ミスト王国の不運

「それじゃあ、他の捕虜を殺そうとするのは何でだ?」


「口封じもありますが、こちらの目を逸らす陽動が目的ですね」


「……そんな理由で命を狙われたらたまったものじゃないな」


 サイが疑問を口にするとピオンは何でもないように答え、それを聞いた彼は思わずクリスライドのついでに殺されそうになったミスト王国の捕虜達に同情した。


「それでマスター、どうしますか?」


「どうするも何も王城に向かうしかないだろ? ヴィヴィアン、ヒルデ、ローゼにも『通心』の力で伝えておいてくれ」


「分かりました」


 これからどうするか聞いてくるピオンに指示を出したサイは、彼女と「キマイラ」の隊員達を引き連れてクリスライドが捕らえられている王城へと向かった。これまでの話の流れから今頃クリスライドの命を狙うミスト王国の軍人が王城に忍び込んでいても不思議ではなく、これからのミスト王国との交渉に必要な彼を守る為に急ぐ必要がある。


「全く……。敵のはずのクリスライド達を今度は助けるとか、訳がわからなくなってきたな……」


『『………』』


 サイの言葉はこの場にいる全員が思っていた事で、彼の呟きにピオンと「キマイラ」の隊員達は苦笑を浮かべるのであった。


 惑星イクスの国々においてゴーレムトルーパーは単なる戦力ではなく、政治でも大きな交渉カードとなる。


 どう見ても非はこちらにある外交問題を起こしても、ゴーレムトルーパーの武力で抗議をしてきた相手の国を脅し、抗議を撤回させたという事例も多く存在している。その為、無謀な上に成功してもアイゼン王国、そして同盟を組んでいる三カ国からの非難は免れない作戦を決行してグレドプテラの回収を決断したミスト王国の判断は、決して間違っているとは言えなかった。


 だがミスト王国にとって不運だったのは、今回の件にサイとピオン達が関わっていたことだ。


 サイが「倉庫」の異能でグレドプテラを収納したことで、グレドプテラがまだ暗黒領域にあるはずだと考え、現在必死で探しているミスト王国の軍人達は決して見つけることが出来ず。ピオン達がクリスライドを暗殺する為にやって来たミスト王国の軍人達の記憶を読み、その情報を速やかに味方に共有することでミスト王国の思惑はアイゼン王国に全て知られる事になる。


 そしてサイ達が王城へと向かって数時間後。クリスライド暗殺の為に王城に侵入していたミスト王国の軍人は全て捕らえられることになり、ミスト王国は計画が完全に失敗に終わるだけでなく、この後の国同士の交渉でこれがきっかけで大きな譲歩をアイゼン王国に強いられることになるのだった。

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