四ヶ国への亡命を希望したんだ」


『『亡命っ!?』』


 ジェラードの言葉が意外だったのかサイだけでなく「キマイラ」の隊員達全員が全く同時に驚きの声を上げて、それに対してジェラードはもう一度頷く。


「そうだ。それでアイゼン王国ではまたミスト王国からの暗殺者が来る危険があるから、一先ずフランメ王国へ護送することに決まったんだ」

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